「アボカド消費量激増」裏に潜む意外な技術の正体 輸送中に腐敗→食品ロスとなるリスクを低減

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「森のバター」と呼ばれ、広く親しまれているアボカド。日本での消費量は年々増加しており、全国の輸入量は、1988年の3370トンから2020年は7万9560トンと、約23.6倍に伸びている(※1)。その大半は、日本から見て地球のほぼ反対側に位置するメキシコやペルーから、海上輸送で2~4週間ほどかけて日本に運ばれてくる。にもかかわらず、新鮮な状態を維持できているのはなぜなのだろうか。裏側に迫ると、それを可能にしている「空気の技術」そして食品ロス削減といった新たな可能性まで見えてきた。※1 出典:横浜税関資料「アボカドの輸入」(2021年9月16日)

地球の反対側・メキシコから、鮮度を落とさずに運ぶ技術

青果(野菜・果物)の輸入には「輸送中に劣化してしまう」「おいしく食べられる期間が短くなる」など、鮮度に関する課題がつきまとう。実は、ここには青果物の「呼吸」が深く関係している。

青果物は収穫後も呼吸を続けており、二酸化炭素・熱・水分などを排出すること(代謝活動)によって熟成・劣化が進む。輸送には日数がかかるため、各青果物の代謝活動を念頭において輸送しないと、到着時には鮮度が落ちてしまい、腐敗して廃棄を余儀なくされることも。とくに熟成スピードが速いアボカドなどは、そもそも長距離輸送をかなえることすら難しい。

こうした課題の解決に挑戦してきたのが、空調専業メーカーのダイキンである。「ダイキンが培った空気の技術を生かして、青果をもっと新鮮な状態で届けられないか」という思いから、新技術の開発を進めてきた。

青果の熟成や劣化を抑えるには、呼吸の抑制が必要だ。海外から青果物が運ばれる際は「コンテナ」と呼ばれる輸送用ボックスに入れられるが、一般的にはこのコンテナ内の温度を低く保つことで、青果の呼吸を抑えることができる。ただし、それだけでは長距離輸送には不十分なケースも多い。さらに高い効果を上げるためには、コンテナ内の酸素と二酸化炭素の濃度を適切に保ち、空気の成分をコントロールすることが必須となる。それを可能にしたのが、ダイキンが開発した技術「DAIKIN Active CA」だ。

コンテナに積んで運ばれるアボカド。地球の反対側にも、腐らずに届けられる

ダイキン低温事業本部の武内隆弘氏は、こう説明する。

ダイキン工業 低温事業本部 営業部
武内 隆弘

「DAIKIN Active CAは、空気の成分をコントロールする技術です。コンテナ内部の酸素と二酸化炭素の濃度を適切に保つことで、青果物の熟成・劣化を抑制し続けることが可能です。CAは『Controlled Atmosphere』のこと。実際、温度制御のみの輸送に比べて、青果の日持ち期間が1.5~2倍に延びることが期待されています。とくにアボカドやバナナなどをはじめとした、さまざまな熟成が進みやすい青果に効果を発揮します」

ダイキンが「青果の鮮度」に注目する理由

ダイキンといえば、エアコンや空気清浄機で知られる空調専業メーカーだ。同社が、なぜ青果の輸送にまつわる技術開発に取り組んでいるのか。そこには、「空気の技術で人間の暮らしを豊かにしたい、食品ロスのような社会課題を解決したい」という信念があった。

「ダイキンの空気をコントロールする技術により、劣化のスピードが速いために遠くまで運搬できなかった青果をより広い地域に届け、市場を広げることができるようになりました。これは、豊かな食文化の醸成にも寄与するものだと考えています。また、食品ロスの削減にも貢献できるでしょう。食品ロスの約10%は輸送中に発生しているといわれており、この部分に、ダイキンの技術が貢献できます。さらに、青果を廃棄する際には二酸化炭素が排出されますので、廃棄が減ることは脱炭素にもつながります」(武内氏)

日本における2020年度の食品ロス量は522万トン。収穫、輸送、貯蔵の過程で廃棄される分は、このうち約275万トンと過半数を占める(※2)。ダイキンの取り組みは、この「事業系ロス」の削減に寄与するものだ。同社は独自のノウハウによって空気の可能性を広げ、食品ロスのような世界的課題の解決にも取り組んでいる。

DAIKIN Active CAで運ばれたカスタードアップル。新鮮な状態を維持している

例えばアボカドは、DAIKIN Active CAによって、南米のペルーからインドまで最大50日の輸送に成功している。さらに最近では、ブルーベリー、アスパラガス、マンゴー、切り花などの輸送にも活用されているという。

「腐りやすく鮮度維持が難しいことから、ほとんど原産地でしか食べられてこなかった果物『カスタードアップル』も、約20日の海上輸送に耐えられるように。ドバイのスーパーでの販売を実現しました。大きな変化です」(武内氏)

※2 出典:消費者庁「食品ロス量(令和2年度推計値)の公表」について(2022年6月9日発表)

長年培ってきた、空気にまつわる技術を結集

ダイキンが青果の鮮度に着目し、この技術の開発を始めたのは、2013年のことだった。同社の低温事業本部で、温度制御以外に青果物の鮮度を保つ方法を探ろうと話が持ち上がったところからスタートした。開発のヒントとなったのは、他部門が手がけている、医療用の酸素濃縮器だった。

呼吸器疾患の治療に用いられる酸素濃縮器は、部屋の空気を取り入れて高濃度酸素を生成する装置。ダイキンは青果物の運搬においてもこの技術を応用し、コンテナ内の空気の成分をコントロールすることに成功した。しかし、実用化に向けては困難もあったという。

「アボカドの輸送で検証をスタートしたものの、アボカドの呼吸量が想定よりも多く、うまくコントロールできませんでした。そこで、開発チームがアボカド産地のメキシコに長期滞在し、最適な制御を模索して奮闘。試行錯誤を繰り返し、ようやく実用化につなげることができました」と武内氏は振り返る。

ほかにも、ダイキンは50年以上前から、コンテナ庫内の温度をー30度~+30度まで0.1度刻みで変更可能な海上コンテナ用冷凍機を製造してきた。そこで培った技術やノウハウが、今回の開発にも生かされているという。

空気の技術で持続可能な社会に貢献

エアコンや空気清浄機など人間の生活空間で使われる家電にとどまらず、青果物の鮮度を維持するという意外な技術も開発しているダイキン。その根底に共通しているのは、人間の暮らしや地球環境への思いだ。

「空気は目に見えませんが、青果物の鮮度維持をはじめ、さまざまな可能性を秘めています。今後目指すべきサステイナブルな社会の実現に向けて、ダイキンが誇る空気の技術で、社会課題解決に貢献していきます」と、武内氏は力強く語る。

ダイキンの空気にまつわる技術は人々の食生活を豊かにし、新たな市場の開拓にも貢献する。加えて、食品ロスの削減という社会的意義も持ち、空気の新しい可能性を示す技術でもある。

柔軟な発想と蓄積された技術をつなぎ合わせて、今や世界的な課題となっている食品ロスをはじめ、あらゆる社会課題に果敢に挑む空気のプロ集団、ダイキン。その存在感は、私たちの日常生活には見えにくいところでも、存分に発揮されている。

>ダイキンがみつめる空気の可能性についてもっと知る

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