北九州市「エアコン導入×脱炭素」積極推進の理由 環境先進都市が官民で目指す、再エネ100%

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北九州市が今、環境先進都市として「ゼロカーボンシティ」を掲げ、全国から注目されていることをご存じだろうか。脱炭素に向けて、独自のモデルを構築し積極的な施策を講じている。中でも特徴的なのが、生活インフラとして不可欠なエアコンの導入・刷新に当たり、空調専業メーカーのダイキンと協働して新たなスキームを採用していることだ。その狙いはどこにあるのか? 同市のキーパーソンに話を聞いた。

北九州市が「脱炭素社会」の牽引役に

福岡県北東部に位置する北九州市。日本の四大工業地帯の1つとして鉄鉱業や重化学工業を中心に発展し、日本の高度経済成長を牽引してきた地域だ。しかし1960年代になると、北九州地域は国内最悪レベルの大気汚染を記録。これをきっかけに市全体の環境意識が高まり、市民、企業、行政が一体となって公害対策を強化した。その結果、80年代には北九州市の環境は大幅に改善し、今では「環境再生を果たした奇跡のまち」と呼ばれる。

公害を乗り越えてきた歴史を踏まえ、また脱炭素社会の実現を目指す昨今の潮流もあって、北九州市は「ゼロカーボンシティ」を表明。2025年までに約2000ある公共施設をすべて再エネ100%電力へ切り替えるべく、先進的な取り組みを展開している。その柱となるものが「再エネ100%北九州モデル」だ。この内容について、北九州市環境局の塩田淳氏は、次のように説明する。

ダイキン工業 北九州市 環境局 塩田さん
北九州市 環境局 再生可能エネルギー導入推進課
塩田 淳

「このモデルは、再エネ100%電力を可能な限り安価に導入するために構築したものです。予算が限られている地方自治体にとって、脱炭素の推進においても、コストを低く抑えることは必須。2020年ごろのわが環境局のミッションは、北九州市の保有施設における使用電力を再エネ100%電力で賄う施策を考えることでした。しかし、再エネ電力は通常の電気料金よりもコストが高くついてしまいます。そこで、サーキュラーエコノミー(循環型経済)のビジネスモデルを適用して費用を抑えるモデルを考案するに至りました。かつて環境汚染を経験した地域として、全国の自治体が注目する脱炭素を牽引したいと考えています」(塩田氏)

ダイキンと挑む「市内130校の給食室にエアコン導入」

「再エネ100%北九州モデル」の実行フェーズは、再エネ100%電力への電力供給契約の切り替え(ステップ1)、創エネと蓄エネの実現(ステップ2)、省エネのさらなる促進(ステップ3)という3つのステップに分かれる。

再エネ100%北九州モデルの実行フェーズ
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ステップ1は、市内の低炭素発電所から電力調達するなどにより推進。ステップ2は、太陽光発電による「創エネ」、EV・蓄電池による「蓄エネ」を推進する取り組み。購入する電力量を減らせるうえ、蓄電池の活用によって、電力を比較的安価に調達・蓄電できる。ステップ3の「省エネ」は、省エネ機器を導入することで消費電力量および電気料金を下げる取り組み

この3つのステップは、ステップ1から順に進める予定だった。ところが「庁内からのニーズにより、ステップ3の『省エネ機器導入』のうち一部を、予定より繰り上げて進めることになりました」と話すのは、同じく環境局の宮尾祐輝氏だ。

ダイキン工業 北九州市 環境局 宮尾さん
北九州市 環境局 再生可能エネルギー導入推進課
宮尾 祐輝

「2020年春ごろに急きょ、市内に約130ある小学校の給食調理室にエアコンを導入できないかと、庁内で議論が起きました。コロナ禍の全校一斉休校により、小学校では猛暑の中でも夏休み返上で授業が行われ、給食が必要になりました。しかし、給食室にはもともと空調設備が入っていなかったため、とくに夏場は非常に暑く、熱中症の懸念がありました。調理中には42度を超えることもあったといいます。その場は緊急的にスポットクーラーの導入で対応したものの、労働環境改善の観点から、常設の空調設備を導入するという方針が固まりました」(宮尾氏)

