三菱ガス化学が実現を目指す「循環型社会」とは 独自の技術で、CO2をメタノールに変換させる

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三菱ガス化学は、メタノール・アンモニアなどの基礎化学品、光学材料・電子材料などの機能製品、さらには食品鮮度保持に使われる脱酸素剤エージレスなど、多様な事業を展開している。同社の強みは、製品の90%以上を自社開発で生み出す独自の技術力だ。早くから、前例にとらわれない開拓者精神で、新しい価値の創造に挑戦してきた。カーボンニュートラルを視野に入れた取り組みも積極的に推進している。二酸化炭素(CO2)からメタノールを製造する「環境循環型メタノール」も社会実装が間近だ。同社の社長である藤井政志氏に、進捗や今後の展開を聞いた。 

基礎化学品から機能製品まで多彩な事業を展開

三菱ガス化学は2021年10月、創立50周年を迎えた。同社が発足したのは1971年、旧三菱江戸川化学と、旧日本瓦斯化学工業との対等合併による。

三菱ガス化学 発足図

代表取締役社長の藤井政志氏は、「川上の企業と、川下の企業が1つになることで、化学品メーカーとして当社ならではの特色が生まれました」と紹介する。“川上”の日本瓦斯化学工業は、51年の設立。新潟県で天然ガスの採掘を行ってきた。新潟県沖に自社鉱区を有し、現在も天然ガスの生産を継続している。メタノールをはじめとする同社の基礎化学品は、この流れをくむ。“川下”の三菱江戸川化学の設立は1918年だ。27年には接着剤や医薬品の原料となるホルマリンの生産を、37年にはプリント配線板用積層材料の生産を日本で初めて開始するなど、社会のニーズに応える製品を率先して開発してきた※1。自動車、家電などに幅広く使用されるポリカーボネートも、60年代初頭に量産化を実現している。

三菱ガス化学 代表取締役社長 藤井政志
三菱ガス化学
代表取締役社長
藤井 政志

三菱ガス化学発足から50年、前身の企業を含めると100年以上の歴史があるが、それだけの長い期間にわたり事業を継続し、発展できた理由について、「両社の技術を受け継ぎながらも、社会の変化に対応し、新たな価値のある製品を開発できたことが大きいと考えています。技術開発力には自信があります。現在も、当社製品の90%以上は、自社開発で生み出されたものです。『市場を変えるような面白いものを作ろう』『市場にないなら作ってしまおう』という開発スピリットは、両社から受け継ぐDNAでもあります」と藤井氏は語る。

実際に同社は、半導体パッケージ用BT材料(同社開発のビスマレイミド・トリアジン樹脂)、半導体の生産に用いられる超純過酸化水素、スマートフォンのカメラレンズに使用される光学樹脂など、ICT・モビリティー社会に不可欠な製品を提供している。食品の保存期間の長期化を実現する脱酸素剤「エージレス」の名前は聞いたことのある人も多いだろう。77年に販売開始し、45年以上にわたって改良を続けているロングセラー製品だ。このほか、医療用品、健康食品素材のPQQなど、人の健康寿命に貢献する製品も提供している。

スマートフォンカメラレンズ用樹脂「ユビゼータEP」と脱酸素剤「エージレス」
(左)スマートフォンカメラレンズ用樹脂「ユピゼータ®EP」
(右)食品や医薬品の鮮度を守る、脱酸素剤「エージレス®

「CO2の地産地消」を実現する環境循環型メタノールとは

基礎化学品から機能製品まで、多彩な事業を展開する三菱ガス化学だが、業界内では、メタノールのプロセス開発・生産・輸送・販売を一貫して行うことから、「世界で唯一の“メタノール総合メーカー”」としてその存在を知られている※2

三菱ガス化学新潟工場 外観と周辺地図

メタノールは主に天然ガスから作られる基礎化学品で、酢酸やホルマリンの原料となり、プラスチックや合成繊維、住宅建材など、多様な製品作りに使われる。同社は新潟に天然ガス鉱区を持ちつつも、80年にはサウジアラビアでメタノール生産の合弁会社を設立。その後、92年にベネズエラ、2006年にブルネイ、20年にトリニダード・トバゴに展開を広げており、メタノール生産力は世界トップクラスだ※3。現在日本が年間に輸入するメタノールの約6割は、同社が海外のプラントで製造したものだという。文字どおり、日本におけるメタノールの安定供給に寄与している。

新たな取り組みも始まっている。「“メタノール総合メーカー”として、カーボンニュートラルの実現に貢献するのが私たちの大きな役割だと考えています。その解決策の1つが、CO2からメタノールを製造する『環境循環型メタノール構想、カーボパス』です」(藤井氏)。

