「想定外の大災害」企業が普段からできる対策は? 一度もやっていないことは本番ではできない

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近年では、地震だけでなく、豪雨やそれに伴う土砂災害といった自然災害が、毎年のように全国各地で起きている。そして、そうした天災のときには、回線の混雑や通信障害などで、通話機能が使えないケースが発生することも多い。企業としては、非常時の従業員の安否確認は何よりも優先すべきBCP(事業継続計画)の基本だ。いつ起こるともわからない「不測の事態」に、万全な対応をするために普段からできるのはどういったことなのか。安否確認サービスを展開するトヨクモの代表取締役社長である山本裕次氏と、防災・危機管理の専門家・アドバイザーである高荷智也氏が話し合った。

防災に対する関心は高まっているが、「本当に機能するのか?」の観点は不十分

山本 近年は、地震だけではなく、異常気象による自然災害も毎年のように日本列島のどこかで発生しています。そんな中、人々の防災意識は改めて高まっていると考えられます。トヨクモへの問い合わせも年々増加し、実際に新規に安否確認システムを導入する企業が絶えません。このあたりの意識について、高荷さんはどうお考えですか。

高荷 企業と一般の方では若干異なるものの、関心を持つ人が増えています。また、マスコミの報道などでも、地震や津波など突発的な災害だけでなく、台風や土砂災害に対する事前対策について、「命を守る行動を」と空振りを恐れず踏み込んで伝えることが増えています。

一方で、企業などの場合、総務の担当者が「やらなければならないことだから」と、業務の延長として考えている人も少なくありません。リスクマネジメントというよりも、コストのような感覚で捉えている企業もあります。これでは実際に「想定外」の災害が起きたときにきちんと行動できるかどうか疑問です。

実際に対応を行う人員などのソフト面や、防災グッズなどのハード面も、いざというときに機能しないことには意味がありません。緊急時のための安否確認システムも、実際には動かないケースがあると聞いています。

合同会社ソナエルワークス 代表社員 備え・防災アドバイザー
高荷智也

山本 まさに、いざというときになって動かないというのは大きな問題と捉えています。東日本大震災の際、当社はサイボウズの子会社だったのですが、安否確認システムが動かなくて困ったという問い合わせを数多くいただきました。グループウェアでそれを代替できるようにしてほしいと。それが安否確認サービスを開発するきっかけになったんです。

高荷 なるほど。東日本大震災を契機に開発されたシステムは多そうですよね。個人に関していえば、震災が起きた当時はまだスマートフォンによるSNS利用者が少なく、何度も電話をかけて家族とやっと連絡が取れたという方も多いでしょう。一方で、歩いて帰宅した人も多かったようです。中には「自転車を買って帰った」というエピソードも聞いたことがありますが、それを成功体験にしないでほしいですね。

というのも、東日本大震災の際、首都圏では電車は止まっていましたが、建物は崩壊せず、大きな火災も発生していませんでした。街路灯もついていてコンビニエンスストアも開いていました。ですが、もし首都直下地震が発生すると首都圏で数十万棟の建物が全壊し火災消失すると想定されています。阪神・淡路大震災のような被害があちこちで起こるのです。このような中を歩き回るのは非常に危険です。頑丈なビルの中にいて動かないほうがいいでしょう。

山本 屋外を歩くのが危険だとすると、やはり離れた場所でも安否確認ができる通信手段の確保は必要ですね。

通常、携帯電話での通話は、双方向に常時帯域を確保して通信し合って初めて会話が成立します。途切れ途切れになると、何を話しているのか理解することは難しい。

当社の「安否確認サービス2」は、音声データではなく、パケットと呼ばれる軽いデータをやり取りすることでコミュニケーションを行うものです。さらにクラウドサービスを利用することで、通常時は安価にシステムを稼働させながら、災害時には自動的にシステムを大きくするといったように柔軟な運用が可能です。

安否確認サービスの一斉訓練を毎年実施

高荷毎年、9月1日の防災の日が近づくと、テレビ局などから「何か新しい防災グッズはないですか」と問い合わせがきます。アイデア商品もいいのですが、大切なのはいざというときに使えるかどうかです。

企業においても防災備品を備蓄したのはいいけれど、どこに保管したのかわからない、倉庫の鍵がどこにあるのかもわからないというのでは意味がありません。その点では、「防災の日常化」とも言われますが、備蓄食料や非常食を年に1回チェックするのではなく、日常的に利用し、いざというときにも使えるようにするのがいいでしょう。トヨクモでは、防災の日に絡めて、何か取り組みをされていますか?

