効率化だけじゃない「ハイブリッドワーク」の真価 従業員エクスペリエンスの最大化にもつながる
「効率的だが、生活と仕事の垣根がなくなる」
通勤や移動の負担がなくなり、育児や介護との両立もしやすいなど、リモートワークのメリットは多い。しかし、長引くコロナ禍に対応するため全社でリモートワークを続けた日本マイクロソフトでは、組織の“エンゲージメント”の低下が見られたとセッション1に登壇した日本マイクロソフトの織田開智氏は明かす。
「コロナ以前入社の社員よりも、コロナ以降入社の社員のほうが人間関係の構築、業務量、会議参加、上司面談のすべてが少ないという結果が出ました」(織田氏)
この結果について、ワークスタイル変革推進の担当役員でもある日本マイクロソフトの手島主税氏は、「効率性が高まった一方で、生活と仕事の垣根がなくなってきた」と分析し、ワーク・ライフ・バランスの「バランス」を意識しすぎることを問題視した。
「ワーク・ライフ・バランスが取れているかという社員調査をしたところ、ほとんどが否定的な回答でした。実際、仕事と生活のバランスを取ろうとしても、そんなにきれいに分けられませんよね」(手島氏)
ではどうすればいいのか。手島氏は「主体性」をキーワードに挙げる。
「仕事でもプライベートでも、何をしたいのか、強い意思を持つことが大切です。忘れられないのが、ミレニアル世代の働き方改革推進コミュニティ『MINDS』が2019年1月に発足する前、そのメンバーたちから『私たちは働かされているんじゃない。もっと愛を持って働きたい、働きがいをつくりたい』と聞かされたことです。この強い主体性を、多様性を受容する環境でいかに伸ばすかが、企業経営において重要となってきていると思うのです」(手島氏)
働く場所を柔軟に選べることだけがハイブリッドワークの価値ではないということだ。「リモートの環境ばかりに目が行きがちですが、オフィスの環境整備も重要」と織田氏も指摘するが、これはデジタル化の効能を日本マイクロソフト自身が熟知しているからだろう。十数年かけて1609にも及ぶ業務プロセスを“断舎離”してクラウド移行した経験があるからこそ、「イノベーションを起こすのは、やはり人」という結論にたどり着き、コラボレーションの意義深さを理解できたともいえる。
「人が本来持っている創造力を最大限に引き出すために、テクノロジーと物理をいかに融合していくかが求められています。加えて、マネジメント側は社員の主体性を押さえつけないよう透明性を確保し、社員側は自律性を高めて自己管理ができるようにしなくてはなりません」(手島氏)
従業員エクスペリエンスを高める方法とは
働く場所も働き方も自分で決め、管理するからこそ、主体性を伸ばさなければ取り残されていくハイブリッドワーク。裏を返すと、組織には個人のパフォーマンスを最大化することが求められる。セッション2に登壇した日本マイクロソフトの加藤友哉氏によれば、このニーズはコロナ禍でさらに高まっているという。
「2022年春にマイクロソフトが発表した調査では、53%の人がパンデミック前と比べて仕事よりもウェルビーイングや健康を優先するようになったと回答しています。また、約半数の人が、職場での孤独感が強まっていると感じています」
従業員エクスペリエンス(従業員体験)の充実が求められるということだ。加藤氏は別のデータから、組織へのエンゲージメントの高い従業員はそうでない従業員よりも職場の定着率が12倍高いこと、エンゲージメントの高い組織が顧客満足度や収益性においても約2割程度高いことも紹介。「企業の成長戦略の1つとして、従業員エクスペリエンスが今後ますます重要視されていくだろう」と分析した。
では、従業員エクスペリエンスを高めていくにはどうすればいいのか。EYストラテジー・アンド・コンサルティングの水野昭徳氏は、次のように表現する。
「採用から退職に至る『従業員(エンプロイー)ジャーニー』の各場面で、従業員が期待していることと実際に経験することのギャップをきちんと見ることがまず大切です。なおかつ、そこで発生するペインを明らかにし、解決していくことが、従業員エクスペリエンスの向上につながっていきます」(水野氏)
これは、従業員のウェルビーイングを達成し、組織風土を改善するだけでとどまるのではない。「企業の利益拡大のための活動」と捉えるべきであり、企業にとっては「成長ドライバー」になると水野氏は説く。
