企業変革を進めるJSRトップの舵取り 24年度までに「最高益更新」自信を見せる理由

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企業経営においてドラスティックな舵取りを行うとき、経営者には強い覚悟で臨むことが求められる。JSRのCEO エリックジョンソン氏もその一人だ。「デジタルソリューション事業」と「ライフサイエンス事業」に注力する一方で、祖業のエラストマー(合成ゴム)事業を譲渡。60年余りの歴史の中で最大ともいえる構造改革に取り組む同氏に、今後の見通しについて聞いた。

――祖業であるエラストマー事業の譲渡など、大きく舵を切られました。

ジョンソン CEO就任後にまず行ったのが、事業ポートフォリオの見直しです。非常に多くの時間をかけて、各事業の責任者や現場のエンジニアからヒアリングし、業界におけるポジションや将来性を見極めました。結果、エラストマー事業に関しては、サプライチェーンやマーケットの状況が激変していることがわかりました。エラストマー事業が今後も成長していくためには、よりシナジーを発揮できる組織へ譲渡すべきだと判断しました。

エラストマー事業の譲渡は、当社の歴史を振り返っても最大級の改革です。しかし、唯一ではありません。合成ゴム事業からスタートし、そのテクノロジーを活用して半導体材料事業やディスプレイ材料事業、ライフサイエンス事業へと、これまでも絶えず変わってきたのです。JSRのコアにあるのはテクノロジーです。それをどの分野に振り向けるのかを考え、そこに集中的に投資し、価値に転換することが経営のキーポイントだと考えています。

――初の外国人CEOということですが、JSRを含め日系企業でのキャリアが長いですね。

ジョンソン 私はもともとエンジニアで、キャリアのスタートは半導体メーカーです。その後、半導体装置なども扱う日本の光学機器メーカーで10年以上勤務していました。そして、以前から知り合いだったJSRの方に「外国人だから能力を発揮できないといった制約はない。投資も育成もグローバルに展開している。うちに来ないか?」と声をかけていただき、2001年に入社しました。

――20年以上前からダイバーシティー経営を実践していたということですね。​

ジョンソン そうです。入社してまず感じたのは、非常にオープンな社風だということです。人は誰もが自分の能力に誇りを持っていますが、JSRはそれだけでなく、他者を尊重する文化が根付いています。外部の専門家との連携も柔軟に行っていて、オープンイノベーションが日常となっています。多孔質構造も可能にする高分子技術はわれわれの強みですが、企業文化にもさまざまな価値観の人々を取り込んで多様性を生かすポロシティー(多孔性)があります。

テクノロジーとイノベーティブカルチャーが価値の源泉

――2024年度に向けた中期経営方針で、半導体材料やディスプレイ材料などの「デジタルソリューション事業」とバイオ医薬品の開発・製造受託などを手がける「ライフサイエンス事業」に注力することを明らかにされていますが、なぜ、これらの事業に絞ったのでしょうか?​

ジョンソン われわれの価値の源泉は、高品質かつ顧客満足度の高いテクノロジーです。しかも、研究開発を中心としたイノベーティブカルチャーが根付いています。つまり、非常に高い品質や技術、顧客体験が求められる市場において、競争優位性を確立しているということです。こうした高度なテクノロジーが求められ、かつ長期的に成長が見込めるのが、デジタルソリューション事業とライフサイエンス事業だと考えています。

例えばデジタルソリューション事業では、AIや自動運転、5G、IoTなどの成長分野で使われる半導体向けに半導体材料を提供しています。すでにグローバルでトップクラスのシェアを獲得しているフォトレジストをはじめ、CMP材料や高機能洗浄剤といった多様な製品群を提供し、市場成長をはるかに上回る成長率を達成しています。

ライフサイエンス事業も同様のトレンドがあります。とりわけ創薬は、膨大なコストと時間を必要とするうえ、新薬の開発における成功の確率は約1割といわれています。われわれの強みである高分子技術をベースとしたテクノロジーとイノベーティブカルチャーにより、そうした市場において高付加価値なサービスや材料を提供できる独自ポジションを築いています。実際、受託プロジェクト数は非常に増えていて、今後の着実な成長を見込んでいます。

