「国際競争力34位」日本の現実と浮上の処方箋 かつて世界1位もタイやマレーシアにも抜かれ

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バブル期には世界第1位であった日本の国際競争力が、30年を経て34位にまで順位を落としている。だが、順位を細かく見ていくとまだまだ上位に食い込んでいるものもある。日本企業が自信を失わず、前向きにイノベーションを加速させるために何が必要か。データ分析から原因を探り、日本の国際競争力を向上させる方策を検証する。

年を追うごとに下落する日本の国際競争力

日本はGDPという指標のうえでは世界第3位の経済大国だが、競争力という側面から見ると危機的状況にある。IMD(国際経営開発研究所)が作成する「世界競争力年鑑」において、同年鑑の公表が開始された1989年からバブル期終焉後の92年まで、日本は4年連続で1位の座にあった。しかし、そこから年を追うごとに順位を落とし、最新の2022年版では34位にまで後退したのである。

 IMD 世界競争力年鑑

この30年間で欧米諸国に大きく水をあけられたのはもちろん、アジア・太平洋地域に限っても、近年ではマレーシアやタイの後塵を拝するまでに至っている。同じくIMDが作成する「世界デジタル競争力ランキング」においては、最新ランキングで過去最低となる29位に下落。これが日本の国際競争力の現在地なのである。

30年前まで日本が位置していた世界の上位には、1位のデンマークをはじめ、スイス、シンガポール、スウェーデン、香港、オランダ、台湾といった国・地域が並んでいる。いずれも小規模経済である点が共通しており、近年の上位はこれらの国・地域で固定されている。

IMD 世界デジタル競争力ランキング

「小規模経済であるがゆえに、産業構造の転換が容易であることがこうした国・地域の競争力を支える背景にあります。例えば、かつてスウェーデンでは造船業が盛んでしたが、21世紀に入ると携帯電話製造業などに代表される新たな産業への転換が急速に進みました。競争力の向上には、産業や企業の新陳代謝が不可欠ですが、労働力の円滑な移動や起業といった新陳代謝を高める環境が整備されていることも強みとなっています」(MRI研究員)

では、日本が国際競争力を向上させるために改善すべきポイントは、どのようなものなのか。「世界競争力年鑑」は、4つの分類から構成される。まずは、その分類ごとに現状を検証していこう。

「政府効率性」「ビジネス効率性」に課題

①経済状況:20位
 小分類を見ると「国内経済」が昨年の8位から27位へと大きく順位を落とした。その中でも実質GDP成長率や1人当たりGDP成長率、固定資本成長率などがとくに低下。これはコロナ禍において防疫を経済に優先させたため、結果的に経済が犠牲になったからだと推察される。国際投資は12位と高順位を維持しているが、円安の進行に伴い今後も注視が必要だろう。

日本の競争力順位の推移

②政府効率性:39位
 昨年41位から若干順位を上げたものの、「財政」が過去5年間60位前後で推移し、今回も最下位目前の62位と、下位グループを抜け出せていない。「租税政策」に関しては、42位から34位へと昨年より上昇したが、全体としては中位。「ビジネス法制」も36位である。

表中のデータ以外では、「スタートアップに要する日数」(37位)、「手続きの多さ」(48位)といった状況があり、ここから考えると新事業の立ち上げや成長を後押しする環境に課題があることがわかる。

日本の競争力順位の推移(政府効率)

③ビジネス効率性:51位
 昨年の48位からさらに順位を下げ、4つの分類の中で最も評価が低く、2018年の36位からの下落ぶりも目立つ。低迷する「生産性・効率性」(57位)もさることながら、63位と最下位に甘んじた「経営プラクティス」が深刻だ。