CO2を原料にメタノールを製造する技術はすでに存在するが、その多くが実験室レベルの段階で、量産化には至っていない。CO2を原料にすると水が多く発生し、触媒劣化が進むという課題もある。

「当社は自社触媒を使い長年培ってきたメタノール合成技術によって、劣化を抑制する技術を開発しました。また、CO2の分離・回収技術のほか、プラントのオペレーション、メンテナンス、さらには製造したメタノールの輸送・販売などまで、一貫したサービスを提供できます」(藤井氏)

事業化に向けた検討も始まっている。化学品・セメントなどの製造を行うトクヤマは、22年6月、三菱ガス化学と共同でトクヤマの徳山製造所(山口県周南市)で排出されているCO2と同所内で生じる水素(H2)を原料としたメタノール製造販売の事業化検討を行うことに合意したと発表した。

「大手鉄鋼メーカーや自動車業界などからも引き合いがあります。将来的には、バイオマスなどの非化石原料やプラスチック廃棄物をリサイクル原料としたメタノールの製造技術も開発を行います。50年には国内のメタノールすべてを『環境循環型』に置き換え、CO2を年間250万トン削減することを目指します」と藤井氏は力を込める。資源エネルギー庁の統計によると、20年度の日本のエネルギー自給率は11.2%で、OECD(経済協力開発機構)諸国と比べても低い水準である※4。「環境循環型メタノール構想」は、CO2排出地での「地産地消」という観点でも意義がある。

地熱とバイオマスでサステイナブルな発電を可能に

同社ではメタノールに加え、電力分野でも、「地産地消」を意識した循環型のビジネスを行っている。環境負荷の低い再生可能エネルギー由来の、地熱発電とバイオマス発電だ。

山葵沢地熱発電所
2019年から運転を開始している山葵沢地熱発電所

地熱発電は化石燃料のように枯渇する心配がなく、CO2も排出しない。同社は天然ガスの探鉱や開発で培った技術力を用いて、三菱マテリアルと共同で秋田県において地熱開発に進出。約30年の操業実績を有している。現在は澄川、山葵沢(いずれも秋田県)、安比(岩手県、建設中)の3カ所で地熱発電事業に取り組んでいるほか、国内複数箇所の開発検討も行っている。

「バイオマス発電は、光合成によりCO2を吸収して成長するバイオマス資源を燃料にしています。当社が出資している、北海道網走市でのプロジェクトでは、燃料に北海道産の木質チップ100%を使用しているのも大きな特徴です」(藤井氏)。日本国内の森林資源を利活用することで、カーボンニュートラルの実現はもとより、林業の活性化と森林整備の促進にも貢献している。

網走バイオマス発電所2号機・3号機
開発の進む、網走バイオマス発電所2号機・3号機(建設中)

2021年に50周年を迎えさらなる成長を目指す

創立50周年を迎えた三菱ガス化学は、次の50年、さらにその先に向けて、どのような取り組みを進めていくのか。

「化学会社だからこそ、気候変動問題は重要な経営課題であり、その解決に向けて注力しなければならないと考えています。21年3月には『2050年カーボンニュートラル達成』も発表しました。達成に向けたマイルストーンとして23年に13年度比28%、30年に同36%の削減目標を掲げています」(藤井氏)

その実現に向けて、同社は研究開発力の強化に加え、社内外の事業・企業との協働も積極的に進めている。カーボンニュートラルに向けた次世代エネルギー源として世界的な需要拡大が見込まれるアンモニアについて、同社のほか、UBE、住友化学、三井化学の4社共同で、安定的確保のための検討を開始。アンモニアを製造する際に発生するCO2を回収・貯留したり化学品原料などに利用するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)を活用するブルーアンモニアや再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニアなど、いわゆるクリーンアンモニアの日本での安定的かつ競争力ある確保を目指すという。

「当社グループのミッションは『社会と分かち合える価値の創造』です。これまで、独自の技術を磨き、つねに新しい価値の創造にチャレンジしてきました。今後も、既存の枠にとらわれず、社会的課題を解決する製品・サービスを生み出していきます。21年度から始まった中期経営計画では2400億円規模の投融資を予定しています。30年には売上高1兆円、営業利益1000億円の達成を目指します」(藤井氏)

「ただし」と藤井氏は加える。「その実現のために、大切なのはやはり人材です。『こんなものを作ってみたい』『こんなものがあると面白い』といった、社員一人ひとりの独創や挑戦を尊重することで、今日まで成長してきました。今後もそうした文化や風土を大切にし、『スマートMGC』と称してDX推進、研究開発拠点の拡充や、働きやすい環境づくりに引き続き取り組んでいきます」。

※1・2・3 同社調べ
※4 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」の2020年度確報値