進化したAI研修で全部門に「スマート野武士」を 目指すはAIの民主化、誰でもできるデータ分析
AIリテラシーはもはや社会人の汎用スキルだ
スマートフォンや自動車をはじめ、現代社会に欠かせない多様な機器に搭載する電子部品を開発・製造・販売している太陽誘電。業績は堅調で、2022年3月期は売上高も純利益も過去最高を更新している。独創性の高いものづくりを続けてきたのが特徴で、1950年の創業以来、コンデンサやインダクタなど、最先端の製品を次々と世に出してきた。人事担当の執行役員、山﨑聡氏は、その理由について「伝統的に野武士タイプの人材が多い会社で、新たな道を切り開く文化が根付いているのでは」と分析する。
長年にわたって社会の変化に対応し、業績を伸ばしてきたことが証明しているように、独創性の高い企業文化は大きな強みだ。それを今後も保ち、伸ばすため、直近では毎年100名規模の新卒採用を実施するほか、幹部人材の育成にも力を注いでいる。
「戦略的な視点で生産拠点の増設など設備投資を行っていますが、今後の需要拡大を見据えると、設備投資に加えて管理職を担うことのできる幹部人材を今後200名育成する中期計画を掲げています」(山﨑氏)
とはいえ、管理職に就く前に受けるリーダー研修だけでは、対象者に偏りが出てしまう。組織全体の底上げをしつつ、予測不可能な変化に即応できるリテラシーを磨くにはどうしたらいいか考えた結果、たどり着いたのがAI研修だった。
「今や、部署や職種を問わず、誰もが表計算ソフトを使えます。同様に、AIやデータ分析が汎用的なスキルとなる時代はすぐそこまで来ていると思うのです。もちろん、データサイエンティストの採用も積極的に進めていますが、とくに幹部人材はそうしたスペシャリストへつなぐ役割を果たさなくてはなりません。ですから、希望者や特定の部署だけではなく、全部門の人材を対象としました」(山﨑氏)
単に知識を得ることを目的としていないことは、対象を5~6年目の社員とし、若手と幹部をつなぐプレリーダー研修として位置づけたことにも表れている。
業務での活用イメージが湧く「機械学習入門講座」
問題は、どんな研修を実施するかだ。AIや機械学習の研修というと、専門用語ばかりの座学主体の研修が多い。しかし、そうした専門用語のハードルがAIに対する理解を遠ざけている一因となっている。
「いろいろな社員の声を聞くと、AIの必要性はわかっていても難しくてなかなか理解できないというのが多かったのです。それこそ5~6年目の中には、独学でAIの勉強に取り組んだけれどもつまずいたという社員もいました」(山﨑氏)
エンジニアに求められるようなスキルよりも、AIがどのように業務で活用できるのかといったイメージをつかんでほしい―。このニーズに合致したのが、キヤノンITソリューションズが提供する「機械学習入門講座」だった。最大の特色は、AI Cloud プラットフォーム「DataRobot」を使っている点にある。「AIの民主化の実現」の理念の下、トップクラスのデータサイエンティストのAI構築ノウハウが組み込まれており、これまで一部のデータサイエンティストしかできなかったようなデータ分析に高度な専門知識なしでアプローチできる。
「座学だけで終わってしまう研修が多い中で、キヤノンITソリューションズの『機械学習入門講座』は自部門でのAIの活用を検討する実践的なワークショップを取り入れているのが特徴的でした。研修を受講しても、業務で使う場面がすぐやってこなければ身に付きません。その点、このワークショップならば『自分の業務ではどんなことができるか』とイメージが湧きやすい」(山﨑氏)
実は、AIの活用で難しいのは最初のテーマ設定。「AIがあれば何でもできる」とつい考えてしまいがちだが、エンジニアならば何でも作れるわけではないのと同じで、成果に結び付くテーマを設定しなければ意味がない。専門知識がなくても使えるAIプラットフォームと、講師のサポートがあることで、そうしたある種の“さじ加減”をつかめたと山﨑氏は振り返る。
「ただ考えましょうと促すのではなく、適宜、講師の方がサポートしてくれるので、非常にわかりやすかったという声が多く聞かれました。例えば、開発の際には何度も実験を行うわけですが、実験の数を限定すると工数やコストがどのくらい変わるかといった費用対効果の評価もワークショップの中で試算しました」(山﨑氏)
講師は現場で活躍する現役のデータサイエンティスト
講師を務めるのは、キヤノンITソリューションズで活躍している現役のデータサイエンティスト。机上の空論ではなく、実業務に即した知見が提供されることが、「気づき」をスムーズに得られる理由なのだろう。
「受講生の抱えるそれぞれの不明点がきちんと引き出されますし、適切なフィードバックが受けられます。社員からも大変好評で、『AIはこうやって業務で使うものだと理解できた』といった狙いどおりの反応が得られています」(山﨑氏)
業務で引き続きDataRobotを使いたいという声も多いという。DataRobotは「ムダ・ムラ・ムリを省き、環境負荷を低減したスマート商品」を目指す太陽誘電にますます貢献していくことだろう。
「新たな道を切り開く野武士のスピリットはそのままに、暗黙知を可視化してうまく集合知に活用できるスマートさを持った『スマート野武士』を全部門で育成していくのが、今後の目標です。そうやって人的資本の価値を引き出していかないと、激しさを増す国際競争では生き残れませんので、中堅社員だけでなくベテランのリスキリングなどにもぜひ『機械学習入門講座』を活用していきたいですね」(山﨑氏)
デジタルビジネス統括本部 デジタルビジネス営業本部 本部長 岡井 庸浩氏