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ウクライナ戦争は西側とロシアの価値観戦争だ 柄谷行人氏の思想でウクライナ戦争を読み解く

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2022年の「バーグルエン哲学・文化賞」受賞した柄谷行人氏が同年10月に岩波書店から上梓した『力と交換様式』は、政治、経済、文化など世界の構造を読み解く一般理論だ。

柄谷思想で、現在、深刻さを増しているウクライナ戦争を読み解くことが本稿の課題だ。

柄谷氏による現代史認識

分析の前提となる柄谷氏の現代史認識がユニークである。

第二次大戦後の世界は全体として、アメリカのヘゲモニーの下で“自由主義”的であったといえる。それは一九世紀半ば、世界経済がイギリスのヘゲモニー下で“自由主義”的であった時期に似ている。しかし、このような世界体制は、一九七〇年代になって揺らぎ始めた。一つには、敗戦国であったドイツや日本の経済的発展とともに、アメリカの圧倒的ヘゲモニーが失われたからである。

しかし、一般に注目されたのは、一九九一年にソ連邦が崩壊し、それとともに、「第二世界」としての社会主義圏が消滅するにいたったことのほうである。このことは、「歴史の終焉」(フランシス・フクヤマ)として騒がれた。愚かしい議論である。このような出来事はむしろ、「歴史の反復」を示すものであったからだ。

そのことを端的に示すのは、一九八〇年代に、それまで「第一世界」を統率し保護する超大国とし“自由主義”を維持してきた米国が、それを放棄し“新自由主義”を唱え始めたことである。つまり、ソ連の「終焉」より前に、資本主義経済のヘゲモンとしての米国の「終焉」が生じたのだ。それは、一九世紀後半にイギリスが産業資本の独占的地位を失い、それまでの“自由主義”を放棄したこと、すなわち、“帝国主義”に転化したことと類似する。(311ページ)

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