知らない間にVRはこんなにも進化していた! 新型モデルに見る“再現性のリアルさ”に驚き
コロナ禍でバーチャル空間が一気に広まる
いわゆる“VR元年”と呼ばれたのが、VRヘッドセットが各社から発売された 2016年のこと。スマホに装着するだけでVR世界を楽しめる簡易型のヘッドセットも登場し、VRのハードルは大きく下がった。以降、アミューズメント施設などでもVRが導入され、市場は活況を呈した。
ところが、しばらくするとブームはいったん落ち着き、VRのことが話題に上る機会が少なくなった。18年ごろにはVR市場の成長率が当初の予想を明らかに下回り、氷河期などと呼ばれるようにもなった。この頃はまだ、“マニアのもの”というイメージが強かった。
潮目が変わったのが、19年のこと。きっかけの1つとなったのが、価格の手頃なVRヘッドセットの登場だ。またソフトウェアや、それを配信するプラットフォームの拡充も、マニア以外のライトなユーザー層を呼び込む契機となった。
そして20年。その流れを大きく加速させる出来事が2つ起きる。1つは、折からやってきた新型コロナウイルスのパンデミックである。世界中の人々の外出が制限され、結果的に、生活へ仮想現実を取り入れる余地や必要性が生まれた。多くのリアルイベントがバーチャルで開催され、中にはオフィスまでも仮想空間に設け、“バーチャル出社”を取り入れる企業も出てきた。さらにその流れを加速させたのが、もう1つの要因である、より手頃な価格と軽量性を備え、かつパソコンやテレビへ接続しない「スタンドアローン」でVRを楽しめるヘッドセットの登場だ。
以降、VR市場は再び大きな成長基調に入り、21年のVR・AR(拡張現実)ヘッドセットの出荷台数は、前年比+92.1%となる1120万台を記録した※1。今後も市場は大きく拡大していくと見られ、IT専門調査会社・IDCによれば、VR・ARのヘッドセットの年間出荷台数は、24年に約3000万台※2、26年には約5000万台に達する※3と見込まれる。メタバースの発展と合わせて、VRを取り巻く環境や、ヘッドセット機器などの勢力図が、ガラリと変わる可能性も十分ある。
※1〜3 出典:AR/VR Headset Shipments Grew Dramatically in 2021, Thanks Largely to Meta's Strong Quest 2 Volumes, with Growth Forecast to Continue, According to IDC
押さえておきたいVR基本用語
では現状、VRのヘッドセット機器にはどんな種類があるのか。大まかに分けると、以下の3つになる。
さらに、VRヘッドセットを選ぶうえで、ぜひ押さえておきたいキーワードを以下に挙げる。
では現代のVR機器が具体的にどう進化しているのかを、6月24日に発売されたばかりのVRヘッドセット「Pico Neo3 Link」のスペックとプレー体験を通して見てみよう。ちなみに筆者がVRヘッドセットでプレーするのは、17年ごろに友人の機器で試して以来となる。5年ぶりのVR体験は、なかなかに驚きのあるものになった。
現実世界の“癖”がVR上にそのまま再現
まず前提情報として、Picoについて少し触れよう。Picoは2015年からVR事業を展開する企業で、これまでにVRヘッドセットを8製品発売している。IDCによると、VRヘッドセットにおける21年時点の世界シェアは3位、アジアでは2位となっている。 これまではEU 圏やアジア圏を中心に事業展開していたが、今回発売する最新フラッグシップモデル「Pico Neo3 Link」にて、日本市場に本格参入する。
その「Pico Neo3 Link」の大きな特徴が、「2-in-1 VRデバイス」である点だ。スタンドアローン型として単体で使えるだけでなく、ディスプレーケーブルでパソコンにつないでPC据え置き型としても使えるのだ。ディスプレーケーブルでつなぐことで、USBでつなぐときのような画像圧縮が起こらず、4K映像を高画質で楽しめる。ゲームはもちろん、VR映画や音楽ライブなどのハイクオリティー映像をダイレクトに味わえる。
またヘッドセット本体以外にも、2つのコントローラー、眼鏡をかけたまま装着できる「メガネスペーサー」、鼻との隙間を埋める「ノーズパッド」などさまざまなオプションが付属する「オールインワンパッケージ」である点も光る。
一方、実際にプレーしてみてまず目を引いたのが、映像の滑らかさだ。リフレッシュレートは最大120Hzで、カクカク感を覚えることは皆無だった。またVR酔いをすることもなかった。
そしてもう1点、「VRはここまできているのか」とうならされたのが、動きの再現性の高さだ。
例えばボウリングのボールを投げる際に手首をひねることでカーブが投げられたり、野球のバッティングでミートポイントをずらすことで左右に打ち分けられたりと、プレーヤーの動きが高精度でVRの中に投影される。筆者は現実世界のボウリングで、普通に投げるとボールが右に曲がる癖があるが、それがそっくりそのまま反映されていたことに驚いた。
ヘッドセットには4台の広角カメラが、さらにコントローラーには32個の光学追跡センサーが搭載され、それが精密でリアルなジェスチャー追跡を実現している。
また、熱中して2~3時間続けてプレーすることもあったが、ヘッドセットの重さや首の疲れはとくに気にならなかった。同製品ではバッテリーを後部に搭載することで、前後の重量バランスを整え、長時間の使用でも負荷がかかりにくくしているのだ。
以下、個人的に没入感の高かったタイトルをいくつか挙げる。
「ホーム画面」
いきなりゲームのタイトルではなくて恐縮だが、「Pico Neo3 Link」を始めて最初に出てくるホーム画面に、まず心を射抜かれた。円形のリビングの外には宇宙空間が広がり、そこには巨大な地球が横たわっている。思わず1時間ほどリビングを歩き回り、いろいろな角度からわがふるさとを眺めた。
『SUPERHOT VR』
謎の赤い敵たちの襲撃を、パンチしたり、銃で撃ったり、物を投げたり、敵の銃撃を避けたりしながら退けるゲーム。現代VRの進化ぶりを手っ取り早く体感できる。
『Counter Fight ICHIRAN』
人気ラーメン店・一蘭の厨房スタッフとして注文を受け、麺をゆで、スープを作り、トッピングを盛り、客に出すまでを、すべて自分の“手”で行う。最後におじぎするときの快感。
『All-In-One Sports VR』
バスケットボール、卓球、テニス、ゴルフ、ボウリング、ボクシングなどさまざまなスポーツをこれ1本でVR体験できる。中でものめり込んだのが、先ほど少し触れた野球。現実世界では難しい左右方向の打ち分けをするのが面白く、ぶっ通しでやり続けた結果、翌日、上腕が筋肉痛になった。
そして、これだけ高性能で充実したラインナップを楽しめるにもかかわらず、4万9280円(税込)という価格設定なのも、コストパフォーマンスを考えると魅力的だといえるのではないだろうか。
VRはゲームや映画などのエンタメのみならず、企業研修、医療、教育、学術などの分野でも、すでに活用され始めている。物理的な制約のない仮想空間では、想像をはるかに超える現実世界以上の可能性が眠っているだろう。今後さらなる用途が発掘されていくのは間違いない。その世界観をまず、体感・把握するのに、VRヘッドセットほどうってつけのものはない。“はじめの1機”を選ぶべきは、今なのかもしれない。