地域経済の活性化目指す老舗投資ファンドの挑戦 「強靱な地域企業集団」を形作り相乗効果を狙う

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エンデバー・ユナイテッド5名の合成写真
急速なビジネス環境の変化の中で、企業が抱える経営課題は尽きない。事業承継やノンコア事業の売却(カーブアウト)といった課題を解決するために、プライベートエクイティ(以下、PE)と呼ばれる投資ファンドが活躍する局面が増えている。近年とくに注目されるのは、「ロールアップ投資」だ。これは複数の投資案件を資本的につなげていくという投資ファンドならではの投資手法。各企業の経営資源を有効活用することで相乗効果を生み、企業集団全体の価値向上を実現できる。2000年代初頭、日本のPE黎明期に「和製ファンド」としてグループ創業し、現在も業界をリードする「エンデバー・ユナイテッド」に聞いた。

日本らしい投資ファンドのあり方を模索し、時代の要請に応える課題解決型の投資を推進

「エンデバー・ユナイテッド」(以下、EU)は「にっぽんのための投資ファンド」を標榜し、当時の社会的課題でもあった事業再生を主な投資テーマとするファンドとしてスタートした。日本的な企業経営を踏まえ、友好的かつ適切な形で資本の提供を行う。さまざまな経営課題に投資先の役職員と同じ目線で向き合い、解決に取り組む。このようなスタイルで数々の投資先企業の価値向上を実現させてきた。近年は社会情勢や経営課題の変化を背景として、事業承継やカーブアウトが主要テーマとなる投資が増えているそうだ。

投資先では、後継者不在や組織上のしがらみ、過去からの負の遺産といったさまざまなタイプの課題が存在し、時に人間的な総合力が試されることも多いという。だがそこが、事業再生案件で難局にある企業の複雑で困難な課題を解決してきたEUの得意とするところだ。

また、投資先のサポートにおいて、投資案件のソーシングからEXIT(投資回収)までを一気通貫で担当する投資フロントメンバーに加え、バリューアップ活動を側面支援するアドバイザリーチームから状況に応じて専門人材(業界知見・DXなど)を投入し、高いレベルで効果的な課題解決に取り組む。これも優秀な人的資源を豊富にそろえるEUの強みだ。

近年EUは地域の中堅企業にも積極的に投資を進めている。地域マーケットは、多くの業界において断片的で閉じたものであることが少なくない。そこに個別の有力企業は存在すれども、投資案件としては小粒だったり、個社の経営リソースに限りがあったりといったケースは多い。そうした場合に有効な投資手法がロールアップだ。地域の小規模な中堅企業であっても、個社の個性や強みを持ち寄り、共通のプラットフォームを高度化し、ガバナンス・経営管理機能を増強することにより、都市部の大企業と伍するだけの力をつけることが可能となる。

ロールアップを通じて強靱な地域企業集団の組成をプロデュース。それを地域経済の活性化につなげる。これが地域企業への投資を進めるEUの戦略軸の1つとなっている。

投資先企業に徹底して寄り添ってきた結果、EUは設立以来延べ約3000億円のファンドを組成し、70社を超える企業へ株式投資を実施。加えて先頃は新ファンド(9号)のファーストクローズを迎えた。

新ファンドでは、ロールアップ投資をさらに推進する計画だ。事業環境の変化が激化する中で、EUが資本的触媒として地域の有力企業を資本的につなぎ合わせることで、投資先企業の体力を高めながら成長余地を追求し、地域経済の活性化を実現させている事例を、現在進行中の案件から2つ紹介しよう。

地域をつなぐ「強者連合」の組成により、地域建設業界の課題を乗り越え

UNICONの小野中村が施工した大洲地区海岸工事
UNICONの小野中村が施工した大洲地区海岸工事
東日本大震災の津波で被災し寸断されていた大洲海岸を復旧させた工事。大洲海岸は日本百景の1つであり、松川浦県立自然公園の潟湖(せきこ)である松川浦と、太平洋を約7キロにわたって仕切る海岸。津波によって寸断されていたが、この工事により再開通した

UNICONホールディングス」(以下、 UNICON)は、南東北を事業エリアとする地域建設業連合だ。持ち株会社として宮城県仙台市に拠点を置き、山和建設(山形県西置賜郡小国町)、小野中村(福島県相馬市)、南会西部建設コーポレーション(福島県会津若松市)という、公共土木(道路・港湾・河川・ダムなど)を得意とする3つの事業子会社を擁している。

エンデバー・ユナイテッド マネージングディレクター 中原慎一郎
マネージングディレクター
中原 慎一郎

地域建設業界には多くの課題がある。「この業界には地域ごとに閉じた市場が断片的に存在している状況があります。各々の市場にはマーケットリーダーが存在しているものの、その中では個社の成長余地におのずと限界があります。また、国策としての国土強靱化需要は期待されますが、地域別で見れば受注の繁閑差は大きく、そうした状況下で技術者を安定的に確保することも容易ではありません」とマネージングディレクターの中原慎一郎氏は説明する。

そこでEUは、断片市場に点在していた各地域の有力企業を資本的につなぐロールアップ戦略を考案した。グループ企業を増やしていくことにより単独企業での成長の限界を乗り越えるとともに、グループ全体では受注を平準化。さらに技術者をグループ企業間で転籍させる仕組みを整えることで、繁忙期にある地域に技術者を集約し不足の解消につなげた。さらに技術者が転籍先の得意分野の実績を積むことで、元の会社に戻った際に、今まで受注できなかった分野の仕事を獲得できるようにする取り組みも進めている。また、UNICONの話題性から東北地方で名が知られるようになり、地元・東北を出て都市部で活躍している優秀な人材からのUターン応募が増加するなど、さまざまな効果が生まれている。

