エンタテインメント総合商社が描く未来予想図 少子化でも成長し続けるハピネットの事業戦略

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日本で急激に進む少子高齢化。1970年に2482万人だった15歳未満の人口は、2021年には1493万人と、この半世紀で大幅に減少した。こうした中、玩具卸を事業の中核に据えながら、着実に成長を遂げている企業がある。それが、1969年設立のハピネットだ。同社は中間流通業を基盤に、エンタテインメントの川上から川下まで、広く事業を拡大している。「玩具の卸の会社」はいかにしてエンタテインメント全般で存在感を示す成長企業へと変貌を遂げたのか。代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)の榎本誠一氏に話を聞いた。

定期的なヒット商品の出現と
幅広いチャネルで強みを発揮

玩具市場の中間流通最大手として、シェア約30%を誇るハピネット(同社調べ)。その歴史は半世紀以上前にさかのぼる。玩具メーカーのバンダイを退社した河合洋氏が玩具卸の個人商店を開き、1969年に有限会社トウショウを設立。そして91年、当時バンダイの代理店だったダイリン、セイコーと合併し、社名を株式会社ハピネットに変更。この3社合併により、全国規模の流通網が構築されることになった。

ハピネットとして新たなスタートを切った後は、玩具の中間流通を土台として、約20社に及ぶM&Aを実施。ゲーム、映像音楽などエンタテインメントの分野で順調に事業を拡大してきた。現在は「玩具事業」「映像音楽事業」「ビデオゲーム事業」「アミューズメント事業」の4つが事業の柱となっている。

少子高齢化が急激に進む中、ユーザーの年齢層が低い傾向にある玩具市場でなぜ順調に事業を拡大できているのか。代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)の榎本誠一氏はその理由をこう説明する。

ハピネット
代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)榎本誠一氏

「日本ではだいぶ前から少子高齢化が叫ばれていますが、当社玩具事業の売上高は2013年3月期以降、10年連続で700億円を超える規模で好調に推移しています。その背景にはいくつか要因があると考えていますが、1人のお子さんにかける金額が増加していることや、電子部品が使われるなどして、玩具単価が高額になってきていることなどが挙げられます。また、『妖怪ウォッチ』『鬼滅の刃』など、アニメに関連したヒット商品が登場していることや、お子さんだけでなく大人の方の購入も増加傾向にあることなども、昨今の玩具市場の強みといえるでしょう」

こうした玩具の市場特性を踏まえ、同社では19年に模型卸のイリサワを子会社化。子どもだけでなく、大人も楽しめるホビー商材を取り扱うことで、事業拡大と売り上げ増加を実現した。

アニメに関連したヒット商品

「プラモデルやフィギュアといったホビー商材は、コレクションを楽しまれる大人の方も多く、新たなターゲットにリーチできていると感じています」

コロナ禍においては、外出が自粛される中、身近で立ち寄りやすいコンビニエンスストア向け玩具が好調で、『一番くじ』関連商品や、『ポケモンカードゲーム』などのトレーディングカードが強さを見せたという。

同社ではメーカー約700社から商品を購入し、約1200社の販売店に商品を卸している。販売店にはさまざまな業態があり、コンビニエンスストアに至っては5万店規模だ。多彩かつ膨大な出口が確保できていることが同社の強みといえるだろう。

エンタテインメントを軸に
川上から川下まで事業を拡大

第1の柱である玩具事業とともに、コロナ禍における同社の躍進を支えたのが、第2の柱であるビデオゲーム事業だ。

ゲームソフトやトレーディングカードが強さを見せた

「Nintendo Switchとそのゲームソフトの『あつまれどうぶつの森』や『リングフィット アドベンチャー』などが大ヒットとなりました」

玩具、ビデオゲームに続く第3の柱は、映像音楽事業だ。CDやブルーレイを流通させる川中の役割に加え、ファントム・フィルムをグループに統合し、映画やアニメの製作など川上へも事業を本格的に拡大している。

