冬の電気代高すぎ問題、プロが教える節電のコツ カギはエアコン?でも寒いなか我慢したくない
節電は消費電力量上位の家電から行うべし
――22年12月から、政府が節電要請を行っています。冬の時期としては7年ぶりですが、電力需給の状況について教えてください。
中村 22年3月に「電力需給ひっ迫警報」が出たことを受け、電力会社は古い発電所を稼働させるなどさまざまな対策を実施しました。結果、22年度の冬に関しては、全国で電力の安定供給に最低限必要な予備率3%を確保できる見通しとなっています。
ですが冬場は、ほかの季節に比べても電力消費が多い季節。経済産業省の調査結果※1を見ると、一般家庭において、最も消費電力量が多い家電はエアコンを代表とした暖房器具で全体の3割以上を占めます。そして、夏と冬では、冬のほうが外気温と「エアコンで作り出す温度差」が大きいので、多くの場合、その分消費電力量も上がってしまうのです。その意味では、冬のほうが余裕のない状況といえますので、政府も電力会社も節電のお願いをしているところです。
――例えば、電力消費量を月に3%減らすには、どの程度の節電が必要なのでしょうか。また、どんな家電製品に気を配ればいいのでしょうか。
中村 節電をする際には、消費電力量が多い家電製品を知ることが大切です。ボリュームの多いところから手をつけたほうが、効果が出やすいからです。先述の調査結果では、上位は夏も冬もエアコン、冷蔵庫、照明、給湯です。この4つで7割近く(夏季67.9%、冬季69.4%)を占めています。
資源エネルギー庁では、「エアコンの使用時に室内温度を22℃から20℃に下げると2.7%の節電効果がある」としています。つまり、重ね着をしたり、エアコンをより効率的に使ったりすれば、ほかの家電製品の使い方を少しずつ工夫するだけで3%の達成が見えてきます。
ただ、「寒いけど節電のためにエアコンをつけない」といった「我慢」をしないようにしてください。夏場は熱中症、冬場はヒートショックのリスクが高まります。暮らしや健康を損ねては意味がありませんから、「我慢」ではなく「ムダを省いて上手に使う」ことを意識していただきたいですね。
※1 経済産業省「平成30年度電力需給対策広報調査事業」より
「加湿」で体感温度は大きく上がる
――エアコンを上手に使うには、どういったことに配慮すればいいのでしょうか。
重政 まず大切なのは、「フィルター掃除」と「室外機周辺の整理整頓」です。ダイキンで行った実験では、電気代に換算するとフィルター掃除だけで月約800円、さらに室外機周辺の整理整頓をすると月1720円の削減効果があるという結果が出ています(この実験の詳細は末尾のコラムで紹介)。
それら以外に、設定温度を上げなくても暖かさを感じられる工夫はいろいろあります。効果的な取り組みとして2つの工夫をご紹介します。1つは「温度ムラ」の抑制、もう1つは「加湿」です。
暖房をつけた室内は「温度ムラ」が発生しやすく、天井側よりも足元のほうが暖まりづらい傾向にあります。暖かい空気は上昇し、冷たい空気は下にたまる性質があるからです。こうした中、エアコンを使って足元まで暖めようと思うと、どうしても設定温度を上げたくなるのではないでしょうか。設定温度を上げる前に、エアコンの風向を下に向けて天井に暖気を送り込まないようにして、さらにサーキュレーターや空気清浄機などで室内の空気を撹拌してみてください。温度ムラが抑えられ、足元も比較的暖かく感じると思います。
「湿度」が体感温度に与える影響は、意外と知られていないかもしれません。湿度が20%変わると体感温度は4℃変わるといわれています。冬はどうしても湿度が低いので、その分体感温度が低くなってしまいます。そんなときは加湿がお勧めです。体感温度が上がれば、エアコンの設定温度の上げすぎも抑えられます。洗濯物の部屋干しをするだけでも加湿効果は期待できます。
ただ、湿度が高くなりすぎるとカビやダニが発生しやすくなり、逆に低すぎるとウイルスが活性化するといわれていますので、湿度の目安は40~60%くらいです。加湿には、HEPAフィルターを搭載した加湿空気清浄機がお勧めです。加湿だけでなく、前述の温度ムラ抑制にも役立ちます。また、HEPAフィルターがエアロゾル捕集にも役立ちます。寒さで窓開け換気がしづらいこの季節には、「温度ムラの抑制」「適切な加湿」「換気の補助」の一石三鳥となります。
中村 「サーキュレーターや空気清浄機は消費電力量が多そう」と考える方が少なくないのですが、モーターで駆動するタイプの家電製品の消費電力量は圧倒的に少ないんです。1日使っても数十円というレベルなので、モーター系は必要なときは躊躇せず使ってください。
あと、冬場は「結露するから加湿の必要がない」と考えがちですが、窓が結露しても部屋が乾燥している状態は意外と多いので要注意です。加湿器にもいろいろなタイプがありますが、部屋全体をきちんと加湿する仕組みになっている気化式がいいですね。
「自動運転」は節電にも快適空調にも最適
――「節電術とされているけれども実は効果が期待できない」方法や、エネルギー効率を逆に下げてしまう間違った方法などはありますか?
