企業トップが明かす「秋田」を選んだ理由とは? 令和時代に持続可能な企業成長を支える条件

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長期化するコロナ禍、国際紛争、気候変動——。かつてないほど不確実性が高まっている今、企業はいかに持続可能性を確保すべきなのか。その「解」を示している自治体の1つが秋田県だ。2022年3月に「新秋田元気創造プラン」を策定するなど、日本の課題に真っ向から取り組み、企業を次々と誘致している。「令和版・地方の時代」を牽引しようとしている同県の魅力や可能性について、進出企業のトップ2人と知事に語ってもらった。

新型コロナウイルスの感染拡大は、東京一極集中を見直す必要性を再認識する機会となった。リモートワークをはじめとする新たな働き方が浸透したことで、地方への注目度が改めて高まっている。

こうした変化は、地方に「本気の変革」を迫っている、つまり時代を先取りする取り組みが求められているのだ。2022年度からの新たな県政運営指針「新秋田元気創造プラン」でその覚悟を明確にしたのが秋田県だ。

秋田県 知事 佐竹敬久氏
秋田県
知事
佐竹 敬久氏

「重視したのは、文明の波をどう捉えるかです。ウクライナの問題は、エネルギーや食料などに対する安全保障の必要性を浮き彫りにしました。地球温暖化に対応する脱炭素の潮流は、再生可能エネルギーを活用しなければ全産業が世界で勝負できないことを意味しています。もちろん、加速するデジタル化へも対応しなくてはなりません。ですから、プラン自体は4カ年計画ですが、数十年先へつながる土台となるよう、『秋田の存在意義』を見つめ直しました」(秋田県知事・佐竹敬久氏)

女性や若年層を尊重した拠点づくりの狙いとは?

秋田県は以前から時代を先取りする取り組みを行っており、とりわけ企業誘致には力を注いできた。03年に秋田進出を果たしたBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)サービス大手、プレステージ・インターナショナルの代表取締役・玉上進一氏は次のように語る。

プレステージ・インターナショナル 代表取締役 玉上進一氏
プレステージ・インターナショナル
代表取締役
玉上 進一氏

「女性や若者が夢を持って働き続けられる雇用環境を創造することが弊社の基本戦略ですが、その礎を秋田で築くことができました。秋田県と秋田市に手厚いご支援をいただいたおかげです」

どんな支援なのか。それは、同社が03年にオープンした拠点「秋田BPOメインキャンパス」を見れば一目瞭然だ。総敷地面積約4万6000平方メートル。保育園やカフェテリア、リラクゼーションルーム、駐車場を備えており、オフィスもスタイリッシュかつ開放的で、女性や若年層の感性を尊重していることが伝わってくる。

2003年にオープンした拠点「秋田BPOメインキャンパス」
2003年にオープンした拠点「秋田BPOメインキャンパス」

「女性は出産や子育ての時期、どうしてもキャリアが中断します。そこを会社としてサポートできれば、女性のキャリアアップを支えられると考えました。そのための職場環境を整えるにはかなり広いスペースが必要だったのです」(玉上氏)

BPOサービスは通常、広い場所が必要な業態ではない。裏を返せば、この先進的な取り組みを県と市が後押ししたのは、出産・育児と仕事の両立に対する深い理解と共感があったからだろう。結果、この取り組みは県内の他企業にも好影響を及ぼした。とりわけ、社内保育園を設置した事業所は県内初で、県内の企業文化を変えるきっかけになったという。

勤勉さ・教育体制充実で、顧客満足度を向上させる

「われわれが秋田進出を決断した決め手は、県民性です。ホスピタリティーの高さに加え、交通事故発生率の低さなどに表れているまじめさ、そして人材の優秀さも大きなポイントでした」(玉上氏)

実際、教育先進県として知られているだけあって、小中学生の全国学力・学習状況調査では、07年度の調査開始以降、全教科で全国トップレベルを維持。県立高校のICT教育を推進するため、Googleの教育支援プログラムに参画し、プログラミング実習キットやウェブ教材を配布するなど、デジタル教育にも注力している。

県民性に加え、一人ひとりのポテンシャルを最大限に引き出す教育体制は、同社のサービス向上に貢献しているようだ。

「顧客ロイヤルティーを測る指標の数値が高いため、『秋田の人たちに頼みたい』というクライアント企業が非常に多いんです。秋田市に加えて横手市、にかほ市にも展開しているのはそのためで、26年には潟上市に進出することも決まっています」(玉上氏)