「今後は川下に当たる事業として、朗読劇や2.5次元舞台の興行も増やしていきたいと考えています。一方で、中間流通としては市場の3割のシェアを持っており、多くのメーカー様の商品をお取り扱いしておりますので、中間流通としての役割もしっかり守っていきます」

第4の柱となったアミューズメント事業では、自社運営のカプセルトイ専門店「gashacoco(ガシャココ)」が好調だ。

「gashacoco(ガシャココ)カメイドクロック店」の内観

「カプセル玩具自販機の多くは軒先を借りる形で設置されていますが、自社店舗を持つ形で始めたのが『gashacoco』です。カプセル玩具の自販機がずらりと並ぶ光景が、購買意欲につながっているのではないかと考えています。また、カプセル玩具のクオリティーが年々向上していることや、認知度が向上したきたことで、ユーザーの性別や年齢もさまざまな層に広がってきております。今後自社店舗は現在の50店舗から100店舗まで増やす予定です」

創業時からのこだわり
独自の流通システムに強み

同社では4つの事業の柱に関連し、物流やEC事業も手がけている。その基盤となっているのはエンタテインメント全般の流通を担ってきた経験と知見だ。

「創業当時からこだわってきたのが中間流通としての機能強化です。当社ではメーカー様の商品を販売店様にタイムリーに、そして間違いなくお届けできる物流システムに強い思い入れを持って取り組んできました」

玩具のパッケージは大きさも形もバラバラで、素早く梱包して出荷するのが難しいとされる。しかし、同社の物流拠点ではこうした課題をクリアしてタイムリーな物流を実現している。そのため、さまざまな分野の企業が見学に訪れている。

物流の中核拠点である「ハピネット市川ロジスティクスセンター」の外観

「当社の強みは物流システムや機械を運用するノウハウの蓄積があることです。当社では『最適流通システム』と呼んでいるのですが、販売支援システム、物流システム、情報システムの3つを掛け合わせ、営業から物流までの連携を強化しております。また、長年培ってきたメーカー様や販売店様との信頼関係や情報の蓄積も財産です。これらがあってこそ、タイムリーに間違いなくお届けできる物流システムが構築できているのだと思います」

10年先を見据え
第5の柱の創出と経営層の育成を目指す

エンタテインメントを軸に時代に合わせて変化し、成長を続けるハピネット。同社では、今年度から第9次中期経営計画をスタートした。その中で「エンタテインメントとプラットフォームのデュアルエンジンで挑む創造的成長」を中期ビジョンとして掲げている。

「本来なら前期からスタートする予定でしたが、コロナ禍で先行きが不透明な中、経営基盤を増強し、1年かけて策定したものです。これに加え、10年先も見据えようと、『エンタテインメントの可能性を追求し、“from”ハピネットで世界をワクワクさせるクリエイティブカンパニー』という長期ビジョンを発表しました。当社ではこれまで中間流通業を主体としてきましたが、今後はクリエイティブ機能を強化し、自社発信で世界の人々にワクワクを届け、楽しみや感動を提供していきたいと考えています」

こうしたビジョンを共有・実現するための価値観として挙げるのが、「創造性」「主体性」「組織力」だ。この3つのバリューに比重を置き、目標やビジョンの実現を目指すという。

「今後は、第5、第6、第7の柱となる事業を見つけたいですね。見つけたら種をまいて水をやり、大木になるまで大切に育てていく。そのためにはチャレンジも投資も行っていきます。中間流通という事業を中心に行ってきたため、当社の名前の認知度はまだまだ低いかもしれませんが、今後の取り組みにぜひご期待いただければと思います」

玩具の定義もユーザーも、この半世紀で大きく変化した。その中間流通の業界最大手として変革を担うハピネットの存在感は、エンタテインメントの世界で今後さらに増していくことだろう。

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