カーボンニュートラルで加速した「循環型経済」 企業にとっては投資以上のリターンがある

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弁当のパックや割り箸、ペットボトル――、使い捨ての道具は、現代人に便利な暮らしをもたらす一方、資源の「乱獲」を誘発してきた。地球温暖化や海洋汚染、森林破壊などの問題は、深刻さを増すばかりだ。そこで今求められているのは、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」である。従来のリサイクルとは違い、ゴミを出す前に製造や消費の時点で環境のことを考慮し、ライフサイクル全体に循環の思考を取り入れるものだ。欧州などを中心に推進されているこの取り組みは、どのようなものなのか。

投資以上に得るものがある「サーキュラーエコノミー」

アイスコーヒーについてきたストローがザラザラしていて、唇にくっついたり、飲み心地がイマイチだったりした経験はないだろうか。近年導入されている環境配慮型のストローに対しては、使用面で不満の声も聞かれ、選べるならばプラスチックがいいと言う人もいる。

しかし、資源が限られている中、環境配慮型のストローを選ぶことこそ、サーキュラーエコノミーの考え方だ。ゴミになってから対処するリサイクルとは違い、商品やサービスを選択する際に、どのような素材が使われ、どのように製造されているのかに思いを馳せ、商品・サービスのライフサイクル全体を通じて循環の考え方を取り入れていく。その結果、「環境に配慮されているかどうか」が、商品やサービスの価値を左右することになる。

「企業も、ESG(環境、社会、ガバナンス)に配慮した経営が求められる今、サーキュラーエコノミーを意識せざるをえません。これまで以上のコストを負うことにはなりますが、サーキュラーエコノミーの実現に資する商品やサービスは、ブランド価値を上げるだけでなく、財務価値や企業価値をも押し上げていくことになります。つまり、投資以上に得るものがあるということです」(三菱総合研究所研究員。以下、MRI研究員)

消費者においても、幅広い層にSDGsやカーボンニュートラルという言葉や概念が浸透しつつある。環境意識が高まっている現状は、サーキュラーエコノミーにとって大きな追い風と言えるだろう。

カーボンニュートラルとの相乗効果が期待される

サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルは、これまで別々に最適化を目指してきた。しかし、カーボンニュートラルの目標が「2050年までに排出量の実質ゼロ」と明確に定まったことで、両者の関係性が強まり、サーキュラーエコノミーの浸透が加速する要因となった(図1)。

同時に、再生可能な資源を利用したり、廃棄物を減らすような商品を開発・選択したりといったサーキュラーエコノミー型の取り組みによって、カーボンニュートラルも前進するという側面がある。つまり、サーキュラーエコノミーはカーボンニュートラルの恩恵を受けると同時に、その実現の手段としても推進されているのだ。

両者の関係性が強まることによって、サーキュラーエコノミー自体の重要性も高まっている。きっかけは、資源をこれまでと同じように使っていては、カーボンニュートラルの達成は難しいという事実が顕在化したこと。では、いかにして需要に応えつつ炭素排出量を減らしていくか。その答えの1つが、サーキュラーエコノミーの推進であると考えられている。

ここで具体例を挙げてみたい。

金属資源においては、サーキュラーエコノミーへの移行によって産業構造の変化が起きる。そこに至る流れは、こうだ。まず、電気自動車の製造に必要な銅やレアメタルといった資源の獲得競争が激しくなることで、価格が高騰する。さらに、採掘や素材製造の工程で環境負荷(CO2排出量)の大きい金属は、カーボンプライシング(炭素に価格をつけて取り引きなどに反映させる仕組み)の導入で、より価格が上がる。

加えて、獲得競争と価格高騰が天然資源の入手を困難にし、相対的に二次資源(リサイクルによって得られる資源)が価格やコスト、供給の各面において優位となる。その結果、金属資源を用いるあらゆる産業が、二次資源をサプライチェーンに取り込むという産業構造の変化が起きるのだ。

プラスチックも大きな転換点を迎えようとしている。汎用性の高いプラスチックのニーズは増え続けているが、ゴミとして燃やすと二酸化炭素を排出することは周知のとおり。しかも、プラスチックの原料となるナフサは石油精製時の副産物であるため、脱化石燃料が進むことで、これまでのように原料が手に入らなくなる可能性もある。

従来どおりの利便性を享受しつつ環境負荷を抑えるには、環境に配慮した代替素材を選択する――。つまり、サーキュラーエコノミーの考え方を浸透させていく必要がある。代替素材の開発や普及には時間がかかり、まずはリサイクル率を向上させることで対応していくほかないが、バイオ由来資源をはじめとする新素材がつなぎ役として熱望されている。

新技術「CCUS」が循環型社会の切り札に

「カーボンニュートラル達成への体制づくりが急がれる中、『CCUS(二酸化炭素の回収、有効利用、貯留)』という新技術が注目されています」とMRI研究員は話す。

「CCS(二酸化炭素回収・貯留)とCCU(二酸化炭素回収・有効利用)の総称で、両者を組み合わせることで二酸化炭素の回収から活用までの一連の流れをつくることができます。まず、空気中に排出された二酸化炭素を分離して、回収する。それを地中深くに圧入し、固定化して貯留するところまでがCCSが担う役割です。その後、回収した二酸化炭素を原材料に、CCUを用いて化成品や燃料製造へ再利用します」(同)

これらの技術は未来のものと見なされていたが、2020年から運用が始まったパリ協定を受け、早期の社会実装への期待が高まってきた。とはいえ、早期の実用化が困難であることも否めない。二酸化炭素の回収から輸送、利用・貯留には大きなエネルギーや設備投資を要するうえ、各プロセスで漏洩リスクはないのか、長期貯留が本当に可能なのかといった意見もあるなど、超えなければいけないハードルが多い(図2)。

このハードルを超えていくためには、企業の自助努力だけではなく、官民での開発コストの分担や、国家間の協力が不可欠である。市場任せでは、需要に応えられるだけの進展は難しい。CCUSの導入で先を行く北米や欧州、オーストラリアなどでは、石油メジャーなどの上流開発企業や産業セクターが技術開発化や事業構想化を担い、そこに政府が公的資金投入や政策的アプローチで協調するというビジネスモデルを確立している。併せて二酸化炭素を削減することの価値を顕在化させ、収入源を確保していくことも重要だ。

脱炭素の目標が明確になることによって、資源の循環利用や、新たな技術の需要に向けた動きが強まっている。これを加速させるカギは、官民の協力、そして消費者の行動変容だ。それらの足並みがそろえば、本当の循環型社会が到来するだろう。

>>カーボンニュートラルで加速するサーキュラーエコノミー

>>カーボンニュートラル達成に向けたCCUSへの期待

>>EUのサーキュラー・エコノミー加速と日系企業