東大阪・ものづくり企業「オゾン推し」で躍進の訳 救急車両での使用など多様な「用途開発」に挑戦
家業で失敗するも、オゾンの力を信じ東大阪で再起
オゾンは除菌・消臭効果を発揮することから、多様な分野で水や空気の処理に使われている。そうしたオゾン関連機器を製造・販売する専門メーカーとして、大きな存在感を放っている企業がある。大阪府東大阪市に拠点を置くタムラテコだ。
同社は2003(平成15)年の創業から約20年で多種多様な製品を開発。オゾンガス、オゾン水製品で導入実績を重ね、業界で確固たる地位を築いた。とりわけ官公庁への納入では豊富な実績を持つ。30代で同社を創業した代表取締役の田村耕三氏は、「しかし最初から勝算があったわけではありませんでした」と振り返る。
起業のきっかけは、家業の失敗だった。田村氏は大手家電メーカーに3年間勤めた後、父親が経営する金属加工会社に入社。ところが会社は、新たに立ち上げた給湯器のOEM製造事業がうまくいかず、4年余りで倒産してしまう。やむなくボイラーのメンテナンスを請け負う会社を設立したのが、タムラテコの始まりだった。
オゾン機器を開発することになったのは、創業して間もなくのこと。ある飲料メーカーから「燃油が高騰し、工場の製造ラインを洗浄するための燃料代がかさんで困る」という悩みを聞いたことが発端だった。
「製造ラインで飲料を充塡する容器や液体を流す配管は、熱湯で洗浄されていました。しかし気温が氷点下近くにまで下がる冬季は、夏季に比べてどうしても給湯に時間がかかり、その分燃料費もかさみます。加えて厄介なのが、においでした。小ロット多品種生産の飲料工場では、同じ製造ラインで異なる飲料を製造することもしょっちゅう。そのたびに洗浄されますが、濃縮原液はにおいも強く、消臭は容易ではありませんでした」
そこで田村氏は、「オゾン水を使ってこれらの課題を解決できないか」と思いつく。父親の会社に勤めていた頃、給湯器の洗浄にオゾンを使った経験が着想に役立った。
オゾンは空気中の酸素から生成でき、それを水に溶かせばオゾン水ができる。原料を必要としないし、常温で使えるため燃料費はかからない。また除菌や消臭に優れているものの、一定時間を経過すると、酸素に戻るという性質もある。早速開発に着手し、ものづくりの街として知られる東大阪でさまざまな知恵を借りながら、約半年でオゾン水生成装置を完成させた。
用途開発と製品開発の両輪で受注を伸ばす
わずか7名の従業員とともにスタートしたタムラテコ。オゾン機器メーカーとしては後発で、事業規模も小さい。しかし同社は、そこから驚くべき勢いで成長していく。
最初は食品工場などに設置する大型機器を製造していたが、開発投資や納入後のメンテナンスに割ける資金や人材に限界を感じ、製品の小型化に注力するようになる。田村氏が採った戦略は、徹底して顧客のニーズを探り、用途開発とともに商品開発を行っていくことだった。
「個々のお客様にお困り事を伺い、それに応える製品を提案することで、徐々に受注を増やしていきました」
さらに、一般消費者向けの市場は大手家電メーカーがシェアを占めており、「ここでは勝負にならない」と見切った田村氏は、業務用分野に注目。消防庁や各地の消防署を管轄する自治体へも提案範囲を広げた。
何度も足を運んでは意見を交換し、ニーズを尋ねることを繰り返した。その熱心さと謙虚な姿勢が相手の心を動かし、やがて「困り事」を聞くチャンスをつかむ。
「そこで教えていただいたのが、『各消防署が救急車の出動要請を受けてから現場に到着するまでの時間を短縮したい』という課題でした」
とりわけ時間がかかる原因になっていたのが、救急車両内の消毒作業に加え、救急車に乗る救急隊員が感染防止用に着用する防護服の除菌作業だった。「従来のアルコール清拭に替えてオゾン水を使えば、除菌時間をもっと短くできる」と考えた田村氏。
「しかしただ提案するだけでは採用していただけません。求められたのが、根拠となるエビデンスでした」
そこで同社が開発したのが、刻一刻と変化するCT値をリアルタイムに表示するオゾンガス濃度計だ。「CT値」は、オゾン濃度と噴霧時間の積から表しており、
このオゾンガス濃度計によってアルコール清拭よりも短時間で除菌できることを実証するだけでなく、作業フローまで作成し提案した。これが支持され、その後数多くの自治体の消防署に導入が進んでいった。今や全国の消防、海上保安庁の納入カバー率は7割を超え、国公立病院や警察、自衛隊、自治体危機管理センターでも高い納入実績を誇る(※)。※同社調べ
目指すのは人・動植物・環境の「ワンヘルス」社会
顧客の悩みや課題に真摯に耳を傾け、一緒になって解決方法を考える。そうしてKBF(重要購買決定要因)を自らつくり出すことで、タムラテコは成長を遂げてきた。
商品ラインナップは35機種を超え、国内外の研究機関・大学などと連携した研究数や特許数も数多く積み上げている。
ここ数年で除菌に対するニーズが急上昇したこともあり、2021年度の売上高はグループ全体で約77億円に上る。わずか7名だった従業員数も、現在は80名まで拡大した。
しかしここで歩みを止めるつもりはない。「当社はどんなときもお客様に課題をいただき、その難題の解決に挑戦することで新しい製品を生み出してきました。これからも成長していくために、新しい課題にチャレンジしていかなければならないと考えています」と、田村氏の意欲は衰えない。
現在取り組んでいるのが、デジタル技術を活用した除菌効果の可視化である。除菌効果を緻密に、かつ一目瞭然に示すという新たなKBFを創出することで、競合ひしめく一般消費者向け製品の市場への参入をうかがう。さらに、生活様式や居住環境の変化によって起こる新たな問題にも目を向けている。浴室の気密化で発生しやすくなっているカビや細菌を除菌するための浴室用オゾンガス発生器の開発・製造にも着手している。
「人間だけでなく、動物や植物、大気などあらゆるものがウイルスや細菌の媒介者となりえます。人間本位に考えていては、この問題は永遠に解決しません」として田村氏は、人間だけでなく、動植物や地球環境も併せ、総合的に健康を追求する「One Health(ワンヘルス)」の重要性を説く。
「当社では、最近『The future with ozone for One Health』というキャッチフレーズを掲げました。ウイルスが人獣共通に感染循環していく流れはこれからも続いていきます。人だけでなく、動物の健康、さらには環境の健康を保つためにも、酸素から生まれ、酸素に戻るオゾンを活用し、極力薬剤に頼らないスタンスをわれわれが提示していくべきであると思っています。そのためにオゾンに関わる技術開発と同時に社会に発信することにも力を注いでいきたい」。人・動物・環境の「ワンヘルス」な社会の実現に貢献するために、タムラテコの挑戦は続く。