こうした事業の長期的な成長を支えるため、イノベーションを起こすための活動にはつねに力を注いできました。現在は、計算科学や情報科学を材料開発に活用するマテリアルズ・インフォマティクスや量子コンピューターをさまざまな形で活用する検討などに加え、大学、研究機関、他社とのさまざまなオープンイノベーションを通じて研究を進めています。また、そのようにして磨いた先端技術を社会へ提供する方法についても積極的に探索しています。

「破壊的な圧力」をチャンスに変える組織づくりを

――中期経営方針で目標として掲げている、2024年度までに「過去最高益の更新」と「ROE(自己資本利益率)10%以上」を達成するために、どのような取り組みをしているのでしょうか?​

ジョンソン ROEについては、2021年度に目標を達成し、2022年度は12%を超えると予想しています。今後も、中期経営方針で定めた取り組みを継続することにより、JSRはROEを高め続けることができると考えています。

ただし、現状を見据えると、あらゆる方向から「破壊的な圧力」がかかっているというのが私の認識です。ネガティブと捉えるのではなく、チャンスと考えていますので、地政学的なリスクにも目を向け、あらゆる視点から専門家の意見を聞き、シナリオ分析を実施しています。グローバルに俯瞰しつつ、ローカルでベストなアクションが取れるようにするためです。そのうえで、われわれならではの価値を創出するため、技術開発に力を注ぎ、絶え間ない変化に対応できる強靱性を養うことが重要だと考えています。

――非財務要因が企業価値を左右する時代になってきました。​

ジョンソン お話ししてきた事業ポートフォリオの最適化や財務指標の達成だけではなく、ESGも同じレベルで取り組むべきだと考えています。まず、E(環境)に関しては、2050年までに温室効果ガスの排出量の実質ネットゼロを目指しています。その達成に向け、2030年度で2020年度対比30%以上削減を中間目標として定めました。

S(社会)は、人的資本に関して、グローバルでの従業員エンゲージメントとDE&I(ダイバーシティー、エクイティー&インクルージョン)の向上に注力しています。「グローバル従業員エンゲージメントサーベイ」の実施や人事制度の見直し、多様で柔軟な働き方への取り組みなども進めています。一人ひとりの能力を最大限に引き出せる仕組みを整えることが、イノベーションを起こす組織力を養い、企業としての競争力を高めることにもつながると確信しています。

G(ガバナンス)については、9名の取締役のうち4名を社外取締役、2名は外国人、1名は女性としたほか、監査役にも女性が1名いて、多様性のある構成になっています。さらに、指名諮問委員会と報酬諮問委員会も設置し、その委員長はすべて社外取締役が務めています。

強調したいのは、これらすべてで透明性を重視している点です。目標達成のための指標や取り組み内容はホームページ上で公開しています。オープンで多様性を尊重するのがわれわれの企業文化であり、透明性も担保することで、組織の強靱性を高めていきます。

――CEOに就任して4年目を迎えた今、これまでの手応えと、今後の意気込みをお聞かせください。​

ジョンソン 企業としての成長と社会への貢献の両面において、JSRはよいポジションを確保しつつあると感じています。将来の見通しは明るいと考えてはいますが、一方でハングリー精神を持って事業創出を行うことの重要性も感じているところです。つねに改善を目指し、新たなソリューションを創出し続けなくては、お客様や社会に十分な貢献はできません。自らの仕事に誇りを持ちつつ、情熱と積極性を大切にし続けなくてはなりません。

JSRは、マテリアルサイエンスを軸としたテクノロジーカンパニーです。今後、国内はもちろんグローバルでさまざまな事業機会が生まれていくでしょう。日本社会および世界の発展に貢献できるよう、テクノロジーを用いてあらゆるステークホルダーに価値を創造していきたいと考えています。

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