東京都市大学「デザイン・データ科学部」を開設 文系・理系を問わず、未来を切り拓く人材を育成
「デザイン・データ科学部」を横浜キャンパスに開設
「社会の変化が大きく、未来がなかなか予測できない時代になっています。これらの変化に対応し、未来を切り拓いてくれるような、イノベーションを起こせる人材が必要になっています」と東京都市大学 副学長の関良明教授は語る。
同大が2023年4月に「デザイン・データ科学部」(定員100名)を開設する背景の1つはそこにある。「過去の成功体験が通じなくなる一方で、これまで取れなかったデータが収集できるようになってきています。それらのデータを見て、分析しながら未来を構想・設計・構築、すなわちデザインできる人材が求められています」と関教授は話す。
東京都市大学は1929(昭和4)年、武蔵高等工科学校として創立された。49年には学制改革により四年制大学に昇格し、武蔵工業大学となった。2009年、創立80周年の年には、同一法人内の東横学園女子短期大学と統合し「東京都市大学」に校名を変更した。
前身の大学名から工学系のイメージが強いが、理工系学部を有する同大の世田谷キャンパスとは別の横浜キャンパスには、社会科学系の環境学部およびメディア情報学部が設置されており、近年はとくにSDGsへの取り組みなどで、その存在感を高めている。「デザイン・データ科学部」が開設されるのは、この横浜キャンパスだ。同キャンパスには1997年の開設当初から文理融合の文化が醸成されているという。
関教授が指摘するように、産業界・社会で、データサイエンス人材の需要が高まっている。東京都市大学でもこの要請に応え、2020年の入学者からは文系・理系を問わず、すべての学生を対象に数理・データサイエンス教育を展開してきた。21年にはこの取り組みが文部科学省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」にも認定されている。今、改めて「デザイン・データ科学部」を新設する狙いはどこにあるのか。
「本学は19年に創立90周年を迎え、29年には創立100周年を迎えます。これらに向けて、14年から『アクションプラン2030』と名付けた改革事業がスタートしています。そこでは、既存の学部学科の枠を超えた、次の時代のフラッグシップとなる学部の新設も事業の1つに掲げていました」と関教授。まさに満を持しての開設というわけだ。
未来を切り拓くイノベーションを起こせる人材を育成
新設される「デザイン・データ科学部」では、どのような教育が行われるのだろうか。関教授は、「構想段階から、『分析力×創造力=イノベーション力』というコンセプトを掲げてきました」と話す。学部名にあえて「デザイン」が冠されている理由もそこにある。
「急速な変化を続ける現代社会では、既成のパラダイムから脱し、新たなプロダクトやメディア、空間といった『もの』、あるいは新たなサービスや、社会経済システム、ビジネスモデルといった『こと』をデザインすることによって、イノベーションを起こしていくことが求められています」。単にデータを分析するだけでなく、それをビジネスや社会課題の解決のために使いこなすことが大切だと関教授は語る。
「データを分析した結果が必ずしも正解とは限りません。標本となるサンプルやデータの収集方法などについても重ねて検討し、結果を鵜呑みにするのではなく、また経験や勘ではなく、クリティカルシンキング(批判的思考)で向き合うことが大切です」
文理融合の文化が息づいている横浜キャンパスは、そのための教育を実践する場としても適していると関教授は強調する。「理工学部のエンジニアリングを中心とする世田谷キャンパスは『創る』キャンパス、一方で文理融合の横浜キャンパスは創り出されたものを社会に実装し『活かす』キャンパスという位置づけです。学生一人ひとりが文理融合の人材になるのは難しいでしょうが、文理を横断する人材にはなれます。高校では文系・理系に分かれているところも多いのですが、どちらの出身でも文理を横断して活躍できる人材に育てたいと思っています」。
文系出身の学生にも、数学やプログラミング、データ解析、AI(人工知能)などのカリキュラムが用意されているので、データサイエンスを理解したうえで、イノベーションを起こす力を身に付けられるだろう。逆に理系出身の学生は、ソーシャルシステム、経営戦略、金融、プロジェクトマネジメント、ビジネスシステムデザインなどのカリキュラムで、アイデアの社会実装に資するマネジメント力を身に付けることができる。