エンデバー・ユナイテッド 執行役員 青海孝行
執行役員
青海 孝行

執行役員の青海孝行氏はPEの醍醐味について次のように話す。「弊社がビジョンとして掲げているのは、『投資先の皆様と共に汗をかくこと。同じ目線で、同じ情熱を持ちながら、共にまだ見たことのない場所へたどり着くこと。泥くさくても、愚直に。なにより誠実に』。これを従業員皆が大切にしています。投資先の役職員の皆様と共に汗をかき、経営課題の改善に取り組み、それがしだいに投資先の自走へと変わっていく。業績面、役職員の表情や発言が変わっていくことで会社の改善や成長を感じられることは、この仕事のやりがいであり喜びでもあります」

UNICONは今後、年1件程度のペースでロールアップを進め、参画各社がさらに地元で活躍できるようなプラットフォーム機能の盤石化を図りつつ、近い将来のIPO(新規株式公開)も見据えている。

地域住宅ビルダーが目指すIPOと全国制覇

ロゴスHDによる木造住宅の工事化
ロゴスHDによる木造住宅の工業化
工場で製造したモジュールを現場で組み上げることで、現場の大工工事の生産性が3倍に改善

本社を北海道札幌市に置く「ロゴスホールディングス」(以下、ロゴスHD)は住宅ビルダー3社と、グループのプラットフォーム機能を担う1社で構成されている。グループのコーポレート・マーケティング・不動産管理機能を担う「ロゴスHD」、北海道および東北(青森、岩手、 宮城、福島)で多店舗展開する「ロゴスホーム」、札幌で磐石の地位を築く「豊栄建設」、北関東(栃木)で新築住宅に加えてリフォーム・リノベーション・中古住宅の買い取り再販などを手がける「GALLERY HOUSE」、そしてCAD設計業務のオフショア化、DX化支援など、グループ横串でのプラットフォーム機能を担う「ROOT LINK」の陣容だ。

エンデバー・ユナイテッド ディレクター 角山佑樹
ディレクター
角山 佑樹

住宅業界は寡占化が進んでおらず、各地域には高い技術を持つ優良中小ビルダーが数多く存在する。しかし、ロゴスHDのフロントメンバーの1人、ディレクターの角山佑樹氏は「大工をはじめとする技術者の高齢化、採用難による人材不足、住宅規制の複雑化、ウッドショックによる木材価格高騰など、経営環境は厳しくなる一方で、中小ビルダーは単独で生き残ることが困難になりつつある」と業界動向を明かす。

そこで、単独でのIPOを目指していたロゴスホームにEUが資本参画した2019年から、ロゴスホームの成長スピードの加速、住宅業界が抱える社会課題への対応を企図し「地域ビルダーによるアライアンス構想」を着想。全国各地の優良ビルダー・工務店のロールアップを推進する企業連合体、ロゴスHDを設立した。

グループイン企業には、ロゴスHDおよびROOT LINKの持つ管理機能および各種プラットフォーム機能を提供。加えて、グループ内での人材交流も行うことで、グループ各社のリソース補完、ノウハウの横展開を行い、住宅ビルダーが抱えるさまざまな課題を解決することが可能となった。

EU参画以降に実施しているガバナンスおよびコスト管理体制強化による筋肉質な収益構造への転換も加わり、その効果は早くも表れているという。ロゴスホーム単体では、EU参画2年目で売上が1.2倍、営業利益は3.9倍まで改善。3年目には、豊栄建設を含めた連結ベースで売上が2.4倍、営業利益は6.9倍にまで成長した。今後は、住宅業界全体の課題でもある高齢化、人材不足への対策として、木造住宅の工業化(モジュール方式での工場生産)を進め、社会課題の解決を図る方針。現在工場を建設中であるが、工場完成後には年間150棟の生産を計画している。

エンデバー・ユナイテッド 執行役員 中 真人
執行役員
中 真人

角山氏と共にロゴスHDを担当する執行役員の中真人氏は「上場後の目標は全国47都道府県への出店と、現在の年間着工件数約1000棟を30年までに5000棟へ増やし、全国の住宅ビルダーでトップ10入りすること。私たちはEXITするまでに経営基盤を強化し、ロールアップのノウハウもすべて伝え、ロゴスHDが全国の中小ビルダー・工務店からグループインしたいと言ってもらえる存在になれるよう不断の努力を重ねていきます」と展望を語る。

エンデバー・ユナイテッド 代表取締役 三村智彦
代表取締役
三村 智彦
「与えられた資本を投資先の付加価値に変換」

代表取締役の三村智彦氏は「日本のPEは00年代初頭の黎明期に比べるとその認知度を高めてきたといえますが、市場規模で言えば欧米に比べるとまだまだ小さく、その意味では成長余地がある業界。そこで成長を志向するわれわれの行動規範として重視しているのは、『リスペクト(敬意)』『デリジェンス(不断の努力)』『バリュー・クリエーション(価値創造)』。投資家の方々、投資先企業の双方に最上級のリスペクトを示し、与えられた資本を投資先の付加価値に変換していく。そのために徹底したデリジェンスを心がけ、バリューを築き上げていく」とEUのポリシーは揺らがない。理想を実現するスキルや経験、そしてパッションを持ち合わせ、投資先の役職員と汗をかくPEのプロフェッショナル集団の活躍が、どんな未来を開いていくのか楽しみだ。

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