世界に羽ばたくテックイノベーターを発掘する KPMG Global Tech Innovator Competition

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KPMG Global Tech Innovator Competition in Japanの模様を合成
日本発スタートアップの事業成長を支援するチーム、KPMGジャパン プライベートエンタープライズセクターは、2022年7月にテクノロジー系スタートアップのピッチイベントを開催。強豪スタートアップが参戦し、同年11月の世界大会出場への切符をかけ、17社が熱いピッチを繰り広げた。ここでは、斬新なアイデアと革新的なテクノロジーを基盤に予選を戦い抜いたスタートアップを紹介する。

KPMGが総力を挙げて「社会を変える企業」をサポート

世界144の国と地域に約24万人の専門家を抱えるグローバルネットワークKPMGは、監査、税務、アドバイザリーの分野で専門性の高いサービスを提供している。その活動の一環として、起業家やスタートアップのポテンシャルと世界に与える影響力を最大化させ、大胆なイノベーションをサポートするため、2021年に「KPMG Global Tech Innovator Competition」を立ち上げた。

社会価値を創造するスタートアップエコシステムの構築に向けて、世界各国で予選のピッチイベントを実施。代表に選出された各国の企業は、KPMGの専門家のサポートや指導を受けた後、22年11月にポルトガルのリスボンで行われる世界大会に臨む。

世界大会では、ピッチコンテストの実施や参加企業のブースを展示。昨年は17カ国、今年は24カ国からスタートアップの参加が見込まれている。グローバルで予選を勝ち抜いた企業が肩を並べるピッチとあって、各国のスタートアップのファウンダーや投資家たちもオンラインで視聴を予定。スタートアップにとって認知度を高める絶好の機会だ。

KPMG Global Tech Innovator Competition in Japanでのプレゼンの様子

今年の世界大会に向け、日本では7月27日に、KPMGジャパンの主催で予選「KPMG Global Tech Innovator Competition in Japan 2022」を実施。最新のテクノロジーを強みに持つ、日本発のスタートアップが虎ノ門ヒルズ(CIC東京)に集結した。コンペの最優秀企業1社は、世界大会出場に当たり、KPMGジャパンによるピッチに向けたコーチングやアドバイス、渡航費や宿泊費の全額補助など手厚いサポートを受ける。

開催に当たり、KPMGジャパンチェアマンの森俊哉氏は、「社会的価値が高く、日本ならではのテクノロジーに優れたスタートアップを世界に送り出したい」と意気込みを語った。

その期待どおり、予選に登場したのは、斬新なアイデアと革新的なテクノロジーを基盤にしたスタートアップ17社。主にAI、ライフサイエンス、ヘルステック、フィンテックなどの分野で頭角を現している企業が参戦した。

AI、ロボット、医薬まで熱を帯びたピッチを展開

国内予選への参加は事業開始後5年以内の日本のスタートアップ企業が対象となっており、すでにビジネスのスケールに成功している企業から、ブレーク前夜の企業まで顔ぶれはさまざまだ。デジタルイノベーションの分野では、独自性を感じるスタートアップがそろい踏み。誰もが手軽にAIを活用し、意思決定をしやすいセルフデータを整えるSaaS型データ分析AIツールを開発する「datagusto(データグスト)」。仮想通貨の管理に安全性をもたらすため、セキュリティーの面からブロックチェーン活用を支えるインフラサービスを提供する「Ginco(ギンコ)」など、次世代を見据えたユニークなソリューションが目を引いた。

また、最先端のテクノロジーが武器の大学発ベンチャーも参戦。工学系では、従来のロボットでは入れない場所への進入を容易にする、柔らかくしなやかに動くミミズ型のソフトロボットを開発販売する中央大学発「SoLARIS(ソラリス)」や、マイクロ波によるワイヤレス給電を手がける京都大学発「Space Power Technologies(スペースパワーテクノロジーズ)」など、市場ニーズの高い企業が登壇。

