ビジネスパーソンの新常識「組織社会化」とは 中途採用者こそ入社後の丁寧なケアが重要な訳

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新しくチームに入った社員が高いパフォーマンスを発揮するためには、社員が組織に適応できることがポイントになる。そこで今注目されているのが「組織社会化」の研究だ。「組織社会化」とは「組織の参加者が組織の一員となるために組織の規範・価値・行動様式を受け入れて組織に適応していくこと」、要は組織になじむプロセスのことを示す。

近年、転職が当たり前の時代になり、新入社員が「組織社会化」=組織になじむことができるかどうかが、より重要になってきている。新入社員は、入社前の期待や理想が、入社後の現実で裏切られたときに「リアリティ・ショック」に直面する。事前に抱いた期待が大きいほど入社後のショックは大きく、組織になじめず離職を引き起こす要因になる。

また、組織になじめないと社員はモチベーションが上がらず、必要な知識・スキルの習得や、パフォーマンスの発揮が難しい。採用・教育コストを抑え、優秀な人材を確保して強い組織にするためにも、社員を組織になじませることは企業にとって重要だ。

今回は、「組織社会化」研究の専門家である甲南大学経営学部教授の尾形真実哉氏が、「新入社員を組織になじませるためのポイント」をお伝えする。

※本コンテンツは、2022年12月8日(木)に開催された株式会社スタディスト主催「“Human Productivity Conference 2022”~ヒトの生産性について考える1日 2nd~」のキーセッション「社員の教育・受け入れ担当者が知っておきたい『人を組織になじませる考え方』とは?」の内容を採録したものです。

スムーズに組織になじませる取り組みは
採用活動時点から始まる

甲南大学経営学部教授
尾形 真実哉氏

2002年明治大学商学部卒業。2007年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士(経営学)取得。同年より甲南大学経営学部専任講師、准教授を経て、2015年より現職。専門は組織行動論、経営組織論。論文・著書多数。近著に『組織になじませる力~オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ~』(アルク)

組織社会化がいつから始まるのかというと、実は入社してからではなく、入社前から始まっている。そのため、組織にスムーズになじむためには採用段階で正しい情報提供をすることが効果的だ。

しかしながら、職務の事前情報を提供するような取り組みは、アメリカでは適用しやすいが、就職してからどのような仕事に就くかわからない日本の新卒一括採用方式では扱いにくいと尾形氏は指摘する。

「日本企業の新卒一括採用方式はリアリティ・ショックの温床になっているのが実情です。リアリティ・ショックを抑制するためには、職務だけではなく組織情報やキャリアパスの事前情報など、幅広い正確な情報の提供が必要です。また、新入社員がショックを克服するためにも、入社後の組織的な教育・サポートを提供することがいっそう重要になります」(尾形氏)

組織の行動と新入社員の行動の掛け合わせが
組織社会化を促進する

では、組織や新入社員を受け入れる部門は、入社後にどのような教育・サポートを提供すべきなのか。

組織社会化には、仕事の知識・スキルを習得する職業的側面と、組織文化・ルールを習得する文化的側面がある。新入社員がこれらの職業的・文化的側面をさまざまな方法で学習しながら組織社会化していく際に、この過程をサポートする「社会化エージェント」の存在が要となる。

さまざまな「社会化エージェント」の中でも、とくに「重要な他者」=上司や同僚、同期、メンターとの良質な関係を築くことが大切だ。近年は、新入社員に専属の指導・助言者を割り当てるメンター制度を導入する企業も増えてきた。「メンターは年齢が近いほうがよいから、と若手に任せてしまう企業もありますが、年齢の近さだけで決めることは危険です。しっかりと後輩の面倒を見てくれる人かどうかや、本人に育成モチベーションがあるかどうかを見極めることが重要です。さらに、メンターをサポートする組織の体制づくりも不可欠です」(尾形氏)

また、近年多くの企業が取り組むようになった「オンボーディング」は、社員が組織になじむためのサポートすべてを指す。

オンボーディングには、組織から情報を与えるインフォーム行動、迎え入れるウェルカム行動、メンターを用意するなどのガイド行動の3要素があり、この要素を与えることで社員は組織になじみ、早期離職防止につながるという。

新入社員側の積極的な行動も組織社会化を促す

これらの組織側の行動に加え、組織社会化には、新入社員側が能動的に会社になじもうとする行動(=プロアクティブ行動)も必要だ。

プロアクティブ行動には“新鮮なアイデアを提供するなどの革新行動”、“ネットワークの構築と活用行動”、“積極的な問題解決行動”、“上司や同僚にフィードバックを求める探索行動”の4つの行動がある。