「従業員エクスペリエンスが向上すれば、従業員エンゲージメントが高まります。結果、離職率が下がるとともに、生産性が向上しますので、商品やサービスの仕組みが改善され、顧客ロイヤルティが高まり、収益拡大につながります。
それを新たな人的資本へ投資することで、従業員エクスペリエンス向上のエコシステムを構築することが大切です」(水野氏)
そのために必要なのは「フレキシビリティ」と「好奇心」だと話すのは、日本マイクロソフト 人事本部長のクリスチャン・バリオス氏だ。
「パンデミックになって、エンゲージメントのあり方は大きく変わりました。今後も、社会の状況に合わせて従業員のニーズやプライオリティは変動するでしょう。
健全な好奇心を持って一人ひとりの従業員をしっかり見ていく姿勢が問われ続けますし、ハイブリッドワークのあり方も随時変わる意識を持つ必要があります」(バリオス氏)
テクノロジーの進化を支えるゼロトラスト
考えてみれば、社会情勢が目まぐるしく変わり、テクノロジーが日進月歩で進化するのだから、働き方が変わるのも当然だ。だからこそ、コラボレーションの基盤はセキュアでなくてはならない。そこに焦点を当てたセッション3では、マイクロソフトのセキュリティ関連の技術が、あるビジネスパーソンの1日をたどるストーリー仕立てで紹介された。
PCを立ち上げてニュースやスケジュールをチェック。そのプロセスで何度かログインをするが、パスワードは一切使わない。資料の作成もスムーズに進めていく。この一連の動きを裏で支えているのが、Microsoft エンドポイント マネージャーだ。この管理プラットフォームに含まれるMicrosoft Intune(以下、Intune)は、クラウドベースでIDやアクセスを管理するAzure Active Directory(Azure AD)と連携して、デバイスを管理する。
「Intuneと、生体認証のWindows Hello for Businessを組み合わせることで、サインインのたびにパスワードを打ち込む煩わしさから解放され、かつ、より安全な最新の2要素認証によって、よりセキュアにアプリやサービスを使うことができます」(日本マイクロソフトの岸裕子氏)
「Windows Hello for Businessのクラウド信頼の仕組みは、ハイブリッドワーク環境での生体認証の展開をよりシンプルにしてくれます」(マイクロソフトコーポレーションの東條敏夫氏)
Windows Defenderは今やウイルス対策から、ファイアウォール、フィッシングサイトからの保護、デバイス保護といったセキュリティ管理の総合ソリューションになっている。メール、アプリ、クラウド、 Web上のウイルスなどのソフトウェア脅威に対して、リアルタイムでデバイスを保護するのがWindows Defenderウイルス対策で、Windows 10以降には標準搭載、Intuneからの管理も可能だ。
Intuneではリモートワイプと呼ぶ機能で、万一のデバイス紛失時にデータを消去するデモも示された。働く場所を問わないハイブリッドワークでは、デバイスを置き忘れてしまうこともあろう。そんなときにも管理者が遠隔から出荷時の設定に戻し、機密情報の流出を防ぐことができる。
2022年7月には、WindowsとOffice、Microsoft Edge、Microsoft Teams(以下、Teams)をつねに最新・最適な状態に保てるWindows Autopatchという機能がリリースされることも紹介された。IT管理の負荷がさらに軽減されるというからぜひ期待したい。
安全性が確認されるまで、どこのユーザーやデバイスもアクセスできないことを前提としたセキュリティモデル「ゼロトラスト」は、これからのセキュリティの考え方の基本となるであろう。
マイクロソフトが実践した会議室と電話の改革
今回のオンラインイベントの目玉の1つが、約10年ぶりにリニューアルされた日本マイクロソフト品川本社の様子を公開したことだ。
リニューアルに踏み切ったのは、セッション1の紹介で触れたように、リモート環境だけでなくオフィスの環境整備も重要だと判断したからである。
セッション4では、「会議室」と「電話」にフォーカスし、日本マイクロソフトがどのようにハイブリッドワークを実践しているかが示された。
「会議室と電話にフォーカスしたのは、お客様から寄せられる課題がそこに集中しているからです。