ダイキン工業 北九州市 給食室のエアコン
桜丘小学校の給食室に入ったエアコン

猛暑が記録される昨今、市民の命を守る生活インフラとしてエアコンは不可欠だ。しかし、単純に約130ある給食調理室にエアコンを導入する施策は、脱炭素の観点からも、エアコン購入費という予算の観点からも、大きな壁を乗り越える必要があった。「従来のように機器を購入する方法でエアコンを設置すると、予算内では、年間約10校の予算しか組めません。市内すべての学校に設置を完了するまで、なんと13年かかる計算でした。その解決のため、機器を所有せずに利用料を払う『第三者所有方式』でのエアコン導入を模索していました」(宮尾氏)。

こうした課題に向き合ってくれるパートナーを探していた環境局は、自治体との協創に積極的に取り組んでいる空調専業メーカー・ダイキンの駒井諒子氏に助言を求めた。北九州市が第三者所有方式でのエアコンの導入を求める中、駒井氏はリース会社と連携しながら、電気料金に空調利用料を上乗せして支払う方法を一緒に検討した。

塩田氏は当時をこう振り返る。

「この方法なら、初期コストがかからないうえ最短2年で市内すべての小学校の給食調理室に設置できるというものでした。省エネ性の高いエアコンを、工事費用を予算化せずに導入できるという、メリットが多い提案だったんです。また、エアコンの法定耐用年数は13年とされていますが、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の観点から長く使いたいと考え、駒井さんに『エアコンの保証期間を2年間程度延ばせないか』と相談しました。IoTによる遠隔監視を使い、さらにサービス部門と連携してエアコンが故障する前に部品を取り換えることで、保証期間を15年に延長する方法を提案してもらいました。さらに運用の最適化を図ることで、省エネにもつながるとのことでした。コスト削減と長寿命化の両方を達成できたのは、こうした対応が可能なダイキンだからこそ。これらが決め手となり、第三者所有方式によるエアコンの導入手法が決定しました」

脱炭素先行地域に選定され、先進的な施策を加速

第三者所有方式という新しいスキームであることから、実証の位置づけでスタートしたこの取り組み。給食調理室のスタッフからは、「今は、調理時でも30度程度に収まっています。快適に働けるようになりました」と反響があったという。

「新しい挑戦に際しても、駒井さんをはじめダイキンの方々は『NO』と言いません。私たちが抱えている課題や懸念点、実情に寄り添った取り組みを一緒に考えてくれるからこそ、現状の打破につながる糸口を見つけることができました」と、塩田氏は手応えを感じている。

さらに、2022年7月末に、老朽化しており省エネ性能も低い消防局庁舎のエアコンも、今回と同じスキームで入れ替えることができたという。

「脱炭素のためには、クリーンなエネルギーを生み出すだけではなく、消費エネルギーを減らすことも重要です。広く知られているとおり、空調は消費電力が大きい機器。CO2削減効果の高い省エネエアコンを導入することには、コスト面でも環境面でも、大きな効果があると思います」(塩田氏)

2022年4月には、環境省から脱炭素先行地域に選定された北九州市。今後は、ダイキンの協力も得ながら冷媒のサーキュラーエコノミーの実現に取り組んでいくとのこと。塩田氏は、「これからも脱炭素を目指し、ほかの自治体に横展開できるような施策を打ち立てていきたい」と展望する。

過去の公害を乗り越え、環境先進都市へと変貌を遂げた北九州市。その変革の裏には、ダイキンとの協創があった。ダイキンはこれから、どのように顧客のカーボンニュートラルを支援し、そして社会とビジネスの新たな仕組みを構築していくのか。その動向から目が離せない。

>>エアコンのことから考える、みんなのカーボンニュートラル

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