双日が社員のがんリスク「早期発見」を重視する訳 がん対策に見る人的資本経営「人材」投資の本気

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人材を「資本」と捉え持続的な企業価値向上を目指す経営手法「人的資本経営」に対する関心が高まっている。人的資本への投資を強化する企業にとって、人材の育成、働き方や職場環境の見直しなどと並び、重要となるのが健康のサポートだ。そうした中で、人的資本経営の実践で知られる総合商社の双日は、社員の健康支援の1つとしてがん対策に注力。直近では新たに少量の尿から15種類のがんのリスクを調べられる検査サービスを取り入れたという。その理由を取材したところ、同社が人的投資にかける本気度の高さが見えてきた。

「人材KPI」で経営と連動した人材戦略を展開

双日は2030年に目指す姿として「事業や人材を創造し続ける総合商社」を掲げ、企業価値向上の実現へ向けて人材戦略を推進している。「商社にとって人材は最も重要な資本です」と話すのは、同社で人材戦略をリードする常務執行役員の橋本政和氏。

双日 常務執行役員 人事、総務・IT業務担当本部長 橋本政和氏
双日 常務執行役員 人事、総務・IT業務担当本部長
橋本 政和

「当社は人材を競争力の源泉と捉え、経営戦略と連動した人材戦略の展開に力を入れています。人材戦略では『多様性と自律性を備える個の集団』を目指す姿とし、それを支えるものとして『多様性を活かす』『挑戦を促す』『成長を実感できる』の3つを柱にさまざまな施策を行っています」

代表的な取り組みが、「人材KPI」の設定だ。各種人事施策の目標値を定めたうえで、施策の理解・浸透度を定量的に効果測定することにより、課題を見つけ出し施策の改善や検証を行っている。進捗は定期的に経営会議や取締役会でも議論し、経営戦略と一体となって運用できる仕組みだ。これは、経済産業省が2022年5月に公表した「人材版伊藤レポート2.0」において、人的資本経営の先進事例としても取り上げられている。

人材KPIの1つに設定する「二次健診受診率」は、「21年3月期が24%だったところ、22年3月期時点では49%まで上がった」(橋本氏)という。同社では従来、健康診断の一次受診率は100%を継続していた一方、異常所見が出た場合などの二次健診は任意のため、健康を守るために受けるべきだとわかっていても、さまざまな理由から後回しにしてしまう人が少なくなかった。

そうした背景から二次健診対象者に対するフォローを強化したことで、受診率の向上を実現。23年度には70%まで引き上げる方針だ。そのために、「今年度から二次健診の対象者に産業医との面談を徹底しています。今後は、情報の匿名性に配慮したうえで、組織内の二次健診受診率を共有し、現場で健康意識を高める働きかけをしていくことも検討しています」と橋本氏は話す。

健康支援へ「3年に1回」のがん検診を補う方法を模索

橋本氏の言葉が示すように、双日は社員の健康支援にも積極的に取り組んできた。「社員の心身の健康は、間違いなく企業価値の源泉です。健康でなければエンゲージメントも上がりませんし、生産性も向上しません。心身の健康を支える健全な職場環境づくりが非常に重要だと考えています」(橋本氏)。

その一環で注力するのが、日本人の死因第1位である「がん」への対策だ。40歳以上の社員を対象に、3年に1回がん検診(胃カメラ、大腸内視鏡、胸部CT、腫瘍マーカーなど)を実施。子宮頸がん・乳がん検診については、22年度から全女性社員が受けられるように対象年齢を拡大した。その一方で、課題も顕在化していたという。橋本氏は次のように語る。

「蓄積されてきたデータを見たところ、当社のがん発見率が比較的高いことがわかりました。40歳未満の若年層もがんになる可能性があることを踏まえれば、3年に1回の検診だけでは十分とは言えず、別の対策も打たなければならないと考えました。一人ひとりがもっと活躍してもらうためには、早期発見・早期治療をより徹底しなければならないという思いもありました」

従来の定期的ながん検診を補うことができ、かつすべての社員が手軽に受けられる方法はないか――。その思いに合致し、2022年11月に取り入れたのが、HIROTSUバイオサイエンスのがんリスク検査「N-NOSE」だった。

がんリスク検査「N-NOSE」
がんリスク検査「N-NOSE」

「実は、当社のヘルスケア事業分野でHIROTSUバイオサイエンスさんとは資本業務提携しています。今後グローバルでがん患者が増えると予想される中で、N-NOSEを海外に展開し、世界中のQOL(生活の質)向上に貢献する取り組みを進めているところです。このN-NOSEだと手軽に利用でき、しかも早期がんのリスクも調べることができることから、社内でもぜひ活用しようということになりました」(橋本氏)