自席でオンライン会議をしている社員がいると音が気になって集中できない、ホワイトボードを活用する機会が減って会議がスムーズに進まない、電話を取るためだけに出社しているといった声をよく聞きます」(日本マイクロソフトの水島梨沙氏)
では、日本マイクロソフトはこれらの課題に対してどのようなリニューアルを実施したのか。日本マイクロソフトの是枝日登志氏は、次のように紹介した。
「すべての会議室に、Teamsの会議室向けのソリューションであるTeams Roomsを設置しました。ワンタッチでオンライン会議に参加できるほか、会議室内で自然に話すだけで音を最適化します。
また、会議がしやすい画面レイアウトにも研究を重ね、資料を大きく表示するとともに、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションと同様の臨場感が得られるようになっています」(是枝氏)
加えて、Surface Hubというコラボレーションデバイスに組み込まれているWhiteboardを使って、リモートでの参加者を含めて全員が同時に書き込みながら議論をする様子が説明された。議論の結果のアウトプットも出しやすい仕組みとなっている。
「外出先やオフィス内を移動しながら会議に参加する場合もあると思います。私たちが使っているのが、デュアルスクリーンのスマートフォン、Surface Duo 2です。
デュアルスクリーンであることがポイントで、Surface Earbudsで音を聞きながら、片側画面でTeams会議に参加し、もう片側でメールチェックをすることもできます。PCへのミーティング転送もワンタッチでできます」(マイクロソフトコーポレーションの松野健二氏)
気になるのが電話の課題だが、品川オフィスには固定電話がないという。代わりに活用しているのが、いつでもどこでもPCやスマートフォンを会社の外線電話にできる「Teams電話」だ。
Teams上で電話を受けることも取次・転送することも可能。固定電話や会社支給スマートフォンのコストを削減できるだけでなく、取次業務や電話設備の統合を考える必要もなくなる。留守録が文字で読めることや、マニュアルいらずでも使えるわかりやすいUIなのも、見逃せないポイントといえるだろう。
メタバースとのコラボレーションも実演
セッション5では、リニューアルされた品川オフィスが紹介された。日本マイクロソフトの春日井良隆氏は、「社員をエンパワーする」ことがリニューアルのコンセプトだと明かす。
「リニューアルで目指したことは、以前のオフィスにあった課題や不満点を解消すること、コラボレーションを促し、イノベーションが生まれる場づくりをすること、ウェルビーイング-社員の心身の健康をサポートすること、社員自らがマイクロソフトのソリューションで業務を推進するショーケースとなること、そして、ダイバーシティ&インクルージョンやサステナビリティを実践し社会のパートナーとなることの5つです」(春日井氏)
エントランスにあるグリーンモールをはじめ、オフィス内のグリーンがすべて本物であることからも、今回のリニューアルにかける思いが伝わってきた。ちなみにオフィス面積の1%をグリーンが占めているという。興味深いのは、執務フロアに設けられた「Hubエリア」だ。
「ワーキングスペース、ロッカー、エレベーターの動線が集中する場所に、テーブルゲームやパターゴルフなどを設置しました。雑談をする機会を生み出すためです。防音対策がされたPhoneブースや、瞑想などで心を落ち着かせるデジタルデトックスルーム、体を動かせるアクティビティルームも用意しています」(春日井氏)
Mixed Reality(複合現実)デバイスである HoloLens 2も使うなど、意欲的に展開されたプレゼンテーション。最後は「これからの未来」として、メタバース上のコラボレーションを実演。アバターで登壇した日本マイクロソフトの上田欣典氏は、指の動きまで再現できるアバターでじゃんけんを行ったほか、まばたきなどの表情の変化も見せて、メタバース上のアバターがしっかりコミュニケーションを取れることを証明した。
Teams上でリアルタイム翻訳と組み合わせれば、全世界のあらゆる人たちとコラボレーションが可能になるだろう。場所や働き方を柔軟に選べるだけでなく、多様性と主体性が融合することで生まれる高度な創造性。ハイブリッドワークの実践は、その組織にとって想像もつかないような未来につながっていくのかもしれない。
>>「ハイブリッド ワーク2022」のビデオオンデマンドは、こちらのページから無料視聴申込受付中!