2050年、「覇権国不在」で問われる日本の存在感 三菱総研が描く「デジタル経済圏」での針路

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
米国の求心力低下が、ロシアのウクライナ侵攻によってさらに浮き彫りとなった。中国だけでなく、インドなどの台頭により多極化が進む中、今後の国際秩序の形成に重要な役割を果たすとみられるのが新たな「デジタル経済圏」だ。その中で日本が果たすべき役割と存在感とは――。

米国なき世界の勢力図はどう変わるのか

世界経済は2022年に入り、コロナ禍からの回復ペースを落としている。ロシアのウクライナ侵攻や世界的な物価高など、下振れ要因が数多く生じたためだ。

三菱総合研究所(以下、MRI)は2019年に発表した「未来社会構想2050」で、2050年にかけて米中がともに世界のGDPシェアを2割台まで落とす一方、インド経済の台頭が本格化すると予測していた。世界の半分のGDPを占める米中印がいずれも、絶対的な覇権国になり切れない状況が続くというのだ。

米国を中心とする一極体制は以前から中国の台頭によって陰りが見え始めていた。

ウクライナ危機などを背景に、このまま米国の求心力が低下し続ければ、世界が大きく分断される可能性がある。それを機に、各国の利益追求によって最適な資源配分ができない状況に陥る懸念が広まるだろう。

このような多極化した世界において国際秩序の形成に重要な役割を果たすとみられているのが「デジタル経済圏」だ。MRIはデジタル経済圏についても、絶対的な覇権国のない状況が訪れると予測する。

ここで、「分断」が大きなリスクとなるだろう。成長余地の大きいデジタル経済分野であっても、大国内に閉じこもってしまえば成長は限定的になる。その結果、世界全体で対応すべき脱炭素化などの社会課題が解決されないまま残存してしまい、暗い未来が待ち受けることとなる。

こうした最悪のシナリオを回避するためには、長期的な世界の潮流を踏まえた課題解決へのロードマップが必要である。MRIでは目指すべき世界の姿を「豊かで持続可能な世界」とし、2050年にかけての世界の潮流を分析している。それをもとに、予想される世界の変化を概観していこう。

「デジタル経済圏」で国際秩序も生まれ変わる

これまでデジタル技術は日本や米国といった国家の中でヒト・モノ・カネの流通に貢献してきた。今後2050年にかけてプラットフォーマーなどが発行するデジタル通貨を用い、デジタル空間内で経済活動を完結できるようになることで「デジタル空間の中に新たな経済圏」が生まれるとMRIは予想する。

例えば、デジタル経済圏ではプラットフォーマーが独自に発行する通貨を使って、プラットフォーム内で仕事をして消費し、この中で活動する企業に投資するような金融市場をつくることもできるのだ。

こうした新たなデジタル経済圏は国をまたいだ経済活動を容易にすることから、これまで以上に⼀国単位での⾦融・経済政策のかじ取りは困難になるだろう。各国政府はデジタル経済圏に対応した⾦融・経済政策や適正競争の仕組みづくりを求められることになる。

多極化やデジタル経済圏の拡⼤によって新たな国際秩序が形成されていくには、地球規模の課題解決に向けて世界全体の共通利益は何かを⽰し、各国の利害を調整するリーダーが必要になる。

⽇本は、各国の利害を調整できるリーダー候補だとMRIは考える。戦後の日本は、経済⼒や軍事⼒などのハードパワー(強制的に他を従わせる⼒)ではなく、文化や政治的価値観、政策の魅力を訴えることによるソフトパワーで、国際社会から支持を獲得してきたからである。

経済規模と世界への影響力は必ずしも比例しない。英メディアが世界各国で横断的に実施したアンケート調査によると、世界に対してポジティブな影響を与えている国として、カナダ、ドイツに次ぐ3番目に日本が評価されている(図2)。この結果は日本のソフトパワーによるものが大きいと言える。

今後、日本の経済・社会・個人が活力を高めるためには、世界の潮流に対して受け身になるのではなく、それをチャンスと捉え、人間中心の技術活用や日本のよさ・強みを発揮して前向きに挑戦していくことが不可欠と言えるだろう。

成⻑と安定を両⽴する社会モデルや、社会課題を解決する技術など、⽇本のよさ・強みを生かして持続可能な世界の実現に貢献できる⾯は⼤きい。とくに、日本が誇る精密機器などに活用されている「匠の技術」は、デジタル技術との掛け合わせによってイノベーションを起こし、環境や防災など多くの社会課題を解決できるはずだ。

日本は世界の持続的発展に大きく貢献できる

では、こうした潮流の中で「豊かで持続可能な世界」を実現していくにはどうすればいいのだろうか。

MRIによると、まず重要なのが真の多国間主義の実現だという(図3)。多国間主義とは多数の国が共通の原則に基づいて課題解決に取り組むことを指す。現状でも国際連合、世界貿易機関(WTO)、国際通貨基⾦(IMF)といった枠組みは存在しているが、⼗分に機能しているとは言いがたい。

そのため、デジタル経済圏においては、先述したように世界全体の「共通利益」を示し、各国の利害を調整するリーダーが必要となる。リーダーには、各国との協働によってより有効な枠組みを構築することや、技術活用における規範順守体制の整備などが求められ、その果たすべき役割は大きい。

日本には多国間の枠組みを重視し、国際的な問題を平和的に解決しようと努力してきたソフトパワーの蓄積がある。そのため、デジタル経済圏においてリーダー的存在として世界的な枠組みを構築し、牽引していくことも十分に可能であるし、その役割を世界から求められることもあるだろう。

中立的立場で調整役になりうる国は世界的にもまれな存在である。国際秩序を再構築していくうえで、各国・地域からの信頼という財産は貴重なアドバンテージとなる。今後本格化するデジタル経済圏の中で、国際的なルールづくりなどを通じて共通利益を得られる方向への合意形成を日本が主導していくことができれば、世界の持続的な発展に大きく貢献できるはずだ。

>>未来社会構想2050中長期展望

>>ポストコロナにおける日本企業の針路

>>ロシアのウクライナ侵攻による世界・日本経済への影響