がんリスク早期発見に寄与する「N-NOSE」とは

手軽にがんのリスクが検査できるという「N-NOSE」とは、どんなサービスなのか。HIROTSUバイオサイエンス執行役員COOの鈴木彬氏は次のように説明する。

HIROTSUバイオサイエンス 執行役員 COO 鈴木 彬氏
HIROTSUバイオサイエンス 執行役員COO
鈴木 彬

「N-NOSEは、一度の検査で15種類のがん※1のリスクが調べられる、“がんの一次スクリーニング検査”です。当社代表の広津(崇亮氏)はもともと生物の研究者で、線虫という嗅覚に優れた生物が、がん患者の尿に含まれる微量なにおい物質に反応する性質を持つことを発見し、その技術を実用化しました。わずかな尿で検査でき、身体に負担をかけることなく受けられる点も特長です」

線虫の尿への反応
線虫は、人の尿中に含まれるがんのにおいを高精度に検知することができ、その走性行動(健常者の尿からは逃げ、がん患者の尿には近づく)を解析することによって、N-NOSEではがん罹患のリスクを調べる

さらにポイントとなるのが、発見が難しいとされる早期のがんにも反応することだ。「N-NOSEでがん患者をがんと判定する感度は86.3%※2で、ステージ0や1の早期がんにも反応することが確認されています」と鈴木氏は説明する。

N-NOSEを使った一般的な検査手順はこうだ。まずN-NOSEの公式サイトから検査キットを購入し、検査キットが届いたら尿の提出日を予約する(自宅への集荷または指定場所への提出を選択できる)。自宅などで尿を採取して検体を提出すると、約4週間後に検査結果が送られる。

N-NOSEの中身
箱の中に尿採取用の検査キット、提出時に利用する保冷バッグや保冷剤、検体提出の手順書などが同梱されている

判定は7段階に分かれる。ハイリスクの判定が出た場合の次のステップとして、医療機関でがん検診を受けてがんの部位を探るというのが想定されるオーソドックスな利用イメージだ。ハイリスクの判定が出た人は、看護師などの専門スタッフが検査結果の解説や次の検査に関する情報提供、医療機関への相談の仕方などをアドバイスする「N-NOSE安心アフターサービス」(無料)を受けることもできる。

2022年11月17日には、N-NOSEの次に受けるがん種特定検査の第1弾として、早期すい臓がん検査「N-NOSE plus すい臓」が発表された。がん種特定検査の種類は今後さらに増える予定だ。

がんの早期発見につなげるためのN-NOSE活用イメージ
がんの早期発見につなげるためのN-NOSE活用イメージ

「とくに働き盛りのビジネスパーソンの場合、時間的な拘束を受けたり会社を休まなければならなかったりと、がん検診を受けるのは決して簡単ではありません。その点、N-NOSEでは、尿を採取するだけで身体的苦痛もなく簡単、低コスト※3でがんのリスクを調べることができます。

日本では年間に約100万人ががんに罹患している現実があります※4。大企業なら毎年数人が罹患する可能性があるということです。がんは自覚症状なく進行するケースもあり、早期に見つけることがとても重要です。気軽に受けられる最初のスクリーニング検査としてN-NOSEを活用いただきたいと思っています」(鈴木氏)

※1:線虫が反応することがわかっているがん種は15種類(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮がん、すい臓がん、肝臓がん、前立腺がん、食道がん、卵巣がん、胆管がん、胆のうがん、膀胱がん、腎臓がん、口腔・咽頭がん)。なお、N-NOSEではがん種の特定はできない

※2:日本がん予防学会(2019年6月)、日本人間ドック学会(2019年7月)、日本がん検診・診断学会(2019年8月)の発表データより

※3:検査価格は税込み1万4800円~(定価)

※4:国立がん研究センター「最新がん統計」(2022年9月15日更新)によると、2019年に新たに診断されたがんは99万9075例
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

社内診療室で検体を受け入れる体制を用意

今回N-NOSEを取り入れた双日では、東京本社・関西支社の社内にある診療所で検体の受け入れから、検査結果が出た後の相談までフォローできる体制を用意した。11月以降、国内勤務の社員とその家族を対象にN-NOSEを紹介している。

双日の診療室でN-NOSEを提出
双日では診療所でN-NOSEの検体提出から結果が出た後の相談まで対応できる体制を整えた

橋本氏は、「がん早期発見の入り口の1つ」としてN-NOSEを活用できることに大きな意義を感じている。

「一般的に、自覚症状のない状態でがんを早期発見するのはなかなか難しいと思います。だからこそ、尿を採取して提出するだけで早期を含むがんのリスクを検査できるN-NOSEを、従来のがん検診と組み合わせて利用すれば、今まで以上に社員の健康を守れるのではと考えています。希望する社員には、必要に応じ定期的に利用してもらいたいです」(橋本氏)

日本では2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで死亡しているが、「早期発見・早期治療できれば治る可能性が高まる」ともいわれている。早期発見・早期治療を「当たり前」にすれば、長く健康的に活躍できる人を増やせるだろう。がん対策の強化へN-NOSEを活用する双日の取り組みには、まさに「人材が最も重要な資本」と捉える姿勢が表れている。

>線虫によるがんリスク検査「N-NOSE」サービスサイトはこちら

双日の橋本氏