データドリブン経営の実践が導く新たな価値創造 デジタルサクセスを引き寄せるアプローチとは

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デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)によってビジネス価値を生み出すには、データを分析して、その結果を迅速な意思決定、新規事業創出に生かすデータドリブンな経営への進化が求められる。2022年7月にオンラインで開催されたセミナー「データドリブン経営の実践が導く新たな価値創造」では、識者や先進企業のDX部門責任者らが登壇。企業が、DXの成果を出すために必要な取り組みについて考察した。
主催:東洋経済新報社
協賛:NTTデータ
協力:アマゾン ウェブ サービス ジャパン

Keynote
新たな価値を創出する「データ(情報)」×「デザイン」~データ・サイエンス、デザイン思考の考え方と進め方~

一橋大学大学院
経営管理研究科 教授
鷲田 祐一氏

一橋大学の鷲田祐一氏は、電子書籍が紙のページをめくる動きを再現していることに触れて「ユーザーが正しい操作をするには、ユーザーに適切なフィードバックをすることがカギ」とユーザー体験の重要性を訴えた。

1990年代末、米国でヒットしたデスクトップPCについても、当時、キュービクル(半個室ワークスペース)をフリーアドレスで使う米西海岸のオフィス環境に合わせた「持ち運べるデスクトップPC」というコンセプトで、PCと社会との関係性を再デザインしたことがヒットにつながったと指摘した。

「イノベーション」は、80年代の日本で「技術革新」と訳されたが、鷲田氏は「技術革新だけがイノベーションではない。既存技術でも、社会との関係性を再デザインして、新たに優れたユーザー体験の提供を実現できればイノベーションになる」と強調。今春、デジタル庁事務方トップのデジタル監に、デザイナーが就いたことは、行政組織も、技術革新より、既存技術と社会との関係性の再デザインを重視していることの証左だとした。

この関係性の再デザインによるイノベーションを加速するためには、消費者・ユーザーのデータ分析を高度化させ、優れたユーザー体験を提供する必要がある。そのためには、大半のIT人材がシステム保守・管理に従事している日本のIT産業の情報システム部門偏重を見直すことも大事だ。事業部門を顧客とし、データ分析や、ユーザー体験を向上させるアプリ、ECサイトの開発などを通じて、新たな価値を生み出すイノベーションをサポートする「インターネット付随サービス業」の領域の拡充が求められる。

鷲田氏は「DXも単なるデジタル技術の導入ではない。デジタルを使って、ビジネスと社会との関係を再デザインすることがポイントになる」と語った。

Technical Session
デジタルサクセス
~データ活用を起点とした意思決定、デジタルでビジネスに成功をもたらす~

NTTデータ
テクノロジーコンサルティング事業本部 Data & Intelligence事業部
デジタルサクセス統括部
コンサルティング担当
エグゼクティブ・データサイエンティスト
奈須 善幸氏

事業環境が目まぐるしく変化する中、デジタル活用でビジネスを変革するDXが求められている。しかし、どこから、どのように変革に着手すべきか、で悩む企業も多い。NTTデータの奈須善幸氏は、同社が蓄積してきた、デジタル活用で成功するためのアプローチのノウハウを体系的にまとめた「デジタルサクセス」のメソドロジーを紹介した。

企業が市場で優位を保つには、顧客体験、ビジネスモデル、バリューチェーンの3つの領域でイノベーションを続けることが重要になる。デジタル活用に成功する「デジタルサクセス」には、デジタル活用を前提としたビジネス(戦略、ビジネスモデル、業務)への変革、データ活用を支えるシステムの整備、分析に必要なデータとデータサイエンス、DXを推進する人財・組織――の4つの要素をバランスよく成熟させる必要がある。

進め方としては、①最初は細かく考えすぎず、大きな視点でデータ活用を立案する「着眼大局」、②効果が出しやすそうな領域から、素早く、小さくデータ活用を試行する「着手小局」、③開始後は、徐々に改善しながら、定着、領域拡大をしていく「習慣化」――の「3つのフェーズで考えることが有効だ」とした。

変革継続の土台となる「人財・組織」については、事業に精通し、ビジネス課題を把握して変革をリードするデジタルサクセスマネジャーが、データサイエンティストやエンジニアら専門人財と連携。課題を分析テーマに変換し、必要なデータの整備、分析、分析結果からの施策検討、施策の試行と評価を行う。「多様な人財が必要なため、最初は外部の専門人財も活用しながら、徐々に内製化していくことを勧める」とした。

もう1つのカギは、変革のアジリティ(俊敏性)を高める「データ分析基盤」だ。データドリブンの迅速な意思決定には、分析基盤が欠かせない。奈須氏は「クラウドで提供されているデータ・インテリジェンス・ツールは非常に充実している。これらを徹底活用することで、イニシャルコストを抑え、データ分析サイクルを早期に立ち上げられる」と強調する。日本のビジネスアジリティは、デジタル競争力の世界ランキングで低迷しているだけに改善余地も大きい。「皆さんのチャレンジを支援させていただきたい」と呼びかけた。

Guest Case Study
ライオンが取り組む、データ活用とデジタル変革

ライオン
DX推進部長
黒川 博史氏

「子ども(12歳児)のむし歯が大幅に減少して、37都府県で平均1本未満となっています」と語るのは、ライオンでDXに取り組む黒川博史氏。「デジタルテクノロジーを使って生活者のよりよい習慣づくりを支援したい」と続けた。

同社は2022年からNTTデータと提携して、クラウドサービスを活用した新基幹システムを稼働。サプライチェーンマネジメントの高度化や業務変革を支える仕組みを整えたほか、ハミガキの香料を調合する熟達者の知見やノウハウをAI(人工知能)に学習させ、レシピの自動提案を実現するなど、研究開発のスピードアップも進めている。

一方で「習慣を科学する」をキーコンセプトに、新規事業としてヘルスケアリテラシー向上支援事業を展開。アプリを通じた口腔健康データの収集や、同社の啓発ナレッジを通して、デジタルで予防歯科行動の習慣化を促進するサービスの実装に、熊本県合志市と連携して取り組んでいる。

NTTデータ
テクノロジーコンサルティング事業本部 Data & Intelligence事業部
デジタルサクセス統括部
コンサルティング担当
エグゼクティブ・コンサルタント
小林 大介氏

黒川氏は、DX推進部を「社内と技術をつなぐ翻訳家」と表現する。これには、人に対して技術を翻訳するデジタルナビゲーターと、機械に対して人の課題を翻訳するデータサイエンティストの2つの役割がある。デジタルナビゲーターは、新たな価値を探索する事業部門から課題を聞いてDX推進部に持ち帰り、課題解決に向けたデータ分析についてデータサイエンティストと検討。さらに、データサイエンティストが行った分析の結果を事業部門に説明する役割を担う。ナビゲーター役の経験を重ねた黒川氏は「事業部門とデータサイエンティストの橋渡し役として、どんなデータを、どう分析すればよいか、の勘所を押さえ、データサイエンティストに引き継げるようになってきた」と手応えを語る。

モデレーターのNTTデータ、小林大介氏から「DXにおける各社の最大の悩みは、テクノロジーがあっても事業部門に使ってもらえないこと。ライオンの取り組みはよい手本」と水を向けられると、黒川氏は「DX推進部は、8割を本来の長期的テーマの業務、2割をすぐに結果を出せる各部門の困り事の解決に充てている。それが、事業部門との良好な関係の構築、社内のDXへの関心の喚起につながる」と語った。