医療系も多く、脳梗塞治療を前進させる自家骨髄間葉系幹細胞の製品化に取り組む北海道大学脳神経外科発「RAINBOW(レインボウ)」、侵襲性の低い白血病の検査を実現するゲノム検査を提供する「Liquid Mine(リキッドマイン)」など、これまでの技術では一歩届かなかった治療や検査に挑戦する企業が目立った。

拮抗する実力と可能性、世界と伍して戦える企業を選出

約4時間にわたり展開された熱のこもったピッチ。侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を経て、最優秀賞に選ばれたのは、武田薬品工業から独立した創薬スタートアップの「ファイメクス」。同社の特徴は、タンパク質を標的とした新たな治療法と治療薬の研究だ。人体は1万8000種以上のタンパク質で構成され、そのうち約1500種は特定の疾患に関連するといわれているが、これまで医薬品の標的とされてきたのは、わずか約300種のみ。残り約1200種のタンパク質を標的にすることは困難とされ、創薬研究が進んでいない。そこで同社では、標的とするのが困難な病原タンパク質を細胞内で分解消去するという画期的なアプローチに目をつけ、がん領域の医薬品を開発している。

ファイメクスCo-founder取締役CSO(最高科学責任者)の蒲(がも)香苗氏は、表彰に当たり「創業から5期目を迎え、1つのフェーズを越えてもう1つのフェーズに向かう転換期にあるタイミングで、このようなすばらしい賞をいただき、本当に驚きとともに感謝をお伝えしたいです」とコメント。

審査員長の幸田博人氏
審査員長
幸田 博人氏

審査員長の幸田博人氏は、ピッチイベントの締めくくりに「日本にはすばらしいスタートアップがありイノベーションの可能性があると、世界大会では前向きにアピールし、日本の存在感を示してもらいたい」と寄せた。

KPMGジャパンとファイメクスのタッグで戦いに挑む世界大会。快進撃への期待が高まる。

ピッチ登壇企業の全体集合写真

最優秀企業インタビュー

疾患原因「不要なタンパク質」を分解、創薬の未来を切り開く革新技術で勝負
ファイメクス Co-founder取締役CSO 蒲 香苗氏
2022年度日本代表 最優秀賞
ファイメクス
Co-founder 取締役 CSO
蒲 香苗氏
 当社は、「タンパク質分解誘導剤」に特化した創薬ベンチャーです。具体的には、体の中にある不要なタンパク質を分解するメカニズム(ユビキチン・プロテアソーム系)を活用し、がんなどの疾患の原因になる異常なタンパク質の分解を誘導する薬を開発しています。強みは、タンパク質分解誘導剤として適した化合物を、効率よく合成・スクリーニングする独自の基盤技術「RaPPIDS(ラピッズ)」を保有しているところ。従来の手法では創薬対象にすることが困難だったタンパク質を標的にできるので、創薬の可能性が広がり、ひいては治療の選択肢を増やすことにつながります。
 
阿部 入賞したスタートアップは、本当にハイレベルでした。「世界で戦う」という視点からファイメクス社の選出を決断。「世界大会で優勝できるのでは」と、審査員一同期待を寄せているので、ぜひ頑張ってください。
 
KPMGジャパン スタートアップ統括パートナー 阿部 博氏
KPMGジャパン
プライベートエンタープライズセクター
スタートアップ統轄パートナー
阿部 博氏
 とても光栄です。予選ではバイオテックだけではなく、多種多様な分野のピッチを聞くことができたのは刺激的でした。自分たちの事業を魅力的かつ面白く伝えるための方法を学べました。参加企業の思いを背負って世界大会に挑む責任を感じています。私の役割は、グローバルな投資家にアクセスしてネットワークを構築すること。貴重な機会ですので、しっかりと準備したいです。
 
