「ネット検索でポイント」マイクロソフトの真意 「ワークデイ コンシューマー」の急増も背景に

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日本マイクロソフトの有園氏と山岸氏
マイクロソフトは、2022年7月からポイントプログラム「Microsoft Rewards(リウォーズ)」を開始している。同社の検索エンジン「Microsoft Bing(ビング)」で検索するとポイントが貯まる仕組みだ(※)。よくあるポイント経済圏戦略かと思いきや、ポイントは大手ECサイトのギフト券に交換できるほか、共通ポイント事業者や家電量販店などとの連携も視野に入れているという。なぜ他社に「送客」するのか。施策を推進する担当者に聞いた。
※Microsoftアカウントにサインインし、Microsoft Bingで1回検索するごとに3ポイントが貯まる。Microsoft Edgeブラウザーの使用やMicrosoft Storeでのオンライン購入でポイントを獲得することもできる。

米経済学者「個人データを使うなら還元すべき」

――ネット検索でポイントが貯まる「Microsoft Rewards」を始めた理由は何でしょうか。

山岸 これは、マイクロソフトがMicrosoft Bing(以下、Bing)を提供する理由ともつながっています。Bingは、マイクロソフトの企業ミッション「Empower every person and every organization on the planet to achieve more.(地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする)」を実現するWebサービスです。あらゆる人や組織をエンパワーするには、情報を適切に探せる検索エンジンが必要だと考えて開発されました。

Bingは2009年に提供開始し、2022年時点でPCの検索エンジンにおける国内市場シェアは約16%まで拡大しさらに成長を続けています(StatCounter調べ)。ここで原点に立ち戻り、よりエンパワーするにはどうすればいいか検討し、ユーザーの消費活動を広げる仕組みがいいのではないかと思い至りました。そこで、ポイントプログラム「Microsoft Rewards」を立ち上げたのです。

日本マイクロソフトの山岸真人氏
日本マイクロソフト Principal Program Manager Lead 山岸真人

有園 検索エンジンは、使われるたびに機械学習のアルゴリズムが賢くなり、精度が増していきます。マイクロソフトの首席研究員をしているグレン・ワイルという経済学者は、以前から「個人データを集めてビジネスをするなら何らかの還元をするべきだ」という思想を発信していますが、「Microsoft Rewards」はその影響を受けて生まれたプログラムです。

――こうしたポイントプログラムは、いわゆる「囲い込み」戦略が多いですが、「Microsoft Rewards」はポイントをECサイトのギフト券に交換できるなど、他社への「送客」をしています。なぜでしょうか。

山岸 エンパワーを最大化するには、ポイントの利用手段が多様であるべきだという考えに基づいています。個人が「より多くのことを達成する」ための手段としては、消費活動の拡大が最も近道だと思いますので、あらゆる事業者と連携していきたいと考えています。慈善活動や寄付といったオプションも用意していますが、それは社会全体をエンパワーしていくという目的があるからです。

日本マイクロソフトの有園雄一氏
日本マイクロソフト Regional Vice President , Microsoft Advertising 有園雄一

有園 消費活動が活性化されればGDPも増えます。そうすれば、日本だけでなくグローバルの経済成長につながり、社会全体のエンパワーメントに役立ちます。そうやって活発に使われることで、BingやブラウザーのMicrosoft Edge(以下、Edge)のユーザー数も増やすことができると考えています。

BingとEdgeのシェアが伸びている納得理由

――コロナ禍でオンラインへのシフトが進み、ハイブリッドワークも浸透してきました。「Microsoft Rewards」を展開するに当たって、こうした変化によるネット検索や消費行動への影響をどう見ていますか。

有園 リモートワークで、仕事とプライベートの境界線が曖昧になりました。PCを自宅で使い、仕事の合間にネットショッピングをしたり、いろいろなサービスを検索したりする人も多いと思います。実際、マイクロソフトが調査会社に委託して調べたところ、そうした「ワークデイ コンシューマー」が増えていることがわかりました。勤務時間中にPCをプライベートの用事に1時間以上使う人は42%、購入検討中の商品・サービスについて調べる人は51%でした(2022年4月時点)。