「取り組み・価値観」が58位となったほか、表中にはないが変化に対する柔軟性と適応性、企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の2指標で最下位(63位)となり、海外のアイデアを広く受け入れる文化の開放性(61位)やグローバル化へ向けた態度(48位)、競争力を支える社会の価値観(57位)などの評価も低い。18位となった「金融」以外の項目は、ここ5年間は低下傾向にあり、一刻も早い改善が必要とされる。

日本の競争力順位の推移(ビジネス効率性)

④インフラ:22位
「科学インフラ」(8位)と「健康・環境」(9位)においては1桁順位となったが、「基礎インフラ」(38位)と「技術インフラ」(42位)、「教育」(38位)と項目ごとの評価に乖離がある。

さらに表中にはないが、「研究やイノベーションを促す法制の整備」(49位)や「産学間の知識移転の活発さ」(49位)など、強い知識資本を生かす仕組みが未整備との認識だ。また、「デジタル技術者」(62位)、「専門的技術者」(56位)の利用可能度も低く、経営者層のニーズを満たす技術人材不足が課題であることも読み取れる。今後は、グローバル化対応の遅れと産学間の閉鎖性、企業ニーズに見合う人的資本不足などの諸問題を解決することで、より高い評価を得ることになるだろう。

日本の競争力順位の推移(インフラ)

高順位の科学技術関連項目も安心できない

前述のように「科学インフラ」は8位となった。このほか「研究開発支出総額」3位、「特許件数」は出願数・登録数・保有数ともに3位と、科学技術関連の項目では高順位を維持できているものもある。だが、これらも実際のビジネスの最前線における「評価」に目を移すと違った景色が見えてくる。

「世界競争力年鑑」のランキングは、統計データだけでなく、経営層を対象に、自国の強みと認識する項目を選択するアンケート調査も行っており、現場の評価を反映させたものとなっている(※)。そのアンケートにおいて、2018年には57.5%が「研究開発力」を日本の強みと評価していたが、22年は29.7%と一気に下落した。これはなぜなのか。

MRIは、「世界競争力年鑑」の2020年から22年の3年分のデータをクラスター分析し、競争力を構成する要素の強み、弱みの傾向から国別分類を試みた。その結果、日本の研究開発や論文・特許など、「知的資本」に関する指標は高い順位を占めた一方、知的資本と強い関わりを有する生産性関連指標の順位が、ほぼ30~40位台と総じて低いことが明らかになった。

これは知的資本を補完する「人的資本」や「組織資本」などの要素不備により、ビジネスへの活用が滞っていることが影響していると推察される。とくに企業の意思決定の迅速さや機会と脅威への対応力、起業家精神などからなる「経営プラクティス」が統計で最下位、経営層が自国の状況についての認識を記したアンケートでも下位となっていることは、日本の最大の課題であろう。

では、競争力回復のために、具体的に何を推し進めていけばいいのか。それは、重点課題を設定して解決していくことだろう。市場環境変化への認識や、変化への迅速な対応、ニーズを満たす人材の育成と活用、デジタル対応力などが、日本の弱点であり続けているのは、経営層がこれらを課題と見なしつつも優先的に対応すべき課題として判断していないからだろう。これらの弱点項目が生産性や競争力に直結するという認識を持って対応することで、日本が浮上するための活路を見いだすことができるはずだ。

※「企業活動とそれを支える仕組み」のクラスターに属する指標の大半が経営層によるアンケート調査項目である点には留意が必要である。総じて日本のアンケート結果における日本の順位は統計項目の順位と大きな差がある。この背景には、国民性の問題や、日本の経営層が想定する達成基準が高いなどの理由が考えられる。

>>三菱総合研究所の未来読本『フロネシス23号 2050年、社会課題の論点』

>>IMD「世界競争力年鑑2022」からみる日本の競争力 第1回:データ解説編

>>IMD「世界競争力年鑑2022」からみる日本の競争力 第2回:分析編

>>IMD「世界競争力年鑑2020」からみる日本の競争力 第3回:統計と経営層の意識の乖離から競争力改善ポイントを探る