JTBが手がける「企業イベント」支持される理由 “旅行”で培った強みも活用した「提案力」とは

企画から演出、ロジ手配までワンストップで提供
古くから多様な形で開催されてきたミーティングやイベント。通常とは異なる非日常的な“交流”が生まれることから、コミュニケーションの活性化や関係性の強化、エンゲージメントの醸成といった効果が期待できる。
JTBでは企業を顧客として、ミーティングやイベントの開催を支援する「M&E事業」を展開。企業の課題は社内向けと社外向けの2つにあると捉えたうえで、社内向けには周年イベントやアワードイベント、キックオフイベントなどを軸とした「組織・人財コンサルティングサービス」を、社外向けには新製品発表会やネットワーキングイベント、コミュニティーイベントなどの「マーケティング支援サービス」を提供している。

ビジネスソリューション事業本部
事業推進チーム 事業推進担当部長
斉藤友輔氏
同社が強みとするのは、旅行会社として培ってきた会場や宿泊、交通の手配といった「ロジスティクス」と、イベントの企画や演出、集客、運営、結果の分析・報告までを含め、イベントの開催前から開催後までをワンストップでカバーするサービス提供能力だ。「一気通貫でアウトソーシングしていただき、実施目的や背景を踏まえて、イベント全体をプロデュースしています」と、事業推進チーム事業推進担当部長の斉藤友輔氏は語る。
その実績も豊富だ。2019年度は1万件超のミーティング・イベント開催を支援。20年度はコロナ禍の影響で大きな打撃を受けたものの、21年度は約6000件の開催を手がけており、M&E事業の規模の大きさがうかがえる。
JTBのイベント事業が拡大していった理由
しかしそもそも、JTBといえば“旅行”のイメージを持つ人が多いだろう。そのJTBがなぜ“イベント”なのか。背景には、顧客ニーズの変化による提案スタイルの転換があったようだ。斉藤氏は次のように説明する。
「企業に対する提案内容として、1990年代は社員旅行が中心でした。いわば旅行というプロダクトを提案していたわけですが、次第にそれではビジネスが通用しなくなってきたのです。そこで2000年代に入ってからは、お客様の課題を起点に解決法を提案するソリューション営業に転換しました。
当社は全国の拠点で、営業担当者がお客様企業の課題に向き合っていて、おかげさまで当社をパートナーと位置づけてくださる企業も多くいます。旅行にとどまらないお悩み事も相談いただく中で、お客様が持つコミュニケーション課題を解決する方法の一手段として、ミーティングやイベントも手がけるようになっていったのです」
結果、提案の質がどんどん洗練され、JTBのもともとの強みである会場や宿泊、交通の手配といったロジスティクス領域だけでなく、企画や演出といった部分からイベントをワンストップでプロデュースするようになっていったのだ。プロダクトとしての提供だけではなく、顧客課題を起点として「価値」を実感してもらうソリューションビジネスへ昇華していったといえる。
図らずもそれが浮き彫りになったのがコロナ禍だ。リアルでのコミュニケーションが制限される中で、オンライン形式でのイベント開催にも迅速に対応。そして最近では「リアル+オンライン」のハイブリッド形式への需要も増す中で、どのような実施形態でも対応できるよう、提案の柔軟度を高めている。このように顧客の要望や課題に寄り添う姿勢が、豊富な実績に裏打ちされた顧客からの支持につながっているのだろう。
解決を支援する課題の幅を広げ、提案力の強化へ
そんなJTBが近年重視するのが、ミーティング・イベントの終了後、次への改善に向けた提案力を強化することだ。
「大切なのは、イベントを『開催するだけで終わりにしない』ということ。終わった後も内容を分析してお客様にフィードバックすることもセットで提供できれば、お客様の実感価値も上がり、イベント終了後の企業活動の発展につなげていくことも可能だと考えています」

ビジネスソリューション事業本部
事業推進チーム グループリーダー
北島淳孝氏
そう話すのは、斉藤氏とともにM&E事業の推進を担うグループリーダーの北島淳孝氏。イベント参加者へのサーベイなどを通じて、データを基に確証を持って次への改善につながる提案力を磨くなど、より付加価値の高いサービスの提供を目指している。
その一環で同社は2021年5月に次世代MICE事業における協業契約をSaaSpresto株式会社と締結。これにより米国発のイベントマネジメントシステム「Cvent(シーベント)」を活用したMICEソリューションの提供を開始した。イベント当日の受付・配信はもちろん、実施前の集客・登録管理、実施後のデータ分析・レポート提供まで、イベントに関するあらゆる業務プロセスを一元管理できるシステムで、「参加者の方々のタッチポイントを捕捉し、そのデータを管理運用できるため、そのイベント単発ではなく連続性を担保した施策を打つことに活用できます」と北島氏。
「Cventは世界100カ国以上、3万社以上の企業が利用しているプラットフォームで、つねに先端のベストプラクティスを活用することができます」と強調する。
JTBグループがオリジナルで開発・提供するサービスにも、ミーティングやイベントを通じて、企業の課題解決を中長期的にサポートしていく姿勢を表しているものがある。それがJTBコミュニケーションデザインが提供する「CO₂ゼロMICE®」だ。ミーティングやイベントで使われる電気を再生可能エネルギーに置き換えることで、排出するCO₂を実質ゼロにするサービスで、主催企業は「CO₂ゼロでイベントを開催している」と発信できる。
「SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)の重視は世界的な潮流となり、経営課題とする企業が増えています。当社としてもミーティングやイベントを通じてSDGsに貢献できるものをと考え、生まれたのがこのサービスです。『グリーン電力証書』も発行しますので、IRや広報活動にもご活用いただけます」(斉藤氏)
M&Eの基盤にある「つなぐ・つくる・つなげる」の思想
JTBグループの価値創造の源泉には、「つなぐ・つくる・つなげる」の思想があるという。その思想を事業に置き換えた言葉として「交流創造事業」を事業ドメインに位置づけ、あらゆる交流を創造して感動・共感を呼び起こすことを志向してきた。
その中でもミーティング・イベントは、リアルとオンラインという空間を問わず「企業と従業員をつなぐ」「企業と顧客・消費者をつなぐ」を体現できるコミュニケーション手段として、旅行などと並び社会的有用性が高いソリューションであると同社はみている。今後もM&Eの事業展開に注力し、企業が持つコミュニケーション課題の解決に「つなげる」考えだ。
「旅行もイベントも、まったく同じものというのはありません。一つひとつのイベントを丁寧に設計していくことが、複雑なコミュニケーションの課題を解決に導くと確信しています。長年培ってきた現場対応力とホスピタリティー、そして積み重ねてきたノウハウを基にした仕入れ・調達力やコストマネジメント力をより生かすため、デジタルツールも活用しながら、『コミュニケーションカンパニー』として社会に貢献していきたいと思います」(斉藤氏)

※このページは、2022年10月20日に公開した内容に、2025年2月18日に一部加筆、修正を加えました。人物の肩書はすべて取材当時のものです。