「窓ガラス」の種類がSDGsに影響を与える理由 約26%のCO2削減効果を持つ「エコガラスS」
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断熱性能と遮熱性能を高める仕組み
「2050年カーボンニュートラル」の大目標に向け、日本が2030年までの中期目標に掲げるのが、温室効果ガス排出量を13年比で46%削減することだ。家庭部門に至っては、66%の削減値が設定されている。こうした“高い壁”を乗り越える重要なピースの1つが、窓ガラス——より正確に言えば、「エコガラス」である。
エコガラスの効果について、日本の板ガラス製造業者の業界団体である板硝子協会(※1)の調査役、池田直輝氏はこう話す。「大まかに言うと、窓にエコガラスを採用することで夏はより涼しく、冬はより暖かく過ごせます。したがって冷暖房器具の使用を抑えられ、それがCO2の削減につながります」

はたして、そこにはどんなメカニズムがあるのか。エコガラスとは、ガラスを1枚だけ使う単板ガラスと異なり、ガラスを複数枚使う複層ガラスの一種だ。ガラスとガラスの間に空間を設けることで、外界と室内の熱の行き来をしにくくする。加えてエコガラスの内側には特殊な金属膜がコーティングされ、それが熱放射率をさらに下げる。熱の出入りを防ぐ「断熱性能」と、日射熱を遮る「遮熱性能」を高く備えることで、暑い夏も寒い冬も部屋の快適性を保つ仕組みだ。
「こうしたガラスは、『低放射=Low Emissivity』なガラスということで『Low-E複層ガラス』といいますが、板硝子協会ではより一般になじむ『エコガラス』の呼称を使用しています。そして、エコガラスの上位グレードに当たるのが『エコガラスS』です。エコガラスSは、単板ガラスの約5.4倍の断熱性能を発揮します(※2)」(池田氏)
「エコガラスS」の環境改善効果とメリット
ではエコガラスにより、具体的にどのくらい環境改善効果が見込めるのか。エコガラスSの断熱性能は、単板ガラスの約5.4倍に上り(※3)、それに伴い26%のCO2削減効果が見込まれる(※4)。家庭部門におけるエネルギー消費用途の約4分の1が冷暖房であるだけに、窓ガラスを替えるだけで、これほどの効果が表れるのだ。

グラフの単位は縦軸が「千トン」、横軸が「年度」
板硝子協会の調査によると2021年度のエコガラスなどの普及率は、新築一戸建てで88.3%、新築共同住宅で54.4%に上るが、一方で既設住宅への導入はそれほど進んでいない。年間で新しい住宅が21年度の実績で85.6万戸ほど建てられるのに対し、日本にはすでに約4500万世帯以上の住宅がある(※5)。それを踏まえると、既設住宅におけるエコガラス普及率の低さは、課題である一方でCO2削減を進める大きな伸びしろともいえる。
ちなみに2022年6月の法律改正で、すべての新築住宅・非住宅が、25年から「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」いわゆる「建築物省エネ法」を満たさないと建てられなくなる。また新築される住宅・建築物について、ZEH・ZEB(ゼッチ・ゼブ)(※6)の水準の省エネルギー性能の確保を目指すことが決まっている。これらの基準を満たすには、エコガラスなど高い断熱・遮熱性能を持つ窓ガラスの導入が欠かせなくなってくる。
さらにエコガラスには、CO2削減のほか、生活者に密接したメリットも多い。その1つが日々の電気代の削減だ。当然、冷暖房の使用頻度や強度が下がれば冷暖房費は下がるが、いったいどのくらい下がるのだろうか。
国や自治体も、導入に補助金制度
板硝子協会が運営するエコガラス専用サイト内「エコガラス省エネシミュレーション」(※7)によると、例えば東京の住居において、家のすべての窓を単板ガラス(※8)からエコガラスS(※9)に替えた場合、冷暖房費を毎年1万3509円節約できるという。
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そしてもう1つ、生活者にとっては、衛生対策という点で大きなメリットをもたらしてくれる。窓ガラスといえば、冬場でやっかいなのが「結露」である。結露は隣接する壁や床、カーテンのカビの原因となり、木材部の腐食につながるほか、空気中にカビが舞えば、喘息やアトピー性皮膚炎などを引き起こす可能性もある。エコガラスは冷たい外気を室内側のガラスに伝えにくいため、この結露を大幅にカットできるのだ。