ワークデイコンシューマーが増加

この状況は、「Microsoft Rewards」はもとよりBing、Edgeにとって追い風と捉えています。「業務用PCがWindowsを搭載しており、ブラウザーはデフォルトのEdgeしか使えない」という会社も多いからです。私がマイクロソフトに入社したのは2022年8月で、その前はコンサルタントとしてある金融機関を担当していたのですが、まさにそういう状態でした。当時は私もユーザーの立場でEdgeを利用していましたが、日本で最も利用されているものと同じChromiumオープンソースのブラウザーなのでまったく遜色なくて「意外といいな」と思ったのを覚えています。

山岸 Edgeブラウザーを使っていただく企業が多いのは、設定の一元管理が可能なグループポリシーに対応しているため、ガバナンスがきかせやすいからです。また、細かく設定をしなくても、最も適したセキュリティが適用され、パフォーマンスが発揮される機能がありますので、クリック詐欺や危険なファイルのダウンロードのリスクが減らせます。タブをたくさん開いてもパフォーマンスが落ちず、またタブの整理をして生産性を上げる機能も搭載しています

Bingも、検索結果画面に画像とテキストをバランスよく配置し、どのサイトを選べばどんな情報が得られるか直感的に判断できるよう設計しているほか、「Microsoft 365」のユーザーであれば、社内ネットワークにあるWordやExcel、PowerPointなどのデータもBingで検索できますし、社内ポータルも一括して検索することができます。

Bingの検索結果
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Bingの検索結果ページ。※Contosoとは、検索したユーザーの勤務先名

――Bing上で社内外の全てのリソースをシームレスに検索できるということですね。

山岸 はい。結果として、情報収集時間を大幅に短縮できますので、使っているうちに馴染む人が増えているのではないかと思います。特に大きなプロモーションは打っていませんが、実際、Bingの検索ボリュームは大幅に伸びています。自然増でこの結果ですので、「Microsoft Rewards」を本格展開することで、今後もさらなる成長が見込めると考えています。

BtoBの顧客獲得コストを大幅に減らした「広告」

――2022年5月から、「Microsoft Advertising(Microsoft広告)」の提供を開始されています。広告を出稿したい企業は、Bingの検索広告やEdgeでのネイティブ広告(ニュース記事などのコンテンツ内に表示される広告)をマイクロソフトから購入できるようになりましたが、この新たな広告事業は「ワークデイ コンシューマー」の増加や、BingとEdgeのシェア拡大を受けてのものでしょうか。

有園 そのとおりです。背景には、ネット広告を取り巻く環境の変化があります。2018年にEU域内で施行されたGDPR(一般データ保護規則)を皮切りに、世界中で個人情報の保護が強化されており、第三者が収集したデータ(サードパーティデータ)を活用する既存の広告配信の仕組みが使えなくなりつつあるのです。

今後の広告配信は、自社で収集したファーストパーティデータが必要となるのですが、マイクロソフトは圧倒的な量を保有しています。「Microsoft 365」を使っている人が非常に多いからです。普段使っているメールアドレスとひも付いていますので、ターゲティングの精度が非常に高いんですね。そうしたデータの収集はきちんと同意を得て行うことも含めて、ユーザーにとってはより快適な体験を、広告主にとってはより効率的でコストの最適化につながる広告・マーケティング支援を提供できると考えています。

――ターゲティングの精度が高いというのは非常に魅力的です。具体的にはどのような成果が出ているのでしょうか。

有園 Microsoft広告は本格始動からまだ1年経っていませんが(注:この取材は2022年12月下旬に実施)、BtoBのターゲティング広告では目覚ましい成果が上がっています。顕著なのがイベントやセミナーの集客で、獲得コストが相場の10分の1以下になっているケースが続出しています。また、BtoCでもふるさと納税やECなどでも高い効果が出ています。より高精度なマーケティングを目指す方はぜひ広告の出稿をお試しいただきたいですね。

山岸 BingもEdgeもMicrosoft広告も、使えば使うほど精度が上がっていくサービスです。日々情報が見つけやすくなり、「Microsoft Rewards」でポイントが貯まることで、安心で快適な消費行動が活性化していきます。もちろん、日本のユーザーに最適化するため、開発の主導権は私たちが日本で握っていますので、今後の進展にどうぞご期待ください。
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