新卒3年目に事業を「任せる流儀、任される流儀」 リクルート流人材育成術「仕事が人を育てる」

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
リクルート 佐藤淳哉氏 佐藤主馬氏
「価値の源泉は人」と捉え、時代に即したサービスを打ち出すことで成長を遂げてきたリクルート。個を尊重し、挑戦する機会を与える中で、若い人材を要職に抜擢するケースも珍しくない。実際に現場では、どのように裁量が与えられているのだろうか。入社3年目で事業全体の管轄を任されたメンバーと、任せた上司の対談から探る。

任せるときのポイントは、適切な「アサイン」と「フォロー」

――リクルートは、機会を与え応援する文化があることで知られています。仕事を任せる際、どんなことに気をつけているのでしょうか。

佐藤淳哉氏(以下、淳哉):適切な仕事へアサインすることと、周囲が最適な関与度でフォローすることを意識しています。適切なアサインは、上司がメンバーのWill(本人がやりたいこと・できるようになりたいこと)とCan(現時点でできること)をしっかりと把握したうえで、メンバーの性格やスタンス、環境、ストレッチミッション(背伸びをしてようやく手が届くレベルの役割)への耐性などを踏まえているからこそだと思っています。もし現在の事業領域に適した仕事がなければ、全事業領域をカバーしたポジションリストを確認しながら、別の領域で探すこともありますね。

次に、フォローの仕方です。アサインした後も丸投げにはせず、本人の成長曲線に合わせてフォローの入れ方を随時調整していきます。アサインとフォロー、双方をよくすり合わせて「ベストな任せ方」さえできれば、メンバーは自然に育っていってくれますし、その結果、事業も育つと考えています。

リクルート 佐藤 淳哉氏
佐藤 淳哉氏(上司)
2009年、新卒入社。『カーセンサー』で営業、『ホットペッパービューティー』で企画職や事業責任者などを経験。17年に住まい領域に異動し、賃貸領域や戸建流通領域のプロデューサーを兼任。育休復帰後はリクルート住まいカンパニーの役員を務める。現在は、リクルートの販促領域プロダクトマネジメント室(住まい)室長を務める

――そういったことを意識するようになったきっかけは、何だったのでしょうか。

淳哉:私自身、任され方次第で、仕事へのモチベーションや成果が大きく変わった原体験があるんです。私が『ホットペッパービューティー』で企画者になったとき、事業責任者やマネージャーの間で結論が出ているんだろうなという案件にアサインされ、同じ答えを出せるか試されているような感覚の時期がありました。上司からの「あなたはどうしたいの?」という問いに答えることができない当時のスキルを鑑みて、1人で案件を任せられるようになるまでの育成としてそういうアサインをされたんだと思いますが、そのときの私は、その進め方に前向きになれなかった。どうにかこの状況を打破したいと考え、当時の上司に「この事業にとって何をすべきかを考えるための時間をください」と頼み込んで、就労時間の20%を考える時間に充てる“空白のミッション”をもらったんです。この時間を使って、サービスの機能を充実させるための具体的な事業計画を立てていきました。

仕事が面白くなったのは、ここからですね。自分で頼み込んでやらせてもらったからこそそれまで以上に本気になれたし、自ら立てた事業計画を推進していくことにも、どんどんのめり込んでいった。もちろんこれは「私が成長できた任され方」の事例なので、全員に同じやり方が最適なわけではありません。しかし、誰にとっても「その人にとって最適な任され方」が重要なことは変わらないはず。この体験から「その人に合った任され方・任せ方」の重要性を知りました。

新卒3年目で、組織を動かす大役に抜擢

――適切なアサインのため、どのように本人のWillやCanを把握していくのでしょうか。

淳哉:過去の私のように「どうしたいのか」や、「どうありたいのか」がはっきりしている人もいれば、まだ見つかっていない人も多くいます。そのため、まずはそこを言語化するところから。無理に具体化するのではなく、漠然とでも方向性が定められればいいと思います。その後の上り方も、ステップを踏んで着実にクリアしていきたいタイプや、高い目標を掲げるほうがモチベーションが上がるタイプなど、個人の特性によってさまざまです。主馬の事例で話してもらいますね。

リクルート 佐藤主馬氏
佐藤 主馬(メンバー)
2019年、新卒入社。『SUUMO』の賃貸領域で企画職としてUI・UX施策や、新商品検討を約1年経験。プロダクトマネージャーとして、事業の提携戦略や社内向けの営業支援システムの企画・開発推進に従事した後、現在は『SUUMO引越し』における責任者として、事業計画・戦略の策定、組織マネジメントなどを担当