また、今後の高齢化社会を踏まえ、ヒートショックのリスクを抑えられる点にも注目したい。ヒートショックとは、住環境における急激な温度の変化によって、血圧が乱高下したり脈拍が変動する現象で、場合によっては風呂場での溺水や、心筋梗塞・脳内出血・大動脈解離につながる。断熱性の高いエコガラスは部屋間の温度差を和らげるため、こうしたリスクの低減が期待できるわけだ。
「いうなればエコガラスは、皆さんの生活をより快適にするツールです。冬は暖かく、夏は涼しく、健康的で、かつ冷暖房や衣服による温度調節、結露によるカビの掃除・カーテンの付け替えといった手間も大幅に減らせる。何かを我慢するのではなく、快適性を享受しながら、同時にCO2削減や節約を実現できるのが、エコガラスの何よりの強みです」(池田氏)
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加えて着目すべきなのが、社会的価値の向上だ。環境に配慮した窓ガラスを使うことで、SDGsの機運が日々高まる中にあって、その姿勢を誰もが形にできる。また企業であれば、固定費の削減だけでなく、SDGsへの取り組みとして企業価値やブランド力の向上にもつながる。
もちろんエコガラスの導入には、それなりのコストもかかる。ただ、費用については、国土交通省・経済産業省・環境省の3省および各地方自治体がそれぞれ、補助金(助成金)の支給制度を設けている。国+地方自治体(※10)の組み合わせであれば、複数制度の利用も可能。補助率は、例えば環境省なら「費用の1/3以内で、戸建ての場合は最大120万円まで」、東京都なら「費用の1/3か、1つ以上の居室におけるすべての窓について上限100万円、のどちらか低い金額」とされており、補助金だけでなく、税制優遇を受けられる制度もある。
「既設の単板ガラスからエコガラス導入を検討する場合は近隣の窓ガラス取扱店、またはリフォーム会社に相談してみてください。導入費用はもちろん、補助金の申請もサポートしてもらえます」(池田氏)
エコガラスを取り付けたその日からCO2や冷暖房費の削減、健康面、社会的価値の向上のメリットを享受し続けられる。したがって、早い時期に導入するほど費用対効果は上がるといえる。
窓ガラスは、いわば内から外界を望む “スクリーン”だ。将来そこに、よりサステイナブルで美しい光景を映すため、今からスクリーンを特別なものに付け替えるというのも、なかなか有意義でロマンのある話ではないか。ぜひ、窓ガラスへの印象の変化などについても意見を寄せてほしい。
※1 板硝子協会は、AGC、日本板硝子、セントラル硝子の3社で構成される
※2 「エコガラスS」ガス入りダブルLow-E三層複層ガラス(中空層厚み9ミリ×2)の場合:https://www.ecoglass.jp/s_about/ecoglass-s.html
※3 断熱性能は、日本工業規格JISR3106およびJISR3107に基づく試験で算出された熱貫流率にて表示
※4 CO2排出量は「電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)-H30年度実績- R2.1.7環境省・経済産業省公表」から、一般送配電事業者の調整後排出係数値(沖縄以外:0.000462[t-CO2/kWh]、沖縄:0.000720[t-CO2/kWh])を使用し、CO2排出量[kg-CO2]=暖房費[円]/従量電灯料金[円/kWh]×CO2排出原単位[kg-CO2/kWh]+冷房費[円]/従量電灯料金[円/kWh]×CO2排出原単位[kg-CO2/kWh]として算出
※5「 2021年板ガラス使用状況調査~複層ガラスの普及状況~」http://www.itakyo.or.jp/upload/ecoglass_penetration_2022.pdf参照
※6 ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、ZEBとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディングの略称。断熱性能等の向上および高性能設備の導入による省エネを実現したうえで、太陽光発電などで生活に必要なエネルギーをつくり出すことにより、年間の1次消費エネルギー量(空調・給湯・照明・換気)の収支を実質的にゼロ以下にすることを目指した住宅・ビルを指す
※7 https://www.ecoglass.jp/s_about/simulation/
※8 アルミサッシ+単板ガラス
※9 樹脂サッシ+ガス入りダブルLow-E三層複層ガラス(中空層厚み9ミリ×2)
※10 「地方公共団体における住宅リフォームに係わる支援制度検索サイト(令和4年度版)」https://www.j-reform.com/reform-support/