「創業70年のモノづくり企業」が新領域へ挑む理由 ドローンの新トレンド「アタッチメント」の実力

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飛ぶドローン
近年、ドローンを使ったさまざまなサービスが誕生し、様々な分野での活用が期待されている。これまで、カメラでの空撮がドローン活用の主なイメージだったが、多機能なアタッチメントを付け機能を拡張することで活躍の場がさらに広がろうとしている。そんなドローンに搭載するアタッチメントユニットの開発で、存在感を発揮するのがニックスだ。もともとプラスチックメーカーとして創業70年の歴史を誇る同社だが、新規事業としてアタッチメントユニットの開発という道を選んだ。歴史と伝統のモノづくり企業が「ドローンのアタッチメント」に懸けた理由とは。代表取締役社長の青木氏に話を伺った。

ドローンを活用した「社会課題の解決」への挑戦

2022年5月、神奈川県が進めるドローン前提社会の実現に向けたモデル事業で、興味深い実証実験が行われた。田植え(移植)直後の軟らかい水稲苗を食害する「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)対策」として、ドローン粒剤散布による効果検証が実施されたのだ。

実証実験では、ドローンの真下方向に散布可能な粒剤散布機を用いることで、圃場の端まで農薬を散布。その結果、圃場内の多くのジャンボタニシを防除することができた。さらに、労働時間は10分の1に短縮できたというから驚く。

ドローンのアタッチメントユニットとして、粒剤散布機を開発したのは横浜市のニックスだ。同社の粒剤散布機は農薬散布のほか、水稲の直播(種を直接水田にまく栽培)などにも用いることができる。

代表取締役社長の青木一英氏は次のように紹介する。

「当社の粒剤散布機は、保有する特許技術をベースに開発を進め、粒の大小にかかわらず、さまざまなものの散布を可能としています。さらに、これまで粒が大きく散布機でつまりが発生していた『豆つぶ剤®』など、粒径が大きなものについても、詰まることなく均一に吐出ができるのも当社アタッチメントの大きな特長です」

青木社長
ニックス 代表取締役社長 青木 一英

また山口県萩市の圃場でも、水稲品種「大粒ダイヤ」の鉄コーティング種籾(鉄粉を粉衣した種子籾)の均一播種を目指した、直播の実証実験を開始。播種ムラによって収穫量が伸び悩む課題解決に取り組むなど、アタッチメントユニットの可能性を模索する取り組みを進めている。

農業では生産者の高齢化や営農コストの上昇が大きな課題になっている中で、ニックスの粒剤散布機が、労働力代替や効率化を実現することになりそうだ。また同社が開発するアタッチメントは、農業以外の幅広い分野で活躍できると青木氏は話す。

「アタッチメントユニットは粒剤散布機のほか、物流などの分野での活用が期待できる荷物運搬キャッチャーや、災害発生時にドローンが着陸できない場所へ物資輸送などで活用できるウインチリールなど多彩なラインナップを揃えています。いずれもドローンの利活用の幅が広がることで、社会課題の解決に大きく貢献したいと考えています」

「創業70年のモノづくり企業」知見と経験を生かして

ドローンを活用したさまざまなサービスは市場規模も年々拡大し、参入企業も増えている。スタートアップやベンチャーといった新興企業が多い市場だが、ニックスはそれらの企業とは一線を画す。同社は2023年に創業70周年を迎えるモノづくりの老舗企業だ。

「当社は工業用プラスチック部品(配線固定部品、機構部品)などの開発・製造・販売をワンストップで行っています。ただし、お客様から言われたものをそのまま作るのではなく、『Nothing to Something』をモットーに、潜在的なニーズも見越した製品作りに努めてきました」と青木氏は話す。

その代表的な製品が、プリント基板実装工場で、基板を保管するラック「Nikko-Rack (ニコラック)」だ。プリント基板の保管・搬送用冶具だが、ワンタッチで調整できる利便性や、特殊な樹脂を用いた導電性があるため、静電気が帯電しICなどを壊すこともない。これらの画期的な機能が評価され、国内ではトップクラスのシェア、世界でも販売実績100万台を超えるヒット製品となっている。

青木氏は「Nikko-Rackの固定技術は『ドローンキャッチャー』にも応用されています。今後とも、材料開発やメカ設計など当社の得意とする要素技術を生かし、世の中にない製品を生み出していきたいと考えています」と力を込める。

今回、ニックスがドローンに搭載するアタッチメントユニットを事業展開することになった背景も、同社ならではだ。

「2020年に新事業創出を目指し、社長直轄プロジェクトとして開発を開始しました。社員から100以上の事業アイデアが出たのは嬉しい誤算でしたね。その中からドローンを選択したのは、今後発展が見込めそうな市場であることと、当社の知見や経験を生かして、社会課題を解決できるのではないかと考えたためです」と青木氏は説明する。

法規制や仕様が固まっていないものを具現化する

「今までできなかったさまざまなことができるようになる」青木氏が語るように、ドローン市場の発展には大きな期待がかかる。

同社のアタッチメントユニットについても、荷物運搬キャッチャーは、ECサイトの台頭による物量の増加や、少子高齢化による物流の担い手が減少している中、最後の配送拠点から顧客までの「ラストワンマイル」に活用できる。また過疎地域の買い物難民世帯のニーズにも対応できるだろう。

アタッチメント
ドローン下部に装備されたアタッチメント(粒剤散布機)。幅広い分野での活躍が期待される。

ウインチリールについても活用の機会が増えそうだ。近年、大規模な水害や土砂災害が多数発生しているが、同社のウインチリールは、被災地など電波環境が悪くなる可能性がある場所においても、操縦者とドローンの通信ができていれば着脱可能なメカ式の切り離し機構を採用しているという。

さまざまな分野で、ニックスのアタッチメントユニットが採用される機会も増えることが予想される。前例のないことへの挑戦。青木氏は課題とともに、同社の技術力がそれを解決するカギになると話す。

「ドローン業界では自動車や住宅のように、法規制や仕様が固まっていません。『レベル4※』の解禁も控えていますが、どのような機構であれば『レベル4』に対応し、安全にモノを運ぶことができるのか、しっかりと検討する必要があります。当社は長年にわたって安全性・信頼性を重視する製品展開を行っており、技術開発力はもちろんのこと、大量生産する際の品質管理にも自信があります」

同社の他の製品同様に、ドローン産業においても、デファクトスタンダードと呼ばれるような製品の開発が期待される。

「ただし」と青木氏は加える。「当社だけでそれらを具現化するには限界があります。ドローンメーカーや、ユーザーである企業、大学などの研究機関、警察・消防、自治体など、多様な方々と一緒になって課題解決に貢献していきたいと考えています。『こんなことはできないか』といったことをぜひお気軽にご相談いただきたいと願っています」

多くの社会課題が表面化する現代において、ドローンの有効活用は課題解決の1つの答えと言える。様々な業界とニックスが手を組むことによって、その答えの実現はよりスピーディーなものとなるだろう。ニックスがアタッチメント開発を通じて目指す明るい未来は、もうすぐそこまで来ている。

アタッチメントを持つ青木社長

※有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行。22年12月に航空法改正に伴い解禁予定

ニックスのドローン搭載用アタッチメントはこちらから