企業事例紹介「事業戦略を支える人事の挑戦」 「SAP HR Connect 2022」のエッセンスを
協賛:デロイト トーマツ コンサルティング
協力:東洋経済新報社
セッション 1
自ら考え、独創的な人材を生み出す人事制度改革
機械工具専門商社大手、トラスコ中山の喜多智弥氏は「人や社会のお役に立ててこそ事業であり、企業である」とする同社の「こころざし」実現に向けた、業界最速・最短・最良の納品の実現などの目標の達成、自社の競争力の源泉となる社員の独創力の育成、社員の成長やエンゲージメント、価値観の変化への対応が重視される時代に、トラスコ中山に本当に必要なことは何かを考え人事制度改革を行っていると説明した。
同社の人材育成は、ジョブローテーションを基本とする一方で、個々の社員の意思や希望を尊重するため、さまざまなチャレンジ制度を設けている。支店長や課長などの責任者を目指す際に必須となる研修「ボスチャレンジコース」の受講には、責任者になりたい自覚と意思を持つ社員の立候補制と、責任者が後押しをすることでチャレンジをする推薦制度を採用。会社から命じられた異動だけではキャリアプランを描きにくいという社員の声に応え、希望部署に配属させる「ジョブチャレンジ」制度などを設けた。
また、人事評価の公平性のため、上司だけでなく、周囲からも評価を得る360度評価「オープンジャッジシステム(OJS)」を導入。主任・係長への昇格で、社員投票支持率80%以上などの要件を定め、改善点を指摘するフィードバックで成長を促す。OJSは社長、役員・部長からパートタイマーまでを対象にしている。
さらに、これからの人事へのニーズに応えるため、「SAP SuccessFactors」で可視化した人事データを基に、会社の期待、本人意思、スキルの各要素をバランスよく尊重したタレントマネジメントにも取り組む。「働き方に対する考え方はライフステージでも異なってくる。社員がそれぞれ、その時々で輝ける舞台を提供する」と決意を語った。
SAPジャパンの森太郎氏との対談で喜多氏は、キャリアプランを志向する社員のために、社内の業務と、そこに求められるスキルや資格の全容をまとめたガイドブック制作や、エンゲージメントサーベイの結果を基に各部門が改善アクションプランを作成する取り組みにも言及。「人事を会社からの一方通行ではなく、自分事と捉えてもらうことが大事。自ら考え、行動を起こせる人材を育てたい」と語った。
セッション 2
人材データ活用の継続的発展にむけた仕掛けづくり
デジタルトランスフォーメーション、少数精鋭による生産性向上、リモートワーク、人的資本情報開示の潮流の中、人材データ活用が人事に求められている。だが、現行の人事システムのデータは分析・活用が考慮されていないため「人材データ活用は進んでいない」とデロイト トーマツ コンサルティングの松井和人氏は語る。人材データ活用を、①データの現状把握と集積、②人材データの検索・参照にとどめず分析のトライアル実施、③データ活用の戦略・体制・分析基盤を構築する継続的発展――の3ステージに分類すると、多くの企業は①にとどまっている。
データ活用推進には「既存のデータを使ってクイックに分析・活用を始め、経験を蓄積していく②の短期的視点と、理想の人材マネジメントに向けて基盤を構築する③に向けた中長期視点の双方が大事」と指摘するのはデロイト トーマツ コンサルティングの濱浦健一郎氏だ。中長期では、全体計画、採用、育成、配置などの人材マネジメントサイクルを定義し、それに合わせて必要なデータも環流するプラットフォームの構築が必要になる。同社での事例として、コンピテンシー(活躍人材の行動特性)などの人材情報を採用プロセスやコミュニケーション施策に活用する取り組みや全社ネットワーク分析の結果から、ハブになる人材(あるいは複数人材のチーム)をチェンジエージェントとして配置する取り組みを紹介した。
希少なデータサイエンティストの確保も課題だ。松井氏は、さまざまなスキル・コンピテンシーを要件定義して、デジタルへの適性が高い人のデジタル人材への育成を始めることを提案。最後に濱浦氏が「経営・事業に貢献するため、データを活用した人事機能の高度化」などを訴えた。
セッション 3
最新人事ソリューションで推進するダイバーシティ経営