トヨクモ 代表取締役社長
山本 裕次

山本はい。実は当社の「安否確認サービス2」も、防災の日には「一斉訓練」を行っています。5回目の実施となる2022年には1248団体、約44万人のユーザーに参加いただきました。一斉訓練は仮想災害で実際に問題なく稼働することを確認するためですが、訓練に参加いただいたお客様には、社員の方の回答状況などをほかの会社と比較した報告書を提供しています。安否確認システムの社員への浸透を確認し、対策検討を開始できる開始時間の目安などに活用できます。

また、22年には「Good安否確認賞」というアワードの贈呈も始めました。全社員が一丸となって活動した企業を表彰することで、その意識や取り組みをクローズアップし、多くの企業に参考にしてほしいと思っています。

高荷防災への取り組みをアワード化し、積極的に関わる企業・従業員を増やす取り組みは非常によいですね。企業の垣根を越えて広がっていってほしい取り組みに思えました。

BCPの観点で、災害対応の選択肢を増やす

高荷 防災のプロはよく「一度もやったことがないことは本番ではできない」と言います。「安否確認サービス2」の一斉訓練では、特定の部門の人だけでなく、数十万人もの多くのユーザーが実際の連絡系統などを確認できるのがいいですね。非日常を日常にすることができます。

山本 本番でできなかったら意味がないですよね。安否確認システムは、提供側のシステムやサーバーだけを強化だけすればよいというものではなく、実際にパケットが送信されるすべての経路についての負荷テストなどが重要です。自社以外の領域についても本番同様のテストを毎年実施できる点も、一斉テストの目的になっています。

また、「安否確認サービス2」は、派遣会社のスタッフやアルバイトの従業員、グループ会社と一緒に利用するといったことも可能です。家族のメールアドレスを登録しておけば、一斉送信の際に家族へも同時に通知できます。部署ごとの自動集計などの機能も充実しているんですよ。

高荷 大切なのは、安否確認をした後に、企業として安否情報をどのように活用するか、あらかじめ計画を立てることです。この計画こそが、まさにBCPです。業務を継続するうえで、工場や建物の状況はどうなっているのか、サプライチェーンなど取引先はどうなのか。

動かせる現場、動かせない現場、人が足りないから送らなければいけないといった被害状況を確認し、業務継続の判断を下すことが大切です。安否確認は手段であり、その先の計画をきちんと作っておかなければなりません。

山本 安否確認を導入して終わりではなく、その先の経営判断にぜひ生かしてほしいですね。企業活動においては、BCPが重要であることは説明不要かと思います。ただそのためにどんな対策をしているかといえば、不十分なケースが多いのではないでしょうか。

高荷 「想定外の災害」といった言葉を聞く機会も増えています。しかし、台風などで浸水被害が出たエリアを調べてみると、もともとハザードマップで浸水が予想されている場所というケースも少なくありません。自社の施設が浸水しそうになったら誰に連絡し、何をするのか、さまざまな選択肢をイメージし、準備しておくことが大切です。

山本 多くの会社が、現在の信頼を勝ち取るまでに長い時間をかけてきたかと思います。しかし、その信頼も緊急時の対応一つで一気に失われてしまいます。会社を長く存続させるためには、もう、先延ばしできないタイミングなのではないのでしょうか。すぐにでもBCPに取り組んでほしいと願っています。

高荷 まさにそのとおりです。スマートフォンなどのコミュニケーションツールは防災に欠かすことはできなくなるでしょう。今日山本さんの話を聞いて、安否確認サービスの取り組みが進化していることを知り、頼もしく感じました。

山本 ありがとうございます。引き続き「安否確認サービス2」の使いやすい機能を拡充するとともに、日本企業の防災力の向上にも貢献していきたいと考えています。