基礎力、応用力を磨く科目群では外国語・国際教養も重視
「デザイン・データ科学部」の学修内容を詳しく見ていくと、その狙いや思いが見えてくる。科目群は、1・2年次の基礎力を築く科目として「データ科学」「外国語・国際教養」、3・4年次の応用力を高める科目として「ユーザー エクスペリエンス デザイン」「ソーシャル システム デザイン」の大きく4つに分かれている。「ユーザー エクスペリエンス デザイン」は「もの」と「こと」を具体的にデザインする力を、「ソーシャル システム デザイン」は「もの」と「こと」をマネジメントする力を養うという。
この中で注目すべきは「外国語・国際教養」が、基礎力を築く科目として大きく掲げられていることだ。関教授は「ビジネスのグローバル化が進む中で、グローバル人材の育成が急務になっています。本学ではこれまでも、国際的なコミュニケーションや理解を深める能力を養う教育に力を入れてきましたが、新学部ではさらに、グローバルリテラシーやリベラルアーツを身に付け、世界の『もの』と『こと』を読み解く能力を修得させます」とその狙いを説明する。
同科目の中には、英語はもちろん、グローバル教養(文献講読、ディスカッション、クリティカルシンキング、異文化理解)に関するものも充実している。このほか海外留学、海外インターンシップなどの制度も用意されている。
「100名の学生全員が海外留学プログラムに参加します」と関教授は話す。東京都市大学には「TAP(東京都市大学オーストラリアプログラム)」と呼ばれる海外留学制度がある。「デザイン・データ科学部」においても、この制度が活用されるという。一定期間(約4カ月)、オーストラリアの提携校に留学でき単位も認定される。出発までにネイティブスピーカーの講師による週5日の語学準備講座をトータル100日間受講するなど、手厚いサポートが特長だ。どの学生も、グローバルに活躍するための語学力と異文化を理解する力を磨けるに違いない。
同大ではこのほか、世界各国の企業・団体で就業体験をする海外インターンシップ制度などでも豊富な実績がある。
「デザイン・データ科学部」から輩出される人材に期待
データサイエンスのニーズの高まりに応えるように、全国各地の大学でデータサイエンス系学部・学科の新設が増えている。この中で、東京都市大学の「デザイン・データ科学部」はどのように差別化を図ろうとしているのか。
「データ分析・解析にとどまらず、ビジネスや社会課題を見据え、『もの』と『こと』をデザインできる、イノベーションを起こせる人材の育成を目指しているという点では、ほかとは一線を画すと自負しています。各界で経験を積んだ実務家も含む多彩な教員による特色あるカリキュラムにも自信があります」と関教授は話す。
「デザイン・データ科学部」の入学定員100名に対し、教員の数は17名と手厚い。そのうちの半数以上が実務家や企業経験者で、理論だけでなく実務を視野に入れた教育も行われる。また、授業と学外での就労体験型学修を組み合わせる「COOPプログラム」、企業や組織が直面するさまざまな課題について、チーム体制でその解決を目指す「キャップ ストーン プロジェクト」なども実施される予定だ。
「デザイン・データ科学部」から輩出される人材について関教授は、「学部卒業後、半数以上は大学院に進学すると想定しています。本学では、学部と大学院が直結した新学院を構想中で、優秀な学生は入学から5年で修士の学位を取得することが可能です。学部、大学院の卒業後には、データサイエンティストだけでなく、プロデューサー、プランナー、マーケターなど、未来を切り拓くこれらの職種でも活躍してくれると考えています」と話す。
国内ではジョブ型採用も話題となっている。専門知識を持ちながら、社会にイノベーションを起こしてくれるような人材が「デザイン・データ科学部」から生まれそうだ。「既存の企業だけでなく、自分でスタートアップ企業を起こすような気概を持った学生が出てくることを願っています」と関教授は語る。
4〜6年後に「デザイン・データ科学部」からどのような人材が社会に飛び出し、活躍してくれるか、今から大いに楽しみだ。