尾形氏は「革新行動というとイノベーティブなことと思われる場合も多いですが、そうではなく新しいアイデアや新鮮な意見など、ささいな行動も含みます。そういった行動を組織側から促すことも組織社会化にはプラスになります」と話す。組織社会化は、組織の行動と、個人のプロアクティブ行動の掛け算で進み方が変わる。どちらか一方だけではうまくいかないと尾形氏は訴えた。

中途採用者にこそ支援が大切

「意外かもしれませんが、社会経験のある中途採用者のほうが新卒採用者より組織社会化は難しい。中途採用者にこそ組織社会化の教育・支援が必要だと考えるべきです」(尾形氏)

新卒はいわば「白紙」の状態で入社する。そのため、組織の色に染めやすい。一方で中途採用者は実績のある人ほど、以前の会社でついた経験・知識の“色”があり、新しい組織になじむのを妨げることもある。中途採用者は、新卒向けのような通常の教育・支援の前に、「アンラーニング(学びほぐし)」によって、いわば“脱色”する必要がある。

「アンラーニング」とは、一度学習したことに固執するのではなく、環境に合わせて学びほぐすことをいう。ただし、すべての経験・知識を捨て去るわけではもちろんない。まずはアンラーニングがどういったものか、どういうメリットがあるのかを中途採用者本人に理解してもらい、過去のこだわりを捨てつつも、これまでの知識や経験を生かしてもらうことが大切だという。

また、とくに中途採用者は、その組織特有の文化・カルチャーにリアリティ・ショックを受けやすい。組織文化についての、さまざまな情報をツールとして提供することも有効だ。尾形氏によると、中途社員の組織社会化を促進させるツールとして、①社内の組織図や専門知識を持つ社員が誰か、といった「人脈マップ」や②自社独特の用語をまとめた「社内用語集」、③組織文化がわかる「カルチャーブック」、そして④仕事や会社、製品の知識を享受する「オンデマンド教材」といった4つの要素を、実際に中途採用者と相談しながら作ることが効果的だという。

これらの情報を自前でわかりやすく編集し、新入社員がいつでも閲覧できる環境を整えるのは難しい。そこでクラウド型マニュアルツールを使って、現場でも簡単に情報を確認できるよう整備している企業もある。例えば、マニュアル作成・共有ツール「Teachme Biz(ティーチミー・ビズ)」は画像・動画ベースでわかりやすく、パソコンやタブレットなどの端末で、困ったときに何度でも新入社員が確認できる。新入社員向けのトレーニングコースの作成もでき、オンボーディングの促進や効率化に役立つ。

Teachme Biz」とは?
ビジュアルベースのマニュアルを簡単に作成・共有でき、
組織に根付く運用までできるソリューションです。

特徴1. 作成「誰でも簡単につくれる」
特徴2. 共有「人に伝えやすい、伝わりやすい」
特徴3. 運用「分析して、もっとよくする」
詳しくはこちら

人を組織になじませるためには、人事に限らず、新入社員を教育する立場の人が組織社会化論を理解し、オンボーディングを充実させることに加え、既存社員への働きかけも必要だ。とくに、上司は新入社員が組織になじむために大きな役割を果たしている。上司の育成スキルを高め、組織も上司のサポートを欠かさないことで、人の定着を促進できる。

さらに、先輩社員がいきいきと働いていることも重要だという。「夢を持っていきいきと働く先輩社員がいれば、先輩社員をロールモデルとして新入社員は自ら努力します」と、新入社員が憧れるようないきいきと働くロールモデルの多い会社にしていくことが組織社会化の後押しになると尾形氏は語った。

最後に尾形氏は、「新入社員にとって教育環境は大事です。今後、転職社会やテレワークの時代に、情熱や信念、使命感を持って教育していくことは、愛社精神にもつながっていきます。ぜひ組織になじんでもらうために使命感を持って、育成に取り組んでいただきたい」と組織でこれから新入社員を受け入れる多くのビジネスパーソンへのメッセージでセッションを締めくくった。

【当セッションを動画でご確認いただけます】人を組織になじませる考え方

マニュアル作成・共有システム Teachme Biz(ティーチミー・ビズ)

「知っている」で終わらず「できる」ようになる社員教育の教科書