インシュアテック企業のオンライン戦略に迫る 次代のスタンダードをつくり続ける新たな挑戦

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専業保険代理店として唯一、東証のプライム市場への移行を果たしたアドバンスクリエイト。つねに「買い方の論理」を貫き、保険業界に新しいスタンダードをつくり続けてきた同社が今、また新たな市場を生み出すオンライン戦略を進めている。いったいどのような新風を吹き込もうとしているのか、その取り組みに迫った。

「買い方の論理」で進める新たなオンライン戦略

2022年4月、アドバンスクリエイトは、専業保険代理店で唯一、東京証券取引所の新市場区分「プライム市場」への移行を果たした。同社が02年にナスダック・ジャパン市場に初上場してから20年、今や名実ともに業界を牽引するフロントランナーだ。

同社は、一般には保険選びサイト「保険市場」を運営する企業として認知されているが、業界では、積極的にITを取り入れてきた、インシュアテック企業として知られている。その先進的な取り組みは、既成のビジネスモデルを革新してきた同社の歴史そのものだ。

同社が一貫して追求する顧客に起点を置いた「買い方の論理」もそうだ。「訪問型販売」で保険を「売りに行く」のが当たり前の業界にあって、「保険市場」サイトを入り口に、保険に関心の高い潜在顧客を集め、テクノロジーを駆使して顧客満足を追求することで、保険を「買いに来てもらう」ビジネスモデルを確立した。現在は、OMO(Online Merges with Offline)戦略を推進。オンライン面談システム「Dynamic OMO」など自社開発のICTツールを活用し、オンラインとオフラインの垣根を越えたサービスで、顧客満足の最大化を図っている。

「ビジネスモデルの賞味期限は短い。ライフスタイルや社会の変化に伴って消費者の購買行動は、絶えず変化しています。現代に即した『買い方の論理』を追求し、新たなビジネスを創出していかねばならないと考えています」と、専務取締役の櫛引健氏。同社は今、新たなオンライン戦略として、代表取締役社長の濱田佳治氏直轄で2つのプロジェクトを進行している。

1つが、「コンサルタント指名予約サービス」だ。「保険市場」サイト上に、営業担当者(コンサルタント)の顔写真やプロフィールを掲載。オンライン相談の相手を指名できるサービスを開始した。「他業界には口コミサイトや指名予約サイトが当たり前にあります。そうした『お客様が選ぶ』仕組みを保険業界に導入できないかと、社長の濱田が着目したのが始まりでした」と櫛引氏。「将来は登録制にして、企業を問わずすべての保険販売員を掲載する、保険の総合指名予約サイトに成長させたい」と構想する。同社は新たなビジネスのみならず、「保険のコンサルタントを選ぶ」という新しい文化を業界に浸透させようとしているのだ。

もう1つがその名も「損害保険プロジェクト」。「生命保険と損害保険の究極のクロスセリングを目指す」という業界の未踏域に切り込もうとしている。

「生命保険と損害保険はまったく別の論理で販売されています。メーカーも生命保険会社と損害保険会社に分かれており、販売チャネルも訪問販売や保険ショップが中心の生命保険と、自動車ディーラーや不動産会社がメインの損害保険では大きく違います。しかしそれは『売り方の論理』です。お客様にとってはどちらも『保険』であることに変わりありません。『生命保険の保険料を安くしたい』なら、同時に『損害保険の保険料も安くしたい』と考えるのが普通です。この両方をすくい上げるビジネスモデルをつくろうとしています」と、櫛引氏は説明する。

2つのプロジェクトがいずれも実現すれば、新しい「保険のライフスタイル」を世の中に提供することになる。

「お客様が選ぶ」文化をつくるコンサルタント指名予約

「お客様にとって満足度の高い指名予約サイトにはどんな情報や機能が必要か。他業界の先進的な取り組みを徹底的にリサーチしました」。ダイレクトマーケティング部の部長・田坂貴典氏は、「コンサルタント指名予約サービス」の開発経緯をこう明かした。

自社にIT開発部門を擁する同社には、「運用しながらブラッシュアップしていける」強みがある。「まずはやってみよう」と、すぐさま120名余りを掲載。実際に予約した顧客にアンケートを行い、感想や要望を聞きながら、コンサルタントの写真に紹介動画、評価を表す「星」、相談件数、得意分野、趣味など掲載項目や検索機能を充実させていった。

「コンサルタント指名予約サービス」によって、オンライン面談の生産性は同社の試算でおよそ2倍になったという。「コンサルタントを指名されるお客様は、保険加入を極めて前向きに検討されていらっしゃる傾向があります」と、梅田阪急コンサルティングプラザで営業課の課長を務める加美智奈津氏は語る。オンライン面談の場合、どこからでも気軽に相談できる反面、その気安さからキャンセルや変更依頼が増える傾向にある。だが指名予約では、その割合が激減した。また出身地や趣味などの情報を載せることで、最初から打ち解けやすく、関係構築も圧倒的にスムーズになるという。

