
古田 玉塚さんはいつから経営者を目指すようになったのですか?
玉塚 きっかけは旭硝子時代にアメリカにMBA留学をしたことです。海外勤務を経て経営を徹底的に学びたいと思い留学したのですが、そこで出会ったのがジーパンにキャップという出で立ちの青年実業家。どこにでもいそうな若者が2000~3000億円の企業を動かしていて自らのビジョンを熱く語っている。その姿に衝撃を受けてこのままでは日本の企業は絶対に勝てない、自分もチャレンジしなければいけないと思い転職を決意しました。
古田 旭硝子にいては難しいと感じた?
旭硝子、日本IBMを経て、ファーストリテイリングへ。02年に同社社長。05年に退任後、リヴァンプ創業。10年にローソンに入社し、14年5月より同社社長。慶應義塾大学卒
玉塚 現在の旭硝子は全くそうでないですが、当時は年功序列で、いくら頑張っても自分が経営に参画できるには最低でも20年くらい先と考えました。
当時の上司に「表に飛び出してチャレンジしたい」と直談判したところ何とか承認を受けて、日本IBMへ転職することになりました。日本IBMではコンサルティングを行っていたのですが、あるとき澤田さん(澤田貴司・リヴァンプ代表取締役)に呼ばれてプレゼンに向かった先がファーストリテイリング。初めてお会いした柳井さんは私のプレゼンを聞いて開口一番「君、本当は何をしたいんだ」。この人には嘘をつけないなと思い「本当は経営をやりたい」と伝えたところ「経営はMBAやコンサルじゃできない。死ぬほど考えてやり続けないとできない」と諭され、この人のエキスを吸えば自分のやりたいことが見つかると思い「丁稚奉公させて下さい」とポジションも給与も何の約束もないままファーストリテイリングに入社しました。
「自立型」の人間が成長を続ける
古田 人生というのは、年を重ねるほど子どもの頃の自分と違うことはできなくなるものです。履歴書に書かれているのは氷山の一角に過ぎず、水面の下に隠れている部分が実は大事であったりする。玉塚さんには子どもの頃から現在までつながる「軸」のようなものがありますか?
玉塚 私の場合は40代半ばくらいまで「成長」が最大のモチベーションでした。ラグビーをやっていた自分や旭硝子の自分、ユニクロの自分に今会ったらどう思うか。そこで常に「成長した」と感じられる自分でありたいと走り続けてきたというのが実感です。私は基本的に人間にはそれほど大きな能力の差というものはないと考えていて、感受性や真摯に努力する生き様でその後のあり方が変わっていくのだと思います。
古田 ファーストリテイリング時代は急成長する組織を率いていたわけですが、多くの社員を目の当たりにして感じたことはありますか?
玉塚 ユニクロのような厳しい環境下で成長していく人はみな「自立型」の人間、自分に矢印をあてて自立している人達でした。そうではない「依存型」の人間はみな、会社の不満ばかり言って自分から動こうとしない。やはり日々の働く姿勢が大事なのかなと思います。
自分と向き合ったその先に
キャリアは開ける
神戸製鋼、野村證券を経て、96年に日本初のエグゼクティブ・サーチ会社縄文アソシエイツを設立。現在、同社代表取締役。東京大学卒
古田 私はヘッドハンターとしてこれまで数多くの方のキャリア支援を行ってきましたが、成功した方々に共通するのは本当に悩んだときに、敢えてつらいほうの選択肢を選んでいるということです。玉塚さんの場合はそれが旭硝子を辞めることであり、ユニクロへ転職することだった。なぜ、安定を捨て新たな環境に飛び込もうとお考えになったのですか?
玉塚 実は私は世間で言われる「キャリアプラン」というものを考えたことがありません。節目節目で自分と向き合った結果、自然とその道に進んでいたというのが正直な感想です。ユニクロに入ったのは柳井さんという「創業社長」に初めて出会い、自分をイチから叩き直していただけると思ったから。ローソンに入社したのも、“みんなと暮らすマチを幸せにする”という理念への共感と経営者としてもう一度足腰を鍛え直そうと思ったからです。
自分自身と向き合うことで見えてくる課題、そこから逃げずにチャレンジを続けること。徹底的にやり切ることで次のステップが見えてくる。これまでを振り返るとそのように思います。
古田 自分のキャリア形成について日々考える必要はありませんが、一年に一度くらい考え、目の前の事や自分自身と向き合うことをしたほうがいい。「キャリアアップ」という言葉がありますが、正確には「キャリアディベロップメント」と言うべきでしょう。自分自身と向き合い、キャリアを深く掘っていく。グッとこらえて沈まなくてはいけないときもあるし、結果として転職を選ぶ場合もある。転職はあくまで手段であって、目的ではありません。
玉塚 私も、転職を考える後輩たちから相談を受けることが多いのですが、安易に背中を押すことはありません。新しい環境に飛び込むことは簡単なことではないしリスクもある。今いる場所で他にできることはないのか、徹底的にやり切ったと言えるのかをしっかり考えてみる必要がある。その上で本当に挑戦したいという強い意志があるのであれば、それはもうぜひチャレンジしてほしいと思います。