DX・CXの潮流、「デジタル顧客接点強化」 デロイトが支援する「攻めと守りのCIAM」
デジタル顧客接点に関わる「攻め」と「守り」の戦略
今、顧客とデジタルでつながっていない企業はほぼないだろう。スマホやSNSの普及で顧客接点のデジタル化が先行していたBtoC領域だけではない。これまでオフラインの接点が主流だったBtoBでも、DXの進展、さらにコロナ禍が後押しとなり、顧客接点のデジタル化が進んでいる。
企業が顧客とのデジタル接点を強化すべき理由は、こうした環境の変化だけではない。デロイト トーマツ コンサルティング執行役員の森正弥氏は、「新しい価値創出の需要にデジタルは欠かせない」と指摘する。
「デジタルサービスに慣れ親しんだことで、消費者は今や銀行のアプリであってもタクシー配車アプリと比較して利便性を評価するようになりました。このことは、同業の競合との差別化ではなく、業界の垣根を越えて新しい価値を創出しなければいけないことを意味しています。新しい価値創出には、顧客を深く理解して、高度な顧客体験(CX)を提供することが大切です。例えば近年はコロナ禍もあり、安心・安全・健康への意識、環境への配慮、正しい情報へのニーズがぐっと高まっています。こういった変容を捉えて優れた顧客体験を提供するには、デジタル接点の強化は避けて通れません」
顧客データを新しい価値創出に生かすのは「攻め」の戦略である。自社の成長にこれが不可欠であることは間違いないが、一方で顧客とのデジタル接点が増えてくると、「守り」の戦略も必要となる。デロイト トーマツ サイバー合同会社の櫻田仁詩氏は、攻めと守りの両立についてこのように語る。
「顧客はよりカスタマイズやパーソナライズされたデジタルサービスを求める一方で、自分のデータがどのように扱われているのか、企業に預けたデータがサイバー攻撃などから正しく守られているのかといった点にも注目しています。顧客との信頼関係を構築しながら、いかに顧客体験を向上させるか。それが企業の競争力に大きく影響します」
「顧客ID/属性情報管理」で企業が直面する課題は?
この「攻め」と「守り」を両立させる際に重要なのが、顧客IDや属性情報を適切に管理して、正しい認証・認可を提供することで顧客に安心・安全を届けるCIAM(Customer Identity and Access Management)の観点である。企業の資産(リソース)を正しく識別し、効果的に活⽤、運⽤するためにはこの観点の重要性を認識することが欠かせない。これを整備しようとする企業の多くが抱えている課題は、大きく分けて4つある。
まず「ユーザーの利便性」だ。同じ運営元なのにサービスごとに会員登録やサイト、アプリへのログインを求められると、ユーザーは嫌気が差してサービスから離れてしまう。会員登録画面でたくさんの情報入力を求められて違和感を覚えたり、ログイン時に選択肢もなく都度複雑な操作を要求されたりすることもよくあるケースだ。CIAMの観点をしっかりと検討することによってこうした事象を防ぎ、ストレスのかからないCX(顧客体験)を実現する必要がある。
2つ目の「サイバー攻撃対策」も欠かせない。典型的なものが、不正アクセスによる個人情報などの詐取やアカウント乗っ取りによる不正送金などだ。顧客とのデジタル接点を持つ企業がこうした脅威に対して適切な対策を講じていないと、いざ被害が起きたときの直接的な損害だけでなく、レピュテーションの毀損に代表されるような間接的な損害によってビジネスの足を引っ張る恐れがある。
3つ目の「個人情報やプライバシー保護」も重大な課題だ。法規制に対応することは当然、ユーザーの信頼を得る形で情報を扱わないと、これからの時代に顧客から選ばれるサービスになることは難しい。
これらの課題をクリアするためには人員などのリソースや技術、そして時間が必要だが、必ずしもすべての企業がそれらを有しているわけではない。その結果取るべき対策が遅れて、4つ目の課題である「迅速なビジネス展開」が阻害されかねない。CIAMをどう最適化するかは、顧客サービスを展開するうえで「守り」と「攻め」両方の観点で重要となる。
こうした課題は、これからサービスを拡大、展開しようと試みる企業に重くのしかかってくるだろう。欧州のGDPR(一般データ保護規制)、カリフォルニア州のCCPA(消費者プライバシー法)に象徴されるように、近年は個人情報やプライバシー保護の観点からサードパーティークッキー(第三者から提供されるクッキー)などの追跡技術への規制が強化され、業界の自主規制も始まっているからだ。
「企業はこれまで自社のデジタル接点から収集するファーストパーティーデータだけでなく、サードパーティークッキーなどを活用したマーケティングを盛んに行ってきました。サードパーティーに頼れないとなれば、これまで以上にファーストパーティーデータの重要性が増し、それを適切に管理する必要に迫られます。デロイト トーマツ グループがマーケティングにおいて重視すべき観点をまとめた『2022 Global Marketing Trends』のサーベイ結果からも、そのトレンドが浮かび上がってきています。われわれが経営者の方々とディスカッションをしていても、CIAMが話題に上ることが増えてきました」(森氏)
グローバル視点と専門性でCIAM最適化を支援
ビジネスを拡大、展開するに当たってCIAMを最適化したいが、自社にノウハウがない――。そうした悩みを持つ企業を多数サポートしているのが、デロイト トーマツ サイバーのCIAMサービスである。具体的には、顧客ID基盤、機能の構想策定や不正検知対策の構想検討、その後の設計、構築プロジェクトの推進支援まで幅広くサポートする。クライアントのビジネスモデルはBtoC、BtoB、GtoC、BtoBtoXなどさまざまだが、櫻田氏は「顧客ID基盤や不正検知対策は一度導入、構築すると後戻りが難しく、投資額も大きいため、当方のような専門家にご相談いただくケースが多いですね」と共通点を明かす。
なぜ多くの企業が同社のCIAMコンサルティングサービスを活用するのか。1つは、世界中に広がるネットワークをベースにした、グローバルな情報網があるだろう。この分野の規制が先行する欧米で実際に行われているCIAMを踏まえたサポートは、グローバル企業はもちろん、日本国内を主戦場とする企業にも役立つ。
もう1つ、専門家集団であることも見逃せない。森氏はチームの強みをこう解説する。「幅広い専門家がいることも、当社の強み。私自身はデータ・AI活用の専門家ですが、グループにはビジネス戦略やデザイン、プライバシーリスクの専門家もいて、タッグを組みながらプロジェクトに当たっています。ですから、例えば実店舗での体験など、オフラインとまたがる形でカスタマージャーニーを設計して、最適なCIAMを提案、実現することもできます。さまざまなユースケースに対応できるように、さらに専門性を高めていきたいですね」。
グローバルな視点と専門性を生かしてCIAMの最適化をサポートするデロイト トーマツ グループ。顧客は今や消費者ではなく、一緒に社会課題を解決するステークホルダーだ。経営はその認識に基づいて顧客理解を深め、コラボレーションするための顧客基盤を整える必要があるだろう。