日産×積水ハウス「集合住宅にもEVを」の真意 EVを「買いたいのに買えない」最大の要因は?

購入断念理由の1位は「自宅で充電できない」
EV(電気自動車)への関心が大きく高まっている。その立役者は、日産自動車初の軽自動車EV「日産サクラ」だろう。2022年5月に発表後、4カ月半で受注台数は3万3000台を突破した。21年のEV販売台数は2万1139台※1だから、日産サクラは1ブランドでそれを超えたことになる。日産自動車日本マーケティング本部ブランド&メディア戦略部の松村眞依子氏は次のように話す。
「今までEVに関心がなかった方も、日産サクラを通じて興味を持ってくださるようになったと感じています。日産サクラを見にきて、日産リーフを購入された方もいらっしゃったと聞くほどです。一方で、集合住宅だからEVは諦めてしまう、という声も各方面から聞こえてきていました」
購入を断念する理由として、とりわけ住環境が多く挙がっていたことから、EVと住環境の関連性についての調査※2を実施。EV購入検討者は着実に増えていて、「直近3年以内にEV購入を検討した」が76.8%、「1年以内」は33.7%だった。また、懸念していたEV購入見送りの要因に関しては興味深い結果が明らかになった。
「EVを購入するうえで迷うポイント、購入に至らないボトルネック」で最も多かった回答が「自宅で充電できない(57.8%)」だったのだ。さらに、「集合住宅に充電設備がないと購入が難しい」は88.6%と9割近くもいることが判明した。

「実は、日産リーフをご利用いただいているお客様のほとんどは戸建住宅にお住まいで、集合住宅での充電は難しいという声は以前からいただいていました。ですからある程度はそういう回答があると思っていたものの、9割近くという実態は衝撃的でした」
松村氏が受けた衝撃は、EVの充電インフラに関する認知度の低さを物語っている。EVの充電形態は「自宅充電」と「外出先充電」の2種類だが、現在国内のEV充電器数とされる約3万基という数値は「外出先充電」のもの。実態の不透明さが「自宅充電」の認知度を高まりにくくしているのだ。
※1 (一社)日本自動車販売協会連合会「2021年1月~12月燃料別メーカー別台数(乗用車)」より
※2 EV購入検討者(保有者)、および集合住宅にお住いの30~50代男女400名を対象としたインターネット調査。調査実施期間は2022年10月26日~2022年11月1日。
生活スタイルを劇的に変える「自宅充電」
もちろん、「自宅充電」はEV保有の必須条件ではない。政府は2030年までに15万基のEV充電器の整備を目標に掲げており、今後、さらに「外出先充電」がしやすくなる見込みだ。ただ、「自宅充電」は、そうした従来の「エネルギーを外で補充する」スタイルから脱却できる点で重要性が高い。松村氏は次のように説明する。

松村眞依子 氏
「眠る前にスマートフォンを充電するのと同じ感覚です。リーフオーナーに実施した満足度調査では、『ガソリンスタンドに行く手間がなくなることで、生活スタイルが劇的に変わった』『朝起きるといつも満充電になっているので、走行に不安がない』という回答もありました。EVと住環境の関連性についての調査は、このメリットを戸建てにお住まいの方にしか届けられていないという結果だと受け止めています」
住環境によってEVを諦めてほしくないという願いがある一方で、課題に直面しているのは間違いないと、松村氏は続ける。
「住環境、とりわけ集合住宅住まいだからという理由でEVを諦めない社会を目指すのが、EVのリーディングカンパニーとしての使命だと考えました。当社だけでできることではありませんので、その思いに共鳴いただける企業を探しました」(松村氏)
そうして出会ったのが、積極的にエネルギー収支ゼロを目指すZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及を進めてきた積水ハウスだ。戸建住宅のみならず集合住宅でもZEH化を進め、賃貸住宅でもゼロエネルギーの暮らしを目指す「シャーメゾンZEH」を展開している。
「積水ハウスは、カーボンニュートラル時代の新しいライフスタイルを誰もが選べる社会の実現に向け、業界を超えた連携を推進しています。これまで遅れていた集合住宅におけるEV充電器の設置にも強い関心をお持ちでしたので、タッグを組むことになりました」(松村氏)
始動した「+e PROJECT」の最初の取り組みは、大きく2つ。1つは、積水ハウスの協力のもと日産が取り組む、集合住宅でもEVのある暮らしをシャーメゾンZEHで疑似体験できる「+e 試住」。一般から参加者を募集し、人にも地球にもやさしい新たな生活スタイルを体験してもらう取り組みで、「食体験」「防災シミュレーション」「ペットとの暮らし」の3つを実施する。
「食体験」は、農園へEVでドライブして野菜の収穫をした後、人気シェフによるサステナブルディナーを開催。サステナブルな食材を、サステナブルな調理で味わうという趣向だ。「防災シミュレーション」は、EVとZEHの融合で実現した最先端の防災対策をゲーム感覚で体験できる。「ペットとの暮らし」は、人だけでなくペットの快適も追求した「住・食・アクティビティ」を楽しめるようになっているという。
「実はEVオーナーでペットを飼っている方は多いんです。というのは、ペットも車酔いをするんですね。EVは非常に静かでスムーズな走りなので、車酔いしにくいという声を多くいただきます。ZEH住宅は断熱性が高く、少ないエネルギー消費で温度を保つことができます。ペットにもやさしいので、次世代の集合住宅のあり方としてご提案したいと考えました」(松村氏)
補助金申請も支援する「充電サービス業者」
もう1つの取り組みは、この「+e 試住」の取り組み内容も含め、情報を発信するプラットフォームとして機能する特設サイトだ。EVと暮らしに関わるニュースや、体験者の声などを定期的に配信するほか、集合住宅へのEV充電設備導入方法をわかりやすくまとめている。
「『First Step診断』というコンテンツでは、その名のとおりEV導入に向けた『初めの一歩』に何をすればいいか具体的にわかるようになっています。マンションやアパートなどの集合住宅の場合、1人で物件オーナーに相談するのは非常にハードルが高いと思いますので、充電サービス業者を紹介するページも用意しています」(松村氏)
充電サービス業者は、EV充電設備導入や運用、補助金の申請まで幅広くサポートしてくれる存在だ。集合住宅に実質無料でEV充電器を提供し、充電利用料金で収益を確保するビジネスモデルを展開する業者もある。中には、設置費用や月額費用に加え、電気代も還元してマンション側の費用負担を“オールゼロ”にするプランもあり、空室対策に取り組む物件オーナーにとっても魅力的だろう。
政府は「2035年までに新車販売で電動車100%」を方針として掲げ、EV充電設備に対する補助金も交付してきた。東京都は2022年12月に、2025年度から新築マンションでのEV充電器の設置を義務づける条例を可決している。集合住宅でのEV充電器整備に行政の後押しが増す中で、情報をわかりやすく取りまとめて発信する「+e PROJECT」の取り組みは非常に意義深い。

「集合住宅に住んでいることがEV利用のバリアになっている状況を、『+e PROJECT』で変えていきたいです。そのためにも、ハウスメーカーや、充電サービス業者との連携をさらに広げていきたいと思っています」(松村氏)
カーボンニュートラル実現のカギを握るとされるEV普及。「+e PROJECT」のような業種を超えた企業間連携は、それを後押しするだけでなく、暮らしの中でさらに魅力的な“EVと住環境のあり方”を生み出していくのではないだろうか。