一方、「損害保険プロジェクト」では、これまで取りこぼしていた損害保険の潜在顧客の掘り起こしからスタートさせた。「当社サイトを解析した結果、自動車保険の一括見積もりページに入力を試みたお客様のうち、約80%は途中でやめてしまうことがわかりました。離脱原因を分析する中で見えてきたのが、新規や乗り換え以外の、任意保険未加入の方の存在です。そこですぐにこの方々を当社のコールセンターへ誘導する仕組みをつくりました」と田坂氏。

こうした地道なマーケティングで、それまで光が当てられていなかった潜在顧客をあぶり出し、そこに新たな市場をつくる。その積み重ねで損害保険全体の申込率は少なくとも1・5倍に跳ね上がる見込みだ。そして、申込率の向上と並行して、損保で獲得した見込み客を生保へつなげていく仕組みづくりにも取り組む。「潜在顧客を見つけ、そこから新しい市場をつくり上げると、それが業界の常識になっていく。こんな醍醐味はほかでは味わえません」と田坂氏は充実した顔を見せる。

社長自ら実行するサクセッションプラン

「社長直轄の2つのプロジェクトは、社内的には濱田による実務を通した『サクセッション(後継者育成)プラン』でもあります」と櫛引氏。毎日ミーティングを実施し、濱田氏自らプロジェクトのメンバーに新しい市場を創出し、絶えず進化していく重要性を説く。「新しいものをつくり出す過程では、必ず壁にぶつかります。そのとき、できない理由を挙げるのではなく、できる方法だけを考える。やり遂げるまで決して諦めない。そんな濱田の経営哲学を伝えています」と言う。

自らの行動で範を示すため、22年4月、濱田氏は「OMO営業本部長」に就任した。自ら全営業担当者にその極意を伝授する。加美氏は「『買い方の論理』で、既存の保険販売に変革を起こす。濱田が追求するビジネスには夢と美学があります。それに携われることがやりがいです。何より社長から直接指導や評価を受けることが、最大のモチベーションになっています」と語る。同社では若手社員であっても他社が驚く業績を上げるのは、濱田氏の熱のこもった教育の賜物といっていい。

「世界はわれわれの想像を超える速さで変化し続けています。この先に待ち受ける厳しい社会を生き抜いていくために、進化し続ける必要がある。濱田はその『覚悟』を伝えようとしています」(櫛引氏)。オンライン戦略とサクセッションプランの両輪で同社はさらなる成長を遂げていく。

チューリッヒ生命社長が語る
アドバンスクリエイトの先進性
チューリッヒ生命は、保険募集代理店としてのアドバンスクリエイトと20年以上提携関係を続けている。過去にはアドバンスクリエイト専用の保険商品を開発・販売したほか、直近では同社が開発したシステムを導入するなど、その信頼は厚い。
代表取締役社長の太田健自氏はアドバンスクリエイトについて、「業界にイノベーションを起こす企業という印象を強く持っています。最近でもオンライン面談システム『Dynamic OMO』や『コンサルタント指名予約サービス』など、新しい仕組みを業界に浸透させている。次はどんなイノベーションを見せていただけるのか、いつも楽しみにしています」と語る。
太田氏が驚きを見せたのが、「Dynamic OMO」を使ったオンライン専門の営業部隊「保険市場 スマートコンサルティングプラザ」の生産性の高さだ。「1日の面談件数や成約率、営業担当者一人当たりの売り上げも、桁違いの高さです。テクノロジーはもちろんですが、何より一人ひとりの営業品質の高さに感銘を受けました」と言う。「つねに創意工夫をする」。そんな企業文化がそれを可能にしていると見る。
2019年、チューリッヒ生命は、アドバンスクリエイトが開発した保険会社各社と乗合代理店の共通プラットフォーム「Advance Create Cloud Platform(ACP)」を導入し、APIによるデータ連携を行うことを発表した。さらに21年8月には、「Dynamic OMO」を正式導入。「お客様にとってよりよいサービスをいかに提供するか。つねに『お客様』を起点にするオンライン戦略に共感しました」と、連携を深める理由を語る。
「お客様のさまざまなニーズに応えられるようオンライン、オフラインを含め全方位にチャネルを持っている、そして長期にわたってお客様との関係を維持・強化する仕組みをつくっている。そこがすばらしい」と評価した太田氏。「お客様と接点を持ち続ける中で新たな保険のニーズも見えてくると思います。当社ならそれに応える保険商品やソリューションを提供できます。そうしてスクラムを組んで、今後もお客様満足を追求していきたいと考えています」と期待を寄せた。