「空気質改善」の歴史が動くターニングポイント 新しい時代に寄与する「次亜塩素酸」の可能性
次亜塩素酸技術の革新、その始まりの日
実は次亜塩素酸は、古くから社会のさまざまなシーンで活用されてきた。例えば、料理人が包丁に次亜塩素酸水をかけて消毒したり、あるいは鮮魚店が営業後、次亜塩素酸水を店内にまいたり。いずれも、次亜塩素酸の強い除菌・脱臭効果を活用した生活の知恵である。
今から30年ほど前のこと。そんな次亜塩素酸の希有な性質に目をつけたのがパナソニック(当時三洋電機)だ。もともと同社は次亜塩素酸を、カップ式自動販売機の除菌装置や、プールの水の浄化、次亜塩素酸で洗う洗濯機などに使っていたが、空気の除菌・脱臭効果に注目。さらに空気清浄機や加湿機などで培った技術と融合し、2013年に業務用の空間除菌脱臭機「ジアイーノ」を発売。2017年には家庭用を、2020年には設備用として水道直結型を発売し、ラインナップを拡充してきた。
ジアイーノが注目度を高めたのが2020年。同製品の菌・臭いに対する高い性能が注目され、2020年の販売台数は2019年比の2倍超となり、累計販売台数は同年30万台を突破した。
そして2022年4月。次亜塩素酸技術を生かした製品開発において、ターニングポイントとなる施設が誕生した。次亜塩素酸の効果検証を、実際に使用される環境を模擬した空間で行う「IAQ検証センター」(※1)が、空間除菌脱臭機「ジアイーノ」を手がけるパナソニック エコシステムズ(愛知県春日井市)に設立されたのだ。
同社代表取締役社長・小笠原卓氏はこう話す。
「同センター設立の目的は、次亜塩素酸の可能性をより大きく広げることにあります。これまではジアイーノをはじめとする当社製品を、実際に使用される環境で効果検証を行うことができなかったのですが、センターの設立によってそれが可能になりました。これからはより高度で、精度の高い検証をスピーディーに行うことで効果を明らかにし、次亜塩素酸の可能性を広げていきたい。われわれの技術で、世界中の人達の生活環境を向上させる。その第一歩として、センターの設立は大きな意義を持つと考えています」
技術発信の拠点「IAQ検証センター」とは
センター内には、国内の空調・換気業界で初(※2)となる設備が複数備えられている。その1つが、気体状の次亜塩素酸濃度と、温度・湿度を制御できる、「ジア環境BSL2(バイオセーフティレベル2)試験室」(※3)だ。バイオセーフティレベルとは、実験施設で扱えるウイルス・細菌の危険度をレベル別で分類するもの。これにより、実物のウイルスを用いながら、エアロゾルに対する除菌効果の測定などが可能となった。また同設備は2室あり、室内の環境条件を変えた比較試験も行える。
そして同じく業界初となる「実空間除菌試験室」(※4)。こちらでは、部屋の広さを6畳から80畳にまで自由に変えられる。お客様が使用する部屋の大きさを想定して、空間の広さを合わせて除菌脱臭試験が行えるのが大きな特長だ。さらに室内外の温湿度の設定も可能で、外部条件の影響を受けない高精度な試験が可能となる。また同センターは、施設向けの空間除菌脱臭機や熱交換気システムなどを、実際の設置状況に近い環境で評価できる「空質空調検証室」も備える。
同社技術担当執行役員の岡本剛氏は、IAQ検証センターにこう期待を込める。
「同センターでは気体として放出された次亜塩素酸のエアロゾルに対する除菌効果など、これまでは難しかった検証も進められます。また、各試験室は温度・湿度などの条件をコントロールできるようにしており、夏に冬の環境をつくり出すなど、季節に関係なくいつでも試験が行えるため、開発スピードを大幅に速められます。基礎研究と検証体制の強化を実現したことで、次亜塩素酸技術をさらに深く掘り下げて磨きをかけていくとともに、今後は各国の環境に合わせた試験も積極的に行い、グローバル展開もさらに強化します」
