米国の支持なき日本の円買い介入は成功しない 1998年の円買い介入時に比べ介入原資は大幅増も

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歴史的な円安で日本の市場介入を巡る思惑が交錯する外国為替市場。日本は最後に円買い介入を実施した1998年当時を上回る外貨準備を保有しているが、米国の支持を得られていない現在の状況では単独で動かざるを得ず、うまくいく見込みは薄いとみられる。

98年の円買い介入以後、日本は外国為替市場における円の取引拡大を上回るペースで外貨準備を積み増してきた。外貨準備のうち証券や預金を含む「外貨」は8月末時点で1兆1700億ドル(約167兆9000億円)。1営業日当たりの外国為替取引高は約4785億ドルと、同取引高に対する日本の介入原資は2.4倍の規模だ。円安阻止に外貨の10%に相当する約210億ドルを投じた98年4月の介入時は同比率が1.4倍だった。

  

円が対ドルで急落し24年ぶり安値を更新する中、日本は為替の直接介入に動かざるを得なくなるとの観測が今月に入り高まっている。トレーダーは改めて、金融緩和を維持する日本銀行と利上げを急ぐ米連邦準備制度理事会(FRB)との政策の違いに目を向けている。

ドルが全面高となる中で円の下落が際立っている。円は先週、2日間で4.5円余り下落し、一時1ドル=144円99銭を付けた。日本の通貨当局者は、あらゆる措置を排除せず、為替市場において必要な対応を取る準備があると語った。

ドル・円は13日、1ドル=142円60銭付近を推移しているが、トレーダーは145円を超えていくかどうかに注目している。98年に日米が円買いの協調介入を行う前に付けた146円78銭が視野に入る。

  

円安の流れを変えるには米国の支持が極めて重要であることは歴史が示している。エコノミストによると、裏目に出る恐れを懸念して日本の通貨当局は市場への直接介入に及び腰で、これが円売りを促している。

S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの田口はるみ主席エコノミストは、実際に日本が介入するとは思わないと指摘。円安の最大の要因は米国をはじめ各国が同時に政策金利を引き上げていることであり、「その点が変わらない限り介入によって何かが変わるかというとそれはちょっと難しい」と語った。

「為替レートは市場によって決定される」という主要7カ国(G7)合意を踏まえると、最近の動きは「一方的」「投機的」だとして介入を正当化するには円安がさらに進む必要があるだろう。日本が単独で介入しても、時間稼ぎのために投機家を短期的に困らせる程度のことにしかならないのではないか。

92年に英通貨ポンドを売り続けたジョージ・ソロス氏含む投機家に対して買い続けた英通貨当局の攻防は、ファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)に背いて市場と戦うことには限界があるという教訓として生きている。

財務相は「憂慮」使わず、抑制的表現にとどめる-介入への距離ガイド

米財務省は円急落でも為替介入への慎重な姿勢は崩していない。98年当時と異なり、日本は世界経済をリスクにさらしたアジア通貨危機の対応に追われていない。現在の円安は日本が自ら招いたものだ。

ソニーフィナンシャルホールディングスの菅野雅明チーフエコノミストは、米国は介入を支持しないだろうと分析。米国にとってインフレ圧力を和らげるドル高は居心地がいいとの見方を示す。単純な解決策としては日本が利上げをすることが、日銀はインフレは一時的だとして金融緩和策を継続する姿勢を示しており、自ら行動を縛っていると語った。

  

日本の財務省とFRBのデータは、米国と協調できれば介入原資ははるかに少なくて済むことを示している。98年6月に協調介入を実施した際の資金は合計25億ドルだった。146円台後半まで下落していた円は、協調介入があった17日に136円付近まで急反発した。

その後8月にかけて147円台まで再び円安が進んだものの、ルービン米財務長官と宮沢喜一蔵相(当時)が会談するとの発表をきっかけに円安の流れは変わった。市場における米国の影響力がいかに大きいかを表すもので、介入をさらに実施する必要もなかった。

原題:

Japan’s $1.2 Trillion Buffer May Not Scare Yen Bears Without US(抜粋)

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著者:Paul Jackson、Masaki Kondo

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