「顧客価値の再創造」がデジタル変革のカギを握る 「成功」まで顧客企業に伴走するコンサルの戦略

顧客の「真の課題」に向き合い、解決する
——企業のデジタル変革における重要なポイントは何でしょうか。
山口 デジタル変革を経営戦略と連動させることです。これからのデジタル変革には、社内業務の効率化を目指す「足し算のデジタル化」だけでなく、顧客に新たな価値を提供するための「掛け算のデジタル化」の両方が求められています。それには構想の策定やデジタル技術の実装だけでは十分でなく、顧客に新たな価値を提供し事業の成果を出さないといけません。
——具体的には、どのようなデジタル技術を活用するべきでしょうか。
山口 経営戦略によって異なるという前提の上ですが、機能ごとに4つに分類できます。カメラやセンサーなど現実の事象をデジタル化する技術(Convert)、それらをつなぐ5Gやクラウドのような接続技術(Connect)、人間の思考や合理的な意思決定を支援するビッグデータやAIなどの計算処理技術(Algorithm)、メタバースやVRなど人間の認識能力を拡張する技術(Cognize)です。当社ではこれらを「CCAC」という概念で整理しています。各要素を融合させて活用することで、大きなビジネスインパクトを生み出せる可能性が高まると考えています。

代表取締役社長
山口 重樹氏
——デジタル変革を実現するための方策として、「顧客価値リ・インベンション戦略」を提唱されていますね。
山口 デジタル変革を実現するには、経営戦略の基本となる「誰に、何を、どのように提供するか」まで立ち返って戦略を練ることが重要になります。その戦略における最も大切なポイントは、「顧客の持つ真の課題に向き合い、それを解決すること」です。それが「顧客価値の再創造」だと位置づけています。
わかりやすい例では、ある保険会社が、センサーやウェアラブル端末を活用して、ドライバーに注意を促すサービスを提供しています。これは、事故時の安心だけでなく、事故を起こさず安全に移動したいという顧客の真の課題の解決を、デジタル技術を活用して実現したサービスといえます。現在のデジタル技術を生かせば、パーソナライズしたサービスを顧客が必要とするタイミングでいつでも提供することが可能です。このように顧客が持つ真の課題に向き合った事例は、「顧客価値の再創造」に当たると考えています。
ワンストップの支援で官民のデジタル変革に伴走
——企業が「顧客価値の再創造」を進めるに当たり、NTTデータ経営研究所はどのような役割を果たしますか。
山口 顧客課題と提供価値の見直しや再定義から、デジタル変革を進めるための企画、実装、改善まで、「顧客価値リ・インベンション戦略」にのっとった独自のフレームワークを用いながら、持続可能なビジネスモデルの実現を支援します。
当社の強みは、構想策定からシステムの実装まで、NTTデータグループとしてワンストップで担い、お客様企業の事業に成果がもたらされるまで伴走できるところです。企業のデジタル変革だけでなく生活者の体験の変革のために、企業間や産官学の連携を通じた社会課題解決の支援にも取り組んでいます。
さらに近年は、グローバルの先進的な知見を集約し、海外事例をひもといてそのエッセンスをお客様企業に提供する取り組みも強化しています。その一環で海外の有識者とも連携しており、せんだっては米ダートマス大学タックビジネススクールの教授で、経営学者のロン・アドナー氏と対談し、その模様を動画でも公開しました。

——どのような経緯でアドナー氏との対談に至ったのでしょうか。
山口 アドナー氏は、著書『エコシステム・ディスラプション』の中で、原著のタイトル(Winning the Right Game)が示すように、DX時代に正しい戦略をとることの重要性を説いています。著書を拝読して、われわれの問題意識と共鳴する部分が多いと感じ、対談を依頼しました。
対談の中でアドナー氏は、かつての世界大手写真フィルムメーカーの倒産を例に挙げ、一般的に語られる「デジタル化への転換の失敗」によって倒産したのではなく、ディスラプターが現れた際にエコシステムに与える影響を正しく読み解けていなかったことが原因である、つまり誤ったゲームを戦ってしまったと指摘されました。そうした事例を基に、製品やサービス単独で競争するのではなく、顧客体験の観点から顧客への真の提供価値を正確に理解し、その価値提供のために、一社単独ではなくエコシステムを構築していく必要性について議論しました。
アドナー氏と当社が提唱するフレームワークは、「顧客価値」を起点に置くという点で非常に似ています。顧客がいちばん価値を求める部分を見誤ると、デジタル変革も失敗してしまう。こうした失敗・成功事例といった動向は、国内だけに目を向けるのではなく、グローバルレベルを把握することが重要です。
世界の実情を知りデジタル変革を「成功」に導く
——対談を通して、幅広い人がグローバルの動向や実情に触れる機会をつくっているわけですね。
山口 当社は欧米のビジネススクールの教授らと連携しながら、最新の事例を分析し、情報を公開しています。「日本企業はデジタル変革が遅れている」とよくいわれますが、それは必ずしも正確でなく、海外企業も同様の課題に直面しているのです。そうした中でも、どうすればデジタル変革を成功させることができるのか、グローバルの動向を知っていただきたい。アドナー氏には事業戦略の専門家として登場していただきましたが、今後も毎月のペースでさまざまな領域のエキスパートとの対談をお届けしていく予定です。
——最後にデジタル変革を目指す企業へメッセージとは?
山口 デジタル変革は事業の成果につながってこそ"成功"となります。当社は独自のフレームワークや国内外の事例から得た知見を基に、お客様企業の成功まで伴走します。また、「生活者の課題」を解決するためには、一社だけではなく、異業種や公共領域との連携が求められると思います。私どもの公共領域でのノウハウも生かし、「新しい社会の姿を構想し、ともに『情報未来』を築く」を合言葉に、これからも官民のクライアントの皆様に価値あるコンサルティングサービスを提供してまいります。