「働き方&休み方」の新しい形「ブレジャー」 企業もビジネスパーソンも考えるタイミング
欧米では出張の6割がブレジャー
2022年現在、日本の祝日は合計16日。実はこの数、先進国でもトップクラスの多さだ。一説によればこれは、日本のビジネスパーソンの有給休暇取得率が低いため、少しでも多く休ませるためだとか。真偽のほどはともかく、勤労は美徳という考え方が日本人の間に根強くあることは間違いない。だから平日に休むことには多くの人が後ろめたさを感じている。その結果、日本人の旅行はゴールデンウィークなどの連休に集中しがちで、どこの観光地も大混雑となる。
それに対して欧米などでは好きなときに1~2週間の長期バカンスを取るのが当たり前だという。加えて近年は、出張に合わせて休みを取る「ブレジャー」が増えているようだ。国内外の旅行事情に詳しい(公財)日本交通公社 上席主任研究員の守屋邦彦氏はこう指摘する。
「欧米でブレジャーに関するレポートが出始めたのが09~10年ごろです。日本人は働きすぎとよくいわれますが、欧米でも仕事が忙しく、休みを取れないビジネスパーソンはたくさんいます。そういう人たちが出張の前後に休暇を取り、滞在を延ばしたり出張先とは別のところに行ったりして余暇を楽しむようになったのがブレジャーの始まりといわれています。米国における17年の業務目的の旅行の6割がブレジャーだったという調査結果もあります。欧米ではブレジャーの旅行に家族を呼び寄せることも珍しくありません」
日本でも19年以降、働き方改革が進んだことを背景に、休暇を目的とした旅行に仕事を組み合わせるワーケーションや、ブレジャーが拡大する機運が出始めていた。
コロナ禍でいったんストップ
働く側にとっては、交通費を自己負担しなくて済むというメリットがある。仕事の前後に休暇をつなげることで心身共にリフレッシュすることも期待できる。「出張は大変だが、その後(もしくは前)は休みを楽しむことができる」と考えれば、仕事に対するモチベーションも向上するだろう。あくまで仕事が主体だし、職場を空ける日数も少ないので、罪悪感が少ないのではないか。
一方、企業側にとってのメリットはどうか。
「有休の取得率が低い中、ブレジャーを制度として導入すれば社員も休暇が取りやすくなり、働き方の改善、業務外での経験による視野の拡大、エンゲージメントの向上につながるでしょう。若い人は就職先を選ぶ際、フレキシブルな働き方でワーク・ライフ・バランスを保てるか、会社がそのための環境を整えているかといった点を重視する傾向がありますから、人材確保・離職率低下にも好影響が期待できます。長い目で見れば企業ブランドや競争力の向上に結び付くことになります」(守屋氏)
出張先、旅行先の都市や観光地もメリットを享受できる。連休など旅行が集中しがちな繁忙期以外に来てくれるし、交通費が自己負担でないため、一般的に財布のひもが緩む傾向にあるそうだ。そもそも出張でなければ来なかったかもしれないということを考えれば、ありがたい機会創出だ。地方創生のためには観光の強化が不可欠だが、ブレジャーが普及すれば波及効果は大きいだろう。
だが、日本でもブレジャーが広がるのではという機運が出てきたところで水を差したのがコロナ禍であった。長引く外出自粛の結果、20年には観光地だけでなく都市部でも人流が激減し、在宅勤務やオンライン会議などの普及により出張は限りなくゼロに近い状態になってしまった。企業もビジネスパーソンも、ブレジャーどころではなくなってしまったのである。
企業は規定の整備などが必要
では、新型コロナが収束したらどうなるのか。
「この約3年間でテレワークが一気に進んだ結果、コロナが収束しても以前と比べると出張機会は減るかもしれません。けれど逆に出張に行ったときは、せっかくの機会だから休暇も楽しもうという動きが広がる可能性があります。たった1件の会社での予定のために滞在延長を諦めて戻るしかないような事態も、リモートの普及によりむしろ解消されるかもしれません。私たちが行った調査でも、ブレジャーを実施したいという需要は確かにあることがわかっていますし、企業がブレジャーを制度化すれば働く側も利用しやすくなるでしょう。事例も出始めていますので、長期的には拡大していくのではないでしょうか」
ただし、ブレジャーの普及には課題もある。出張先からさらに別の場所に移動したとき、交通費の精算をどうするのか、事故に遭った場合、労災は適用されるのかなど、ブレジャーを制度化するためには多くの企業が社内規定の整備を迫られるだろう。また、出張の多い職種とほとんどない職種の間で不公平感が生まれるのでは、という懸念もある。
本気で普及させたいのなら、まず管理職やマネジメント層が積極的にブレジャーを実践し、社員たちに働きかける必要があるだろう。仕事は仕事、休暇は休暇とはっきり分ける日本的な考え方も、ブレジャー普及のハードルになりうる。また、旅行者を受け入れる側も、長期滞在しやすい施設や環境を整備し、観光客を引きつける魅力的なコンテンツをつくり、発信する努力が求められる。
新型コロナが収束すれば、インバウンドも徐々に戻ってくるだろう。日本人が生き生きと働き、充実した余暇を楽しめるよう、いったん仕切り直しとなったブレジャーについて、企業、ビジネスパーソン、観光などのサービス産業は改めてじっくり考えたほうがよさそうだ。