高級ダウン「モンクレール」が売れ続けるワケ CEOが語るパンデミック後のアパレル戦略

拡大
縮小
モンクレールダウン
1952年、フランス南東部の小さな村で産声を上げたモンクレール。登山家が愛用するグッズメーカーを、世界に名だたるハイブランドへと生まれ変わらせたのが、2003年に経営権を取得した会長兼CEOのレモ・ルッフィーニ氏だ。創業70周年という節目を迎えた今、アパレル業界を取り巻く現在の情勢やモンクレールが追求するモノづくりの哲学について、直接話を聞く機会を得た。

モンクレールの売れ行きが絶好調だ。直近の2021年期通期決算におけるグループの連結売上高は、前期比42.0%増となる20億4610万ユーロ(約3010億円)と、過去最高を記録した。

オンラインとオフラインは地続きの購買体験

「パンデミックは、私たちの働き方、楽しみ方、買い方を変えました。また、世界中の人々のライフスタイルやプライオリティを変えてきました。人々が都市部から郊外に家を移し、アウトドアライフがより重要視されるようになってきたことも、その変化の1つです。ハイキングの成功と成長も、このような意識の変化を物語っています」

レモ・ルッフィーニ氏は、こうしたパンデミックによる変化は、ブランドにとって商機になり得ると見解を示した。

「これらの新しいライフスタイルのトレンドは、私たちのようなスタイル、品質、パフォーマンスを基本とするブランドにとってチャンスとなる可能性があります。モンクレール グルノーブルのサマーバージョン"ダイナミック"を発表しましたが、非常に好評で、グルノーブルが一年中アウトドアで活躍する大きな可能性を持っていることを示せました」

2021年にはECビジネスを内製化させるとともに、リアル店舗でのデジタル化を推進させていることも経営力の強化につながった。

「顧客のショッピング体験も変化しています。例えば、ネットサーフィンしてから店頭で買う、店頭で見てネットで買う、店頭で見てソーシャルメディアで買うなど、オンラインとオフラインは同じ体験の一部になっています。私たちはクライアントの立場に立って考え、あらゆる接点においてシームレスな体験を提供するブランドであることを保証しなければなりません。私はブランドとの絆を深めるには店舗が引き続き非常に重要であり、適切でユニークな体験を提供するために、セールスアドバイザーがカギになると確信しています。同じように、デジタルが人と人とのつながりに多くの新しい機会を与えてくれることも知っています」

ブランド人気を支える2つの取り組み

モンクレールダウン

モンクレールの高級ダウンジャケットが売れているのは、世界最高級の原料と革新的な製造技術を掛け合わせていることに加え、2つの理由が挙げられる。

1つが、2018年からスタートした「モンクレール ジーニアス」の展開だ。それぞれの分野で活躍しているクリエイターにオファーしてまったく新しい製品を生み出そうというプロジェクトで、彼らのビジョンやクリエイティブマインドを通じてモンクレールの再解釈が行われ、常に話題を生み出している。

「従来のファッションシステムのルールを破ったことで、私たちにとっても、業界全体にとっても根本的な変化となりました。ブランドの魂を再解釈するために呼ばれた外部のデザイナーが、異なるコミュニティや世代に語りかけること、シーズンなしでストアに継続的な新しさを提供すること、キュレーション編集企画を通じてクライアントとのコミュニケーションや交流が継続的に行われることなどを実現し、多くのエネルギーとバズを育んでいます」

もう1つが、サステナブルへの積極的な取り組みだ。2015年以降、モンクレールはサステナビリティをビジネスモデルに組み込み、「2020-25 サステナビリティプラン」では気候変動対策、循環型経済、公正な原料調達、多様性の強化、地域社会への還元という5つを戦略的な目標に提示。モンクレールのコレクションで使用されるナイロンの50%をリサイクルし、コットンの50%をオーガニックまたは再生農法による素材に置き換え、ウールの100%を責任あるウール基準認証のもとで使用するなどさまざまな取り組みを遂行し、一部は達成したという。

