経済とESGを両立する未来を見据えた経営とは サステナビリティトランスフォームSUMMIT
協賛:NTTデータ
基調講演
「柳モデル」に基づくESG経営と人的資本最大化
企業の非財務価値を研究する柳良平氏は、純資産簿価と時価総額の差に当たる「市場付加価値」は、ESG(環境・社会・ガバナンス)の指標と相関するとする「柳モデル」を紹介。「ESGの潜在価値を可視化して投資家に説明できれば、日本企業のPBR(株価純資産倍率)を欧米水準に高め、株価を2倍にできる蓋然性がある」と主張した。
ESGの価値が株価に反映されていないと指摘した柳氏は、CFOを務めたエーザイのESG指標と財務データを重回帰分析。その結果、人件費1割増で5年後に13.8%、研究開発費1割増は10年超で8.2%、女性管理職比率1割改善は7年後に2.4%、それぞれPBRが上昇し、ESG指標と将来のPBRとの間に正の相関が認められた。
また、エーザイの定款に患者や生活者の満足を増大させるとする理念を入れて、過度な人的コスト削減など短期志向株主からの要求の防波堤とし、人的資本経営による長期的利益につなげる取り組みにも言及した。
CSR企業総覧特別講演
『CSR企業総覧』データから見えてきた企業価値向上のための人材活用
CSR(企業の社会的責任)について企業を調査・評価する東洋経済『CSR企業総覧』の岸本吉浩編集長は、人材活用を基礎にESGに取り組み、社会課題を解決してSDGs(持続可能な開発目標)に貢献することで「信頼されるよい会社」になるという企業価値向上の枠組みを示した。
CSR評価から株価を予測することは難しいが、従業員が年齢を問わず自律的に学び、社会課題解決に貢献する人生100年時代のキャリア像「プラチナキャリア」の実現に向けて、従業員のキャリア形成を積極的に支援している企業を対象にした投資指標「プラチナキャリア150インデックス」は東証株価指数よりも運用効率が高くなっている。
岸本編集長は、CSRに多くの従業員を巻き込むには、ボランティア休暇やNPOとの連携制度など、従業員の社会課題解決意識を支えることが重要と指摘した。
協賛講演
これからの時代を生き抜くための「デジタルワークスペース」
~変化に順応し、従業員パフォーマンスと組織生産性向上に向け必要な視点~
CO2削減などサステナビリティの要請が高まり、企業を取り巻く環境は激変している。リアルとデジタルのハイブリッドワークへのニーズはコロナ後も続きそうだ。さらに働き手の意識変化で、働き方を決める主権は企業から従業員へ移行している。NTTデータの遠藤由則氏は「人材確保のために企業は未来の働き方に適応した環境を整え、従業員体験を高める努力が求められる」と話す。
NTTデータは2030年ごろの近未来の働き方のためにリアルとデジタルを融合したオフィス像を考察している。ポイントはリモート化により失われたリアル感をデジタル技術でいかに補完するか。NTTデータでは、VR・メタバースを活用した異空間コラボレーション、従業員のメンタルヘルスケアなどのサービスを企画構想中で、それらを実現するためのベースとして、まずはインフラ環境、とくにセキュリティの再考から着手を進めている。
「セキュリティは社内システムを守る境界防御から、全トランザクションを監視するゼロトラストへの発想転換が必要」とした遠藤氏は、ゼロトラスト環境構築に向けた同社の一気通貫のサポートをアピールした。
東洋経済オンライン編集部特別講演
「東洋経済オンライン」は成長と社会的意義を両立させられるか
経済とESGの両立は、メディアビジネスでは「経済合理性と公共性のある報道との両立」というテーマに置き換えられる。東洋経済オンラインの吉川明日香編集長は、報道の社会的意義を保ちながら、従来の紙媒体とは異なるウェブの特性に適応するための課題として「ビジネスとして成立する報道コンテンツ制作」への取り組みの必要性を挙げた。
ウェブ媒体の多くはPV(アクセス数)で稼ぐモデルだ。しかし、ウェブコンテンツは、つねに読者の選択や検索サイトのアルゴリズムのふるいにかけられ、お堅い報道記事は、芸能、スポーツ、エンタメなどに比べて「読まれにくい」傾向がある。「報道記事を読まれるようにするのも使命」とした吉川編集長は、閲覧データ分析で「読者と対話」。円安問題を各国のハンバーガー価格から考察するなど切り口も工夫している。「次の10年も必要とされるメディアでありたい」と話した。
ゲスト講演
トレードオフを越えて:長期利益追求の経営
サステナビリティと利益追求は両立しないトレードオフの関係にあり、両者のバランスが重要になる……。この考え方を一橋大学の楠木建氏は「そう思わない」と否定する。
商売には自然科学のような法則性はないが、簡単には変わらない論理・本質は存在する。その根幹の経営戦略目標には利益、顧客満足、企業価値、社会貢献などがあり、それらは互いにつながっている。短期的利益追求は、従業員や投資家、社会のそれぞれが求めるものとの間でトレードオフ関係を生じさせるが、長期的利益を追求すれば、その他のゴールも自動的に満たされる「トレードオン」の関係にできると訴えた。
また『論語と算盤』を例に挙げ、資本主義(そろばん)の暴走を道徳(論語)で制御すべきという趣旨に勘違いされることがあるが、本当の主張は、道徳的商売がいちばん儲かり、目前の利益のみを求めるそろばんだけの人は逆に欲がないのだという点にある。一方で、利益を度外視したESG優先も成り立たないとした楠木氏は「長期視点の利益を求められるかは、経営者の時間軸の取り方にかかっている」と語った。