重政 エアコンで誤解されがちなのが「こまめな電源のオン・オフ」「風量を抑える」の2つではないかと思います。エアコンは、スイッチを入れた後、室温を設定温度に近づけようとするときに多くの電力を消費します。そのため、頻繁なオン・オフは電気代の増加につながりやすくなります。また、風量を弱にすると、室内機の音が小さくなるため消費電力量を抑えているように感じられますが、室外機内部ではエアコンの消費電力量の多くを占める圧縮機が頑張り続けていますので、逆に消費電力量を増やしてしまう場合があります。
中村 エアコン以外で言うと、冷蔵庫に透明なカーテンを取り付ける「省エネ術」はお勧めできません。開閉時に冷気を逃さないようにという狙いだと思いますが、そもそも空気は食材等に比べて、少ないエネルギーで冷えやすい性質を持っています(比熱が低い)。そのため、何かを取り出すくらいであれば、冷蔵庫を開ける時間は極端に気にする必要がないのです。むしろカーテンは、庫内の温度センサーの働きを阻害して性能を落としかねませんし、雑菌の繁殖を促すおそれもあります。
冷蔵庫に限りませんが、家電製品を有効に活用するには、メーカーの推奨する使い方をしたほうがいいんです。エアコンの風量の話がありましたが、今のエアコンはセンサーがたくさんついていますし、AI搭載の機種も増えており、室温や部屋の状況などさまざまなことを総合的に判断するので、「自動運転」にしておいたほうが、人が設定温度や風量を変えるよりよほど最適な運転をしてくれます。
また、最近の家電製品はどれも省エネ性能が上がっていますので、節電や電気代の節約をするなら買い替えも選択肢に入れていただきたいですね。20年前に比べると、冷蔵庫の消費電力量はかなり下がっていますし、エアコンの省エネ性能も格段に上がっています。買い替えには確かにお金がかかりますが、快適性につながる性能自体が向上しているうえに、省エネによりランニングコストは着実に下がります。電気代が高騰している今だからこそ、前向きに検討いただきたいですね。
エアコン選びで見るべきは「APF」の数値
――エアコンを買い替えるとき、どこに注意すべきでしょうか。選ぶポイントなどあれば教えてください。
中村 部屋の広さの目安が「8畳~10畳」などと表示されていますが、この幅は家の断熱性能を表しています。断熱性能がよければ10畳分に対応できますが、あまりよくなければ8畳分ということです。断熱性能がよくない10畳の部屋で使おうとすると、性能不足ということにもなりかねませんので、注意していただきたいですね。
あと、エアコンで必ずチェックすべきなのはAPF(通年エネルギー消費効率)です。エアコンは、空気中の熱をかき集めて大きな熱エネルギーとして利用するヒートポンプという技術が使われていますが、その効率を数値化したのがAPFです。現在の上位機種は「7」を超えるものがありますが、これは電気の力を1としたとき、7倍の熱移動ができることを示しているので、節電効果は非常に大きいと思います。
重政 エアコンの消費電力は確かに大きいですが、ダイキンが毎年実施している「現代人の空気感調査」※2では、「暮らしに欠かせない生活インフラだと思う」との回答が約9割に達しています。また、「省エネにつながるエアコンの使い方を実践したい」「省エネ性能の高いエアコンを使用したい」という生活者の意識が高いこともわかりました。不可欠なものだからこそ、より効率的に使いたいという思いが強いのだと思います。まずは「フィルター掃除」や「室外機周辺の整理整頓」「温度ムラの解消」「適切な加湿」を見直して、冬を快適かつ健康的に過ごしていただきたいですね。
中村 節電は短期間だけではなく継続的に取り組むものですので、「無理なく」がとても重要です。「重ね着をして室温を下げましょう」と呼びかけられても、寒さが厳しければそれどころではなくなるでしょうし、買い替えが難しいという方も当然いらっしゃるでしょう。少しずつ、それぞれができることを無理なく積み重ねていくことが、社会全体の節電効果となり、持続可能な社会の実現につながるのではないでしょうか。
※2 ダイキン工業「電気料金の値上げと節電要請に関する空気感調査」(2022年11月2日~11月4日、インターネット調査)
電気料金だけでなくCO2排出量も削減!
※4 CO2排出係数0.453kgCO2/kWhにて算出