さらに注目したいのは、同社の経営にも大きく影響している点だ。現在、山形と富山、新潟、岩手にも進出しているが、これらの拠点の立ち上げには、秋田の社員が中心的な役割を担っている。執行役員や各地の拠点長も秋田拠点の出身者が多いという。

厳しい条件をクリアし、日向モデルを徹底支援

いわゆる装置産業にとっても秋田県は魅力的だという。興味深い企業誘致事例の1つが中国木材だ。木造住宅用構造材の国内トップメーカーで、梁(はり)の国内シェアは33%にも上る。

同社が力を注ぐのが、国産材の活用だ。重くかさばる木を取り扱うため、広大なスペースを必要とすることは当然だが、ビジネスとして成立させるには、ほかにもいくつもの条件をクリアしなければならない。

中国木材 代表取締役社長 堀川智子氏
中国木材
代表取締役社長
堀川 智子氏

「弊社会長は常々『製材業は物流業』と話しておりますが、いかに物流コストを低減させるかが非常に重要な業界です。加えて、原材料となる木が生えている山が近く、完成した製品は全国に販売するため、内航船で効率的に運搬できるよう、できる限り港が近い場所が理想的です」(中国木材の代表取締役社長・堀川智子氏)

同社は通常の製材メーカーと異なり、バイオマス発電も同時に行うビジネスモデルのため、水資源も必要となる。宮崎県の日向工場で実践していることから、『日向モデル』と呼ばれているこのビジネスモデルは、山から出る木材をすべて受け入れ、安定供給を実現。製品化できない欠点原木や製材で出た樹皮やおがくずはバイオマス発電の燃料としている。全社合計の発電能力は12万キロワット(建設中含む)にも達しているという。

宮崎県の日向工場の原木置き場
宮崎県の日向工場の原木置き場

「木を切ることは環境によくないという見方をされることも多いのですが、実は植林から60年経った山と、20年の山では、後者のほうが二酸化炭素の吸収力が3倍だといわれています。山を若返らせることが重要で、切った木を住宅に利用することで、二酸化炭素の固定化にもつながりますので、適切な森林管理をすることによって、脱炭素にも大いに貢献できると考えています」(堀川氏)

林業の振興と森林資源の最適化、脱炭素を同時に実現する日向モデルだが、「山と港が近くにあり、水資源を確保できる広大な敷地」という条件は想像以上に厳しかったという。

「なかなか条件を満たす場所が見つからず困っていたとき、能代市に工場を建設する案が浮上しました。県や市、商工会議所など、多くの方々にご尽力いただき、トントン拍子ですべての条件がクリアされました。秋田の災害の少なさも、BCP(事業継続計画)の観点から魅力に感じて進出を決意し、現在建設中です」(堀川氏)

※木材建材ウイクリー調べ

これからの時代における秋田県の存在意義

中国木材の求める諸条件を素早くクリアできたのは、行政と産業団体が密接に連携していることが大きく影響している。「大手企業が進出すると地場企業に人が集まらない」と、非協力的なケースもあるが、秋田県は共存共栄という考えの下、誘致を最優先。補助金や融資・税制の優遇制度もフレキシブルに対応している。企業誘致に関しては、佐竹氏を中心に、企業の要望にスピーディーかつ丁寧に応えるチームプレーを徹底しており、事業計画に合わせた相談がしやすいのもメリットだろう。

「知事をはじめ、皆さん日本が進むべき方向性や社会・経済の現況についてしっかりとしたお考えをお持ちなので、新たなチャレンジをするとき、知恵をお借りできるのがありがたいですね。賃金水準向上への取り組みにも共感し、弊社は全国一律で高卒初任給を20万円にする予定です」(堀川氏)

秋田県では22年4月、女性・若者の活躍を後押しするため、補助制度を拡充。企業と人材のマッチングにも注力し、Aターン(秋田県へのU・I・Jターンの総称)も熱心にサポートしており、近年のAターン就職者は毎年平均1000人以上となっている。

「秋田は、優秀で誠実な人材とともに、地域と企業を盛り上げていける場所です。『そこで働き続けたい』『ここで生活したい』と思える環境を整えることが企業の責任です。今後も地域とともに成長していきたいと考えています」(玉上氏)

四季の変化も鮮やかで、生活満足度の向上も期待できる秋田県。今後、成長を遂げつつ企業の責務となる脱炭素経営と従業員のウェルビーイングを同時に実現しようとするなら、選択肢から外せなくなりそうだ。そしてそのときこそ、次代のロールモデルが「秋田の存在意義」であることに気づかされるのではないだろうか。