新参「コスタコーヒー」が成熟市場に見出した勝機 マルチチャネルで、あらゆるシーンに溶け込む
“バリスタクオリティ”のコーヒーブランド
日本に上陸して間もないコスタコーヒーだが、実は英国では、最もポピュラーなコーヒーブランドの1つという地位を確立している。
コスタコーヒーは、イタリア人のコスタ兄弟が、ロンドンで1971年に創業。今や英国とアイルランドを中心に世界32カ国・4000店舗以上を展開する、ヨーロッパナンバーワンのカフェブランドとなっている※2。市場調査会社アレグラ・ストラテジーズの「英国およびアイルランドで最高のブランド・コーヒーショップ・チェーン」には、12年連続で選ばれている(2010~21年)。2019年よりザ コカ・コーラカンパニーの傘下となり、20年より日本での展開を開始した。
その後、日本でのブランド拡大を鋭意進めていき、22年11月現在、飲食店・映画館・シェアオフィスなど、コスタコーヒーの業務用全自動マシンを置くロケーションは、1000カ所を超えている。
ちなみに日本の最大カフェチェーンでは、店舗数約1700となっている。こちらは直営カフェの店舗数なので単純比較はできないが、コスタコーヒーを飲める拠点は、すでにそこに食い込む規模になっている形だ。
加えてコスタコーヒーで目立つのが、マルチチャネルでの展開だ。すでにRTD製品はスーパーや自販機を通じて多数展開されており、そこに原宿駅前のテイクアウト専門店や、エクスプレスと呼ばれるセルフサーブマシンも加わる。さらに22年10月からはセブン&アイ・ホールディングス限定商品として、家庭用のコーヒー豆(粉製品)や大容量紙パック飲料も展開し、チャネル拡大を強めている。
また22年春には、“London Meets Tokyo”と題したコンラッド東京とのコラボレーションや、9月から北海道・北東北限定の自販機用ショート缶の発売を行うなど、マスプレミアムブランドを消費者に広く伝達すべく、他企業とのコラボ展開や限定商品という形での試みも積極的に行っている。
なぜコスタコーヒーは、これほど短期間でブランドを拡大できているのか。取材を通じ、以下3つの理由が浮かび上がった。
1つ目に挙げられるのが、純粋な「品質の高さ」だ。日本コカ・コーラ コスタディビジョン ゼネラルマネジャー・金澤博史氏は、こう明かす。
「もともとコスタコーヒーは、バリスタがその時々の湿度などでエスプレッソマシンを微調整して淹れる高品質コーヒーによって支持を集めてきました。その“バリスタクオリティ”は、カフェ以外のチャネルでもしっかり踏襲されています」(金澤氏)
コーヒー豆は世界中から厳選した高級豆をブレンドし、それを通常の1.3倍量※3使い、焙煎する(高級豆51%使用)。豆を挽く際には、特許技術の「挽きたてアロマ製法」を採用し、豆を挽いたときの豊かな香りを閉じ込める。それを高圧抽出で淹れることで、深いコクとまろやかな後味を実現している。
「また日本のお客様の嗜好に合わせたさまざまな調整も行っています。ヨーロッパのカフェでは基本的にエスプレッソマシンで淹れるため自然と濃い味わいになりますが、 その味わいを実現するために、コカ·コーラシステム独自の高圧抽出によって香りと甘みを最大限に引き出しています。またコーヒーは焙煎した瞬間から変化が始まりますので、焙煎はすべて日本で行います」(金澤氏)
さらに、カフェラテ、ラテ エスプレッソのミルクは100%国産牛乳を使用のうえ、コーヒーとミルクでは最適な処理温度が変わるため、それぞれを別ラインで製造して最後に合わせる独自製法を採るこだわりぶりだ。
ただ、いくらコーヒーがおいしいといっても、日本にはすでに多くのコーヒーブランドがひしめいている。その中にコスタコーヒーは、どう食い込んでいったのだろう。
※2 店舗数ベース(アレグラ社による2021年ワールドコーヒーポータル調査)
※3 公正競争規約コーヒー規格下限基準値5g/100g比
通常では相いれない2つの価値を同時に提供
実は日本のコーヒー市場は成熟市場でありつつ、そこには意外と手薄な領域が残されていた。これが2つ目の理由となる。
「手淹れのコーヒーは好きだけど、毎回自分で淹れるのは大変。あるいはRTDのコーヒーの手軽さは気に入っているけど、手淹れクオリティのものを飲みたい。コスタコーヒーが目指したのは、そんなニーズを満たすブランドです。つまりは、手淹れクオリティのおいしいコーヒーを、場所や時間を問わず、手の届く価格で楽しめる。マルチチャネルで展開するのは、まさにそうした『マスプレミアム』な価値を具現化するためなんです」(金澤氏)
同社には、ジョージアというコーヒーの巨大ブランドがあるが、ターゲットにおいても、展開チャネルにおいても、しっかりすみ分けがなされている。一方、高級寄りのコーヒーブランドでいえば、日本にはすでに確固たる支持を集めるブランドがいくつかある。そことのすみ分けはどう図っているのか。
「当ブランドが突き詰めるのは、いわゆるセカンドウェーブともサードウェーブとも違う、ヨーロッパの王道のコーヒースタイルです。だから、すでに独自の文化を築かれている他の高級ブランドを追い抜くという意識はなく、十分に『共存』していけると考えています」(金澤氏)
そして3つ目の理由に挙げられるのが、日本におけるコカ・コーラシステムというビジネスモデルだ。
「日本においては、原液の供給と製品の企画開発やマーケティング活動を行う当社(日本コカ·コーラ)と、製品の製造・販売などを担う5つのボトラー会社・関連会社で構成されています。ですので、当社には、飲食店や映画館といった販売ネットワークが、全国津々浦々にあります。コスタコーヒーの展開でも、それが貴重な財産となっています。例えばコロナ禍で観客が減ってしまった映画館にコスタコーヒーのマシンを置いてもらうことで、映画を観に来た人たちにいっそう楽しんでもらい、映画館と当社の売り上げも上がるといった“ウィンウィン”の形をつねに目指しています」(金澤氏)
日本のコカ・コーラグループにもともと備わる高い製品開発能力とマーケティング力、そして長年にわたり培われた強大な製造物流販売網。それらが合わさることで、これだけのブランド拡大が可能になっている形だ。
そんなコスタコーヒーでは、この先も大型コラボをはじめとしたさらなる多角的な展開を想定しており、貴重な「マスプレミアム・コーヒーブランド」としての地位強化を図っていくという。
コスタコーヒーは「より多くの日本の消費者の方においしいコーヒーを楽しんでいただき、日々の生活を豊かに過ごしていただきたい」と考えている。まさに正統的なバリスタクオリティのおいしさをブレずに追求しつつ、それをマスレベルで広く展開するという、通常は相いれにくい両価値を同時に提供する点こそが、コスタコーヒーのユニークネスだ。本格的なヨーロッパスタイルの高品質コーヒーが、“日常”としてあらゆる場面に溶け込む世界が、日本に訪れようとしている。