佐藤主馬氏(以下、主馬):私は自分自身のキャリアに関してWillが明確にあるタイプではなく、どちらかというと「Canを伸ばしたい」「そのとき面白いと感じる仕事を経験したい」というWillを持っています。当時『SUUMO』賃貸領域のプロダクト責任者の配下でプロダクトマネジメントを担当していたのですが、Canを伸ばすためには「小規模なプロダクトでもいいので、自分が責任者として意思決定する経験を積んだほうがいい」とアドバイスされていました。そこで提案されたのが、引越し領域の全体を見る責任者という役割なんです。

打席に立って実感した「任せることの意義」

リクルート 佐藤淳哉氏

ーー実際に、打席に立ってからについて伺います。淳哉さんは主馬さんに仕事を任せるに当たり、どんなことに留意してきましたか。

淳哉:まず、「任せること」と「丸投げすること」は違います。オーナーシップは持ってほしいですが、足りない観点は上司が補えばいいと思っています。その中で、どこまでいったらフォローしすぎなのか、もしくは足りないのか。つねに会話をしながら調整してきました。

主馬:淳哉さんのフォローのおかげもあり、この1年半でメンバーの方への仕事の任せ方はとくに変わりましたね。チーム内では、私が中長期戦略を立て、メンバーが短期施策を推進するという役割分担。しかし、着任当初は短期施策についても私が「このポイントが課題で、来期はここに注力するべきではないか」と、明確に伝えてしまっていたんです。

淳哉:主馬の進め方を見ながら、私は「もっとメンバーに任せたほうがいい」とアドバイスしていました。当時の主馬にとってはチャレンジングだったと思いますが、このままではメンバーの成長と事業の成長、双方のバランスをうまく取れないのでは、と心配していたんです。

リクルート 佐藤主馬氏

主馬:実際、淳哉さんの懸念のとおり、2つの弊害が起こってしまいました。 1つは、短期施策の詳細に入り込みすぎて、私のメインの役割である中長期戦略の策定に注力できなくなってしまったことです。中長期戦略も短期施策も同じ深度で考えることは、実際には難しかった。自分のメイン担当である中長期戦略の策定で満点を目指し、短期施策は思い切ってメンバーに任せないといけなかったんだと思います。 

もう1つは、私の「フォローしすぎ」により、メンバーの成長を鈍化させてしまったことです。メンバーに短期施策について考えてきてもらう場面があったのですが、そこで前年とほぼ同じ案が上がってきたんです。私としては、前年の案を足場にして、マーケットの1年の動きやメンバーの捉えた新しい角度からの見解が織り込まれた案が当然出てくるものだと思っていましたが、そうではなかった。この1年間でメンバーの成長も感じていたため、なぜこうなってしまったのだろう、と困惑しました。さすがにこのときは「何か自分がやり方を変えねば」と強く思いましたね。ここで淳哉さんの言葉の本当の意味が理解できたんです。当時の私のインプットは具体的すぎて、ほぼ指示に近い状態になっていました。結果的に前年の私の“指示”は、メンバーの考える機会を奪ってしまっていた。

そこからは、相手を見ながら相手の考える余地を残すよう意識しました。「このやり方は検討した?」「その数字は何を表していると思う?」と、相手がもう一歩深く考えられる質問を投げかけるように。もちろんその場の状況や相手のコンディション次第で調整していますが、任せ方のバリエーションを持つことの重要性を感じました。

淳哉:このような経験は、年次が上がり担当する業務範囲が広がっていけば誰もがぶち当たる壁。それを主馬には、早めに経験しておいてほしいと思い、3年目という若手のうちに責任を託しました。主馬が責任者になって1年半が過ぎましたが、今ではメンバーに任せる仕事と自分で持つべき仕事の線引きができるようになりました。引越し領域の5〜10年後を考える余裕が出てきたと感じています。

主馬:方向転換してから約半年。やっとメンバーが育ち、その結果事業も育っていくという循環の入り口に立てたのではないかと思っています。淳哉さんが私にしてくれたことを、自分が体感することで、改めて「任せる意義」ってこういうことか、と痛感しましたね。

――淳哉さんが主馬さんに、そして主馬さんもチームメンバーに「任せる」ことで人が育ち、事業が育つ循環ができているということですね。ありがとうございました! 

>リクルートの人材育成・マネジメントの仕組みについてはこちら 

>リクルート 中途採用サイトはこちら