阿部 政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけていますが、世界に伍して戦えるスタートアップは、まだわずかです。ただ、日本には優れた技術を基盤に製品やサービスを手がけるスタートアップがたくさん存在します。ファイメクス社はグローバルの観点からも引けを取らないと確信していますので、この機会に認知度を高めてほしいです。

受賞企業インタビュー

Private Enterprise賞
(イノベーションを起こす可能性が高いと認めた企業)
京都フュージョニアリング
代表取締役社長

長尾 昂氏
(京都大学 協力研究員)
京都大学の研究開発技術をベースに、究極のエネルギーとされる核融合のプラントエンジニアリング技術を手がける研究開発型スタートアップです。具体的には、核融合炉の加熱装置や熱の取り出し装置などを開発し、商用化を目指しています。核融合はCO2排出ゼロのクリーン電力の供給を可能にし、さらに莫大な熱エネルギーを得られます。発電機を回すだけではなく、海水を沸騰させて淡水化させるなど多様な応用を見込めます。核融合スタートアップは世界で30社程度誕生していますが、われわれは競合不在の工学的ソリューションが中心です。今回、日本発のグローバル企業として世界にアピールできるまたとない機会だと考え、コンペに参加しました。

 

審査員特別賞
(外部審査員が総合的に優れていると認めた企業)
Heartseed
代表取締役社長

福田 恵一氏
(慶應義塾大学医学部 循環器内科教授)
われわれは、重症心不全患者の治療法を開発しています。心筋細胞の一部が壊死してしまう心不全は、5年生存率が50%程度といわれ、抜本的な治療はありませんでした。そこで、われわれは持続的かつ大きな効果を発揮する製品開発を目指し、再生医療製品を手がけています。具体的には、iPS細胞から作った心室筋を心臓に注射で移植し、減少した心筋を補充し「再筋肉化」することで心臓機能の改善を可能にします。世界中で6500万人以上が罹患している心不全の患者に新たな治療法を提供するべく、現在は、世界トップクラスの製薬会社と提携し、グローバル展開にこぎ着けた段階です。今回の受賞により、起業家として世界の医療に貢献する決意を新たにしました。

 

プレゼン優秀賞
(プレゼンテーションのパフォーマンスが高かった企業)
OUI Inc.  
CEO

清水 映輔氏
(眼科専門医)
VP of Global Business
中山 慎太郎氏
清水氏: 慶應義塾大学医学部発のベンチャー企業で、スマホに取り付けるだけで眼を診察できるポータブルかつ簡便な医療機器「Smart Eye Camera(SEC)」の開発実用化に取り組んでいます。発展途上国では適切な眼科診療を受けられず、失明する人は少なくありません。SECを現地の眼科医に活用してもらうことで、白内障などの眼科疾患を早期に発見し、失明のない世界を目指します。
中山氏: SECは社会課題を真正面から解決すると確信しています。ピッチでは製品の価値を伝えるだけにとどまらず、SECを心待ちにする医師のワクワク感や、診察で治療できることを知り、心から喜ばれていた患者さんの思いを伝えられたのではと思います。

 

あずさ監査法人インキュベーション賞
(今後の成長性が高いと認めた企業)
パワースピン
代表取締役&CTO

遠藤 哲郎氏
(東北大学大学院工学研究科教授、東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター長)
半導体の回路設計などを手がける東北大学発ベンチャーです。われわれは、スピントロニクス半導体により、電力を供給せずにデータを保持できるコア技術を保有しています。これは、従来の半導体と比較すると、電力を10分の1~1000分の1に、応用分野によってはそれ以上の省電力化ができる革新的な技術です。例えば、1日に1回は充電が必要なスマホなら、3カ月に1回の充電で済むことになります。消費電力の総量削減に寄与するため、エネルギー問題の解決や誰もが情報化社会のサービスを享受できる社会づくりに貢献できると確信しています。今回、トップクラスのスタートアップの仲間入りをしたいという思いでコンペに参加しました。皆さんの熱量は大きな刺激になりました。