米国の警察、消防でケンウッドの無線機が採用増 デジタルへの切り替え需要で米国市場が拡大

拡大
縮小
JVCケンウッドの無線機
米国で今、警察や消防などの公共安全分野で無線機の需要が高まっている。背景にはアナログ無線からデジタル無線への切り替えが進んでいることがあるが、そこで「KENWOOD(ケンウッド)」の無線機が選ばれる機会が増えているという。

北米のデジタルシフトに応じ需要が高まる

「カリフォルニア州サンタバーバラ郡では3100万ドル(約41億円)、バージニア州フレデリック郡では2300万ドル(約30億円)、ペンシルベニア州デラウェア郡では3400万ドル(約45億円)という規模で、当社の無線機の受注が決まっています。そのほかの郡からも引き合いが増えています」と、JVCケンウッド 取締役 専務執行役員 パブリックサービス分野責任者の鈴木昭氏は語る。いずれも警察、消防、救急向けの無線機だという。

JVCケンウッド 取締役 専務執行役員 鈴木 昭 氏
取締役 専務執行役員
パブリックサービス分野責任者 SCM改革担当
鈴木 昭氏

大型受注が相次いでいる要因について鈴木氏は「米国ではアナログ無線からデジタル無線への切り替えが進んでいます。併せて、公共安全市場や民間セキュリティー市場に多額の政府予算がつくようになっており、無線機の需要が急拡大しています」と話す。

デジタル無線はアナログ無線に比べ音質や通信の秘匿性に優れているという特長がある。「米国には3000以上の郡がありますが、アナログからデジタルへの切り替えが継続的に進んでいます。需要はこれからも続くとみています」と鈴木氏は自信を見せる。

外部要因として市場が拡大しているということだろう。だが有望な市場となると競合企業も多くなる。その中でケンウッドが選ばれている理由はどこにあるのか。「業務用無線市場では、公共安全、民間ともに米系のメーカーが強く、約70%のシェアを占めています。当社の現在のシェアは3%程度です(※1)。ただし、長年培ってきた無線機の品質や機能、北米でのネットワークによるきめ細かい対応など、当社独自の強みを発揮することで、支持を広げていけると考えています」と鈴木氏。

ベテランのアマチュア無線家やオーディオマニアなら、ケンウッドの前身の「トリオ」の名前を覚えている人もいるだろう。1980年代には米国で業務用無線機事業に進出したというから、すでに40年の実績があり、代理店ネットワークは現在、北米900カ所に広がっている。同社製品の品質や機能には定評があるが、「大きな転機となったのは、2014年にEFジョンソン・テクノロジーズ(EFJT)を買収したことです」と鈴木氏は振り返る。EFJTは米テキサス州に本社のある無線機器メーカーだが、警察や消防など公共安全市場向けの製品を得意としていた。同社の買収により、この公共安全市場向けの販路が一気に拡大したのだ。

高機能の新製品の引き合いが急増

警察、消防などの公共安全分野では、通信ができないことは命に関わる問題となるため、高い品質と堅牢性が求められる。ケンウッドの業務用無線機は、長年、これらの信頼に応えてきた。また騒然とした使用環境でも確実に音声を伝える強力なノイズキャンセリング機能にも定評があり、これはモータースポーツの分野で培った技術が、公共安全分野でも活用されている。

新しいニュースもある。「23年1月には高機能の新製品『VP8000』を投入しました。発売開始後も問い合わせが増えています」と鈴木氏は紹介する。

「VP8000」は、1台で3つの周波数帯域と2つのデジタル無線規格に対応できるという。1つの周波数帯域しか対応できない従来の無線機に比べ、同一自治体内の警察、消防、救急、さらに学校など民間セキュリティーとも相互通信が可能になる。

VP8000 シームレスな相互通信を実現

競争力のある新製品であることは間違いないが、注目すべきは公共安全市場向けのビジネスモデルだ。「無線端末を使用するためには、端末本体に加えて、アンテナやバッテリー、充電器などのアクセサリーおよび、周波数、チャンネル、プロトコル、暗号化レベル、さらにはGPS、転倒感知、遠隔プログラミングといった追加機能など、ソフトウェアによるオプションが必須です。当社は北米の代理店ネットワークに加え、米国内にR&Dセンターを設置し、各自治体のきめ細かなカスタマイズにも対応しています」。

日本製無線機が北米の防災・減災に貢献

最新機種の「VP8000」をはじめ、米国の公共安全分野向け無線機の製造を担っているのが、山形県鶴岡市のJVCケンウッド山形だ。まさに「メイド・イン・ジャパン」の製品が米国の警察、消防、救急を支えているわけだ。「地政学リスクの高まりにより、セキュリティー面で信頼性の高い日本製品が選ばれる機会が増えています」と鈴木氏は話す。

JVCケンウッドは08年に当時の日本ビクターとケンウッドが経営統合して誕生した。現在、カーナビゲーションや通信型ドライブレコーダーなどが売上収益構成の6割近くを占めるが、収益面では無線システム事業が牽引する。22年10月末発表の連結決算では期初の想定を大幅に上回り、23年3月期の業績を上方修正した。とくに連結営業利益は統合後最高となる見込みだ。

「公共安全市場向け端末の場合、本体価格約30%、基本アクセサリー約5%に対して、ソフトウェアオプションが約65%に達します。もともと値崩れしにくい市場ですが、さらに高粗利販売が可能です」と鈴木氏は説明する。JVCケンウッドの成長ドライバーとしても、無線システムの存在感が増しそうだ。

「拡大する北米公共安全市場で、売上高は現在の4倍の4億ドル(約531億円)、シェア10%を目指します。業務用無線機器など公共安全分野の製品は、防災や減災に貢献します。当社は事業を通じた社会課題の解決に取り組むことで持続的な価値の向上と社会への貢献を図りたいと考えています」と鈴木氏は力を込める。「メイド・イン・ジャパン」の無線機の活躍の場がさらに広がろうとしている。大いに期待したい。

(※1) OMDIAレポート「Licensed Mobile Radio Report 2021」「LMR Infrastructure and Systems Integration Report 2021」を基にJVCケンウッド推計
(※2) 米国の公共安全市場向けに開発された国際的なデジタル無線規格
(※3) デジタル無線の国際規格「Digital Mobile Radio」の略
 
お問い合わせ
株式会社JVCケンウッド
  • 〒221-0022神奈川県横浜市神奈川区守屋町三丁目12番地