空気の価値を「見える化」する取り組み
また、小笠原氏は、お客様に対して“見えない空気における次亜塩素酸の効果をわかりやすく定量的に示すこと”にも言及する。
「目に見えない空気を扱うので、これまでは効果や安全性を説明しにくい部分もありましたが、同センターができたことで、実測した数値をベースに説明できるようになります。これにより、お客様がより効果への確信と安心感を持って使っていただけるようになることに、大きな意味があります」
今後同社は、IAQ検証センターで得る知見を生かしながら、オフィスや介護施設、商業施設などへの次亜塩素酸技術を使った空調設備システムの提供にも注力していく。例えば、天井埋込形ジアイーノは、給排水を自動化し、塩タブレット投入の手間を極力省いてさまざまな施設に導入しやすくするなど、除菌・脱臭効果を広く提供できるようにしている。また、同システムの開発設計から施工・メンテナンスまでを一括して請け負うことで、事業の拡大も見込んでいる。
さらに、業務用・家庭用の空間除菌脱臭機「ジアイーノ」新機種を10月に発売。それに伴い、家庭用については販売促進策として行っている2週間無料レンタルやサブスクリプション、業務用についてはリースなどのサービスもさらに強化。より多くのお客様に実際に使っていただき製品価値を体感してもらうことで、世の中に普及させる狙いだ。
空質7要素で「空気から、未来を変える。」
人間は、実に人生の90%を室内で過ごすといわれている。また、人間が最も体に多く取り入れているものは空気で、体調や作業効率に直接影響する。安心、安全の面でも空気、とりわけ室内空気質(IAQ)は重要であることに疑いの余地はない。
小笠原氏が副社長を務めるパナソニック 空質空調社のブランドスローガンは、「空気から、未来を変える。」である。社会課題に対して同社が保有する知見やテクノロジーのさらなる革新を進め、社会とお客様起点で、新しい価値を創出していく、という想いが込められている。また、顧客提供価値として、「空気から、安心安全を。」「空気から、社会に活力を。」「空気から、健やかな地球を。」の3つを掲げ、事業活動を展開している。
小笠原氏は、IAQ機器を通じて同社が果たす役割についてこう話す。
「今後迎える100年は少子高齢化に伴い、健康寿命の延伸や労働生産性の向上が、さらに大きな社会課題になるでしょう。これらの課題に対し、私たちは空質7要素の温度・湿度・清浄度・気流・除菌・脱臭・香りをコントロールすることで、解決策を提案します。例えば、温度・湿度・気流の最適な制御でヒートショックや熱中症を防いだり、湿度・除菌の制御でウイルス・ダニ・カビを抑制し、健康寿命の延伸に貢献することで、『空気から、安心安全を。』提供します。また、温度・湿度のバランスや1年中快適に過ごせる空気質の提供により、労働生産性を向上し、『空気から、社会に活力を。』実現します。安心安全で活力のある社会を目指すとともに、省エネで高効率な製品を開発し、環境にも貢献していくことで、『空気から、健やかな地球を。』実現することが当社の使命だと考えています」
「空気の質」の重要性がますます高まる中、パナソニック エコシステムズは、空質7要素を自在にコントロールすることで、さまざまな社会課題を解決しようとしている。これに寄与する技術の1つが次亜塩素酸であり、IAQ検証センターの設立は、その研究をさらに加速させるための、力強い一歩といえるだろう。
※1 IAQ:室内空気質(Indoor Air Quality)
※2 2022年1月12日現在。同社調べ
※3 バイオセーフティレベル2を備え、室内の温湿度と気体状次亜塩素酸濃度を制御できる設備が業界初。同社調べ
※4 10~132平方メートルまで室内サイズを変更でき、室内外の温湿度を制御できる設備が業界初。同社調べ