人材確保、外部評価改善のためだけでなく、イノベーション創出によって企業価値を向上するために、企業はダイバーシティ推進を求められている。が、そこにはさまざまな課題もある。SAPジャパンの山口真一氏は、人事が直面する典型的課題と、解決に貢献するITソリューションを紹介した。
ダイバーシティ経営に着手する段階では、経営陣らの支持獲得が課題だ。SAPは、ダッシュボードで多様性を含む人事データを同業他社のベンチマークと比較したり、多様性スコアが業績にもたらす影響をシミュレーションできる機能を用意。ダイバーシティ推進による企業業績の改善効果を数字で説明できる。
導入段階で、ダイバーシティが思うように進まない場合、多面的分析で根本原因を探る。女性社員比率は改善したが、女性役員候補が増えず、女性活躍が実感できない。そんな課題の真因を探るため、分析の切り口のヒントを与えてくれる「スマートインサイト」機能や、アンケートから退職理由を分析するエクスペリエンスマネジメントツール「クアルトリクス」を駆使。すると、子育て世代女性の自己都合退職に根本原因があり、柔軟な働き方を選べる制度が有効であることが見えてくる。
定着段階では、性別、年齢、国籍など表層的な多様性から、異なる経験を持つ人材を組み合わせてイノベーションを促す「深層の多様性」が必要だ。プロジェクトチーム編成で社内公募しスキルマッチングで最適な人材を見つける「SAP SuccessFactors Opportunity Marketplace」、社外のプロフェッショナル人材を調達する「SAP Fieldglass」、プロジェクトチーム管理機能の「ダイナミックチーム」、複線型のワークスタイルを可能にする「SAP Work Zone」をデモで披露。ITで「手作業では難しい分析、混成チームづくり・管理が容易になる」と語った。
セッション 4
グローバル事業戦略を支える人事の挑戦
~テルモにおける実践例~
世界160以上の国・地域に展開し、社員の海外比率が約8割を占める日本発のグローバル医療機器メーカー、テルモの西川恭氏は、海外グループ会社トップを経験する中で、優れた人材の定着のために必要性を実感したというグローバル人事の取り組みを紹介した。
2018年のスタートに当たり、日本人と外国人で構成する「グローバルHRコアチーム」を立ち上げてフレームワークを検討。ビジョンとして、事業戦略と人事戦略を同期させて人財の力で成長を続ける、グローバルビジネスを支える多様なリーダーの育成、社員の能力を発揮させる環境構築、事実・データに基づく人事施策の議論――などを定めた。
このうち、グローバルリーダー育成は、まずスキル・コンピテンシーなどについてグループ共通の基準・考え方を定義。そのうえで、グローバル共通の経営幹部後継者育成プログラムを開始。5カ年成長戦略「GS26」(22~26年度)にも戦略的要員計画を盛り込んだ。
社員の成長を促すため、「新しいことに挑戦する」「できないことより進歩に目を向ける」「他者から学ぶ」の3つの「身に付けるべき習慣」を定めた「グロースマインドセット」の普及。グローバル企業として大切なダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンについても、グローバルのカウンシルで、フィロソフィー(基本的な考え方)などを作成。チームメンバーの公平感、帰属意識、自信を高めると定義したインクルーシブリーダーシップを推進する。「社員の成長なしに会社の成長はない。社員への投資と成長支援を本気で考えなければならない」と、人事の役割の重要性を強調した。
SAPジャパンの佐々見直文氏との対談で西川氏は「タレントマネジメントはコンピテンシー定義など抽象的な基準づくりから始めなければならない。研修のように目に見えやすくはなく、社内から懐疑的に見られやすい面もある」とした。また、国によって文化も異なり、互いの考え方を理解する壁もある。それでも「人的資本経営への注目も追い風に、人事部門が変革をリードする気概を持って前進を続けたい」と語った。
ラップアップ
SAPジャパンの佐々見氏は、今回のHRコネクトについて、人事改革に取り組む企業は「改革を経営戦略の一部として位置づけ、多様な従業員が活躍できる舞台を責任を持って提供する」という考えに共通点があったと総括した。SAPは、タレントマネジメント、エクスペリエンスマネジメントなどのソリューション、それらを活用するためのコンサルティングサービスを通して「継続的な取り組みが必要になる人事改革のお役に立ちたい」と訴えた。