1万人調査に見る「現代の幸せ」とその最大化 広い視座のための36項目のウェルビーイング

ポストコロナ社会における「豊かさ」とは何か。金銭面や健康面の充実はもちろんだが、サステナブルな未来に向けた社会への貢献も、個人の幸福度を高める要件の一つとなっている。人々は今、何に幸せを感じ、そして何を求めているのか。三菱総合研究所(以下、MRI)は1万人に対して行った大規模調査を基に、その具体像を探った。

豊かさを示す指標を36に分けて調査

コロナ禍で人々の生活が大きく変わったことにより、自身や家族の幸福についての価値観もいや応なしに変化している。MRIが1万人を対象に実施した大規模調査結果から、日本に暮らす生活者の心を探っていこう。

「幸福を測るというのはなかなか難しいことです。これまで人々の豊かさを示す指標として広く利用されてきたGDPも、限界を指摘されています。例えば、1958年からの50年間で1人当たりのGDPは約8倍になっていますが、国民の生活満足度はほぼ一定の水準にとどまっています」(MRI研究員)

ポストコロナ社会でウェルビーイングを高めるには、「人間」の主観的な幸福が大切だ。しかし、そこには生活の基盤である「地球」「社会」という2つの制約条件が絡んでくることも忘れてはならない。

そこで、MRIは36の「MRI版ウェルビーイング指標」を定めた。「人間」から4要素、「社会」から4要素、「地球」から1要素の計9要素に分類し、さらに36指標に細分化したものだ。具体的には、「①その項目をあなたはどの程度重要視するか」と「②それはどの程度満足/実現できているか」という2つの尺度から主観的な幸福度を調査している。

その結果から、ウェルビーイングに対する意識や実態は、生活者の属性に応じてどのように変化していくのかが見えてきた。早速、それぞれの重要度と満足度、実現度をレーダーチャート形式で示すことで、属性別のウェルビーイング観の違いを確認してみたい。以下、「男女別」「年齢区分別」「所得階層別」の順に見ていこう。

まず、男女別の集計結果では、女性のほうが男性より社会・地球への意識が高く、満足度・実現度とのギャップも総じて大きいことがわかる(図1)。とくにギャップが顕著なのは、「社会」における「安全・強靭」と「多様性・包摂」、そして「地球環境の保全」である。

次いで、年齢区分別の集計では、満足度は60代のシニア層が圧倒的に高く、「人間」関連要素に対する不満は40〜50代の働き盛りのミドル層において大きい。特筆すべきは、すべての要素について若年層の「重要度」が低いことだ。ただ、若年層は期待値が低い分、満足度とのギャップも小さいことが大きな特徴といえよう(図2)。

最後に、所得階層別の状況を見てみよう。高所得層では「人間」関連の要素の重要度がやや高く、かつ「人間」「社会」「地球」全要素において満足度とのギャップが小さいのが特徴。一方の低所得層では、「将来への希望」をはじめとする「人間」関連の要素の満足度の低さが目立つ。重要度と満足度のギャップは所得が低くなるにしたがって大きくなっており、とくに「生活の自立」「将来への希望」「安全・強靭」「多様性・包摂」では顕著だ(図3)。

「生活満足度が低く、個人の生活を重視する」層がカギを握る

ここまで調査結果をレーダーチャートで見てきたが、社会全体のウェルビーイング向上を目指すには、ウェルビーイングに関する価値観や置かれた状況に基づいて、生活者のセグメント化をより直接的に行うことが必要だ。そうすることで、対策は講じやすくなる。

そこで、1万人アンケートでの「人間」関連指標にかかる回答結果に基づいて、重要度を「価値観」、満足度を「置かれた状況」に対応するものと見なして、生活者をⅠ~Ⅳの4つのセグメントに分類した(図4)。「生活の満足度の高低」を縦軸、「個人の生活重視」と「社会との関係重視」を横軸としている。

各セグメントは、Iが「生活満足度が高く、社会との関係を重視する」層、IIは「生活の満足度が高く、個人の生活を重視する」層、Ⅲは「生活満足度が低く、個人の生活を重視する」層、最後のⅣは「生活満足度が低く、社会との関係を重視する」層だ。

生活の満足度が低いとされた2つのセグメントについて、Ⅲは、女性の比率が高く40代・50代が過半を占めており、世帯年収は平均484万円と最も低い水準である。「生活満足度が低く社会との関係重視」のⅣは、男性の比率が高く20代・30代のシェアが高いことに加え、世帯年収100万円未満のシェアが最も高くなっている。

ここでMRIは、生活者のウェルビーイング観をさらに深く探るため、前出のウェルビーイング要素別の重要度と満足度/実現度とのギャップを生活者セグメント別に分析した。

まず、Ⅰ・Ⅱには全指標の満足度が高く、Ⅲ・Ⅳについては低いという定義どおりの状況が確認できたことを大前提として、「社会」「地球」関連項目の重要度は、「人間」関連項目と比べてセグメント間の違いは小さかった。Ⅱ・Ⅲにおいて「次世代継承」「進歩・挑戦」の重要度が低く、若年層を多く含むセグメントⅣではすべての指標について重要度が低い。

とくに着目すべきはⅢで、「所得と資産」「将来への希望」の満足度が突出して低い一方、「自由な時間」についてはそれほど低い水準となっていないなど、指標間のばらつきが大きく出ている(図5)。

例えば、生活の満足度は低いが、「犯罪の抑制」や「医療サービス」「基本インフラ」といった重要度の高い指標についての実現度は比較的高い。一方で、「経済社会ショック耐性」や「経済格差」「セーフティネット」「能力の活用」などの実現度は突出して低く出ている(図6)。

Ⅲのセグメントは社会とのつながりを重要視していないため、困難な状況に陥ったときの支援が得られにくい可能性がある。また、「進歩・挑戦」要素に含まれるような前向きな取り組みに対する関心も低いことから、困難な状況を打開するための能動的な行動を引き出しにくいことも想定される。

この結果から、社会全体のウェルビーイング向上を図るうえで、Ⅲは重要な位置づけになっていることがうかがえた。

個人から「社会全体のウェルビーイング」に意識を向ける

地球規模の脱炭素化や格差と分断を是正していくためには、「個人のウェルビーイング」から「社会全体のウェルビーイング」へと、人々の意識を向けていかなければならない。

しかし、個人の生活がままならない状況では、社会貢献や地球環境保全に目を向けることは困難である。また、社会参加の重要性を過度に強調することは価値観の押し付けにつながる懸念があり、多様性や包摂の観点から適切でないだけでなく、そもそもそうした取り組みを持続させられるか疑問である。

社会全体のウェルビーイングを高めていくに当たっては、社会からの恩恵を受けにくい層に手を差し伸べながら、経済的にゆとりのある層については社会貢献の意識を引き出していくなど、生活者の価値観と置かれた状況に応じたきめ細かな施策を講じることが重要となってくるだろう。

>>ポストコロナ社会のウェルビーイング

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