SaaSを活用した「従業員体験」の向上手法 UXデザインの人事領域への応用、3社の視点

経験や勘に頼りがちな人事業務を、抜本的に変革
――Sansanでは2020年2月から、人事の変革プロジェクトを進められているとのこと。その目的と内容について教えてください。
田中(Sansan):多様な働き方が浸透する昨今、人的資本の価値を最大限引き出すことが必要だと感じています。その中で当社が行っている変革プロジェクトの目的は「データドリブンな人事の実現」です。
これは以前より取り組んでいたものですが、人事領域においては業務全般を通して経験や勘に頼りがちで、意思決定のためのファクトに乏しいという課題がありました。そのため、今回のプロジェクトでは、意思決定の精度や生産性を高め、未来予測に必要な「人事のデータ基盤」を構築することを第1目標に設定。具体的には、最適なツールの導入と、人材マネジメントや人事オペレーションの抜本的な見直しを行いました。
経営戦略に生かしやすい統合型人材管理システム「Workday」を手がけるワークデイ社と、人事機能変革(HRトランスフォーメーション)に精通したDTCに協力を仰いで、5カ月という短期間で最初のプロジェクトを完遂した形です。

田中 洋一氏
正井(ワークデイ):「Workday」の特徴は、人事に関するデータを業務横断的に運用・管理し、人材・経営戦略に活用できる点です。今後の不確実な経営環境においては経営戦略の変更に合わせて頻繁に組織の改編や人員の再配置が必要になると考えられますが、「Workday」ではすべての人事業務が統合化されたデータモデルを参照しているため、経営戦略の変更を即座に人事運用に反映すること、そしてシームレスなデータ活用が可能です。成長著しい、スピード感あふれる経営をされているSansan社における人事領域の変革にベストなソリューションだったと自負しています。
田中(Sansan):さまざまな人事関連のシステムがありますが、「Workday」はほかのシステムからのデータ収集やデータクレンジングの必要がなく、非常に便利だと感じました。
正井(ワークデイ):ありがとうございます。Sansan社のプロジェクトで先進的だと感じたのは、経営方針とビジョンを具現化する各組織が連携して、明確で迅速なデータドリブンの取り組みを実行されたところです。広範な機能をかなりのスピード感で導入したのみならず、同時にチェンジマネジメントと社内の理解促進に着手されています。これは、Sansan社が明確な意思とリーダーシップをもって進められているからこそだと感じます。

正井 拓己氏
馬島(DTC):当社は当初伺った課題感から、本プロジェクトの目的を「Workdayという統合ソリューションを活用して人事機能とオペレーションを最適化すること」だと考えていました。しかし、実際にプロジェクトをスタートする際、過去履歴を含めた網羅的な人材データの統合や、現場で活用しやすいレポート・ダッシュボードの整備、通常業務で活用されているコミュニケーションツールなど周辺の仕組みとのデータ・プロセス連携を重視されていることを理解し、本件はSansan社ならではのイノベーションだと感じるようになりました。
田中(Sansan):DTCには、「Workday」の導入における豊富なノウハウを存分に提供いただきました。現段階はゴールに向けた第1ステップですが、土台となるデータの可視化は実現できた形です。
EX(従業員体験)デザインという新しい概念
――データドリブンな人事を実現するためのプラットフォームを、社内横断的に活用していく施策も進められていると伺いました。その1つに、EX(従業員体験)デザイン室の設置があるそうですね。
三浦(Sansan):はい。設置の背景は3つあります。1つ目は、「働き方の常識の変化」です。今後当社の方針であるオフィス・セントリック(対面でのコミュニケーションを中心としつつリモートワークを組み合わせる勤務体系)を推進しつつ、オンラインをどのように組み合わせていくかということを考えていく必要があります。2つ目は、当社の規模拡大です。この3年ほどで従業員数が倍近くに増え1000人規模になりました。ベンチャーのよさを引き続き生かしつつも、業務や意思決定プロセスの標準化が不可欠です。
そして3つ目は、「マルチプロダクト体制への移行」です。営業を強くするデータベース「Sansan」だけではなく、複数サービスの展開を推進していくことで社内業務の複雑性が増し、業務全体のアップデートが必要となりました。これら3つの背景を受けて、全社に横串を刺して優れた業務体験の設計を図るべく、EXデザイン室を設置しました。
EXを向上させることで、会社と働く個人がいい関係を築き、生産性を上げていくことに寄与していきたいと考えています。

三浦 俊介氏
正井(ワークデイ):EXデザイン室では、製品やデザイン開発のコアとなっているプロダクトデザインのノウハウを、EXデザインに応用する考え方を採用されています。単にツールを入れる業務改善とはまったく異なる、先進的なイノベーティブ経営の事例だと感じます。
三浦(Sansan):Sansanへの入社前から在職中のあらゆる地点で優れたEXをデザインできれば、仮に退職した後も卒業生としていい関係を築き続けられます。それがSansanのいい評判につながり、さらに新たな出会いが生まれていくと考えています。
馬島(DTC):EXを意識した社内業務やテクノロジーの設計というのはとてもワクワクしますね。
EX視点は、継続的な変革の担い手に寄り添うもの
Sansan社への支援を推進してきたDTCの馬島氏は、テクノロジーを活用した人事の変革において、活用の主体となる従業員体験の視点は欠かせないと話す。

馬島 聖(まじま・あきら)氏
「人事部門の方々や、データを活用する経営層・現場のマネジメント層と個々の従業員が、主体的に変革の方向性を考え、そのためのテクノロジー活用・改善の形を議論することが重要です。EX向上や快適さの実現はそういった『主体』となる人々に寄り添うために欠かせない要素だと考えます」(馬島氏)
「Workday」などのSaaSソリューションを活用した人事変革は、定期的に強化・追加される先進的機能も取り入れながら継続的に進めていくことになる。そのため変革の担い手に寄り添い、それを加速させるような体験を提供することが重要といえるだろう。
「昨今、人的資本情報の統合と戦略的な活用を通じた人材の価値発揮の支援に向けた対応の優先度が上がっています。SaaS活用においても、それに寄与する人材育成・エンゲージメント向上といった日々の施策運用で活用が進むよう、EX視点での検討が進むといいと考えます」(馬島氏)
企業は、自社の存在価値を継続して高めるためにも、人事部門をそこで活躍する人材の価値を最大化させるための変革を主導する組織へと、意識的に変貌させることが望まれる。
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