レモ・ルッフィーニ会長
モンクレール会長兼CEO
レモ・ルッフィーニ 
1961年生まれ。2003年に現職に就くとブランドの大規模な国際的なリニューアルを敢行し、ダウンジャケットが世界的な人気を勝ち取る。その経営手腕は高く評価され、イタリアの「グイド カルリ」賞や、イギリスの「ブリティッシュ ファッション アワード」における“ビジネス リーダー”など、各国で権威ある賞を受賞している。

「世界が直面している巨大な環境問題や社会問題に対して、企業として貢献することが重要です。世界は "ヒートアップ "しており、問題は先送りできません。私たちが自分の役割を果たそうとするのは、第一にそれが正しいからであり、次に消費者がそれを求め、投資家もそうであり、従業員もこれまで以上に、そして子どもたちも私たちにこのコミットメントを期待しているからなのです。またサステナビリティには最終目的地がなく、終わりのない挑戦であるため、もっと多くのことを行う必要があるのです」

昨今の市場の変化として、ルッフィーニ氏は「モノを所有することがすべてではなくなり、体験や人と人との繋がりが、コミュニティへの帰属と同じようにますます重要になってきた」とも話している。魅力的な製品を打ち出すことはもちろん、こうしたサステナブルへの姿勢も、人々の心を捉える要因となっている。

東京でも70周年記念プログラムが開催される

モンクレールマヤ
豊富なカラーパレットが展開される「モンクレール マヤ 70 ジャケット」。左上から時計回りに、オーバージーン、カーボン、ジャッファオレンジ、チェリー、ライラック、リチェンブルー、ビンテージカーキ、バター。ほかにブラウン、ボタニカルガーデン、ムーンシルバー、スノーフレークホワイトの計12色を展開

創業から70周年を迎えた2022年10月、記念製品として「モンクレール マヤ 70 ジャケット」が発売された。50年代のヒマラヤスタイルにインスパイアされ、2003年にリデザインされたロングセラーのダウンジャケットをベースにしたもので、12色の特別なカラーパレットが用意されている。

「ブランドにとって節目であり、象徴的な瞬間であるため、"マヤ"に再び着目することにしました。ブランドの魂とレガシーを最もよく表現するシグネチャーピースとして、愛され続けているジャケットです。シルエット、色、生地、そして腕の特別なアニバーサリーロゴを新しく解釈したリミテッドエディションを販売しています」

また、同時期にモンクレールの過去、現在、そして未来を祝う70周年記念プログラム「エクストラオーディナリー・エクスペディション」をスタート。10月5日にニューヨークでキックオフされ、その後はロンドンや東京、ソウルなどでポップアップスペースが開かれる。

「これらの都市は、私たちがエンゲージしたいコミュニティであり、新しく繋がりたいコミュニティだと考える、キーとなる国際都市です。この『エクストラオーディナリー・エクスペディション』は地域やフィジカルな関わりだけでなく、デジタルな広がりも持つという、私たちの継続的なコミットメントを示す一例です。過去と未来、フィジカルとデジタルの間の橋渡しをすることを目的としています」

東京のポップアップスペースでは、デジタルアートのインスタレーションが設置され、ブランドの過去70年を学べる仕掛けが用意される予定だ。

「私たちのブランド・ステートメントは『ファッションを超え、ラグジュアリーを超える』で、このステートメントはまさに私のビジョンを反映しています。今後も伝統的なファッションブランドであるというだけではなく、ファッションとラグジュアリーの世界の一部であるというポジショニングを強化することが基本であり続けるでしょう。また、所有するだけではもはや十分ではなく、人々は体験を求めていると心から感じています。私は、所有よりも体験の力を、そして関係を築くことの価値を信じています。人々は同じ価値観を共有するコミュニティに属したいと思っており、ますますマルチチャンネルになっていく必要があります。あらゆる接点において、常にコミュニティと最も近い関係であろうとするインタラクションを提供していきたいと考えています」

時代を捉え、常に革新的な取り組みを実践しているモンクレール。迅速で柔軟な経営スタイルに強さの秘密があるようだ。

70周年記念プログラム「エクストラオーディナリー・エクスペディション」について詳しくはこちら

お問い合わせ
モンクレール ジャパン
  • 0120-977-747