デロイトが「患者の医療体験向上」に取り組む訳 欧米では常識?「人生100年時代の医療世界」

患者サービスを「一連の医療体験」としてつなげるべき
人生100年時代といわれる今、「健康寿命の延伸」が重視されるようになってきた。疾患に対するピンポイントの解決だけでなく、長いスパンで健康を支えるヘルスケアが求められていることを意味する。ところが、現在日本で得られる「医療体験」は途上段階にあるとマネジャーの石坂優人氏は指摘する。

石坂 優人氏
「デジタル技術の進展もあり、患者に関わるステークホルダーがデジタルの力で双方向につながり、その中で獲得されたヘルスケアデータがいろいろなサービスとして患者に還元される世界が見えてきました。医療機関(医師・看護師・薬剤師)や製薬会社だけでなく、デジタルヘルス会社なども多数登場してきています。しかし、患者が享受する『医療体験』としてのサービスはいまだ一方通行の状態が多い傾向にあると考えています。患者にとっては、病気の予防、症状の自覚、医療機関への受診、診断、治療、予後のモニタリングが一連の医療体験であるべきなのに、サービスごとに分断されてしまっているのです」(石坂氏)
医療機関だけで医療サービスが完結するならば、一方通行でもいいだろう。しかし患者に関わる複数のステークホルダーが存在する今、それでは効率的かつ効果的な医療サービスを提供できない。医療サービスを提供するうえでは、患者視点での双方向で一連の「医療体験」の設計が求められているのだ。
これは、時代の要請でもある。マネジャーの渡邊智昭氏は「他業界・産業を見れば一目瞭然」と話す。

渡邊 智昭氏
「身近な例で言うと、買い物はいつでもどこからでもできる時代になりました。会員の属性情報や行動情報に合わせたレコメンドもされるなど、アクセスしやすく便利なサービスが選ばれています。そういった顧客起点の新たな価値観がスタンダードになってきた今、顧客体験ならぬ『患者の医療体験』の向上を意識した見直しが必要になってきています」(渡邊氏)
データの取得・活用を通じ、患者や製薬企業双方に還元
ただし、そのためにはクリアしなければならない問題があるという。コンサルタントの張鋭氏は次のように解説する。
「患者の関連データを各ステークホルダーが管理・共有できていないのです。そのため、医療機関であっても、受診・治療以外の行動が把握できません。カルテには検査や医師の診断、治療に関する情報が記録されていても、処方薬をいつ服用したのか、服用してどんな反応があったのかわからないのです」(張氏)

張 鋭氏
そうした現状を打破するため、デロイト トーマツ コンサルティングが2021年7月より提供を開始した製薬会社向けの支援サービスが「Connected Health」だ。

「患者を中心に、あらゆるステークホルダーをデジタルの力で双方向につなげることでシナジーを生み出し、患者が享受する医療体験を向上していくことを目指しています。例えば病気になったとき、治療だけでなく職場や学校にどう理解してもらうかも大切ですし、食事や生活習慣へ意識を振り向けることも重要です。そうした生活全般の支援をConnected Healthで実現したいと考えています」(吉岡氏)
そう説明するのは、シニアコンサルタントの吉岡百合絵氏。Connected Healthを実現することで、製薬企業はこれまで以上に患者情報を分析でき、例えば、「どの時点で服用をやめたのか」等の服薬状況も把握できるという。

吉岡 百合絵氏
「加えて、患者がどんなとき、どのような困り事があるのかといったデータも蓄積されていきますので、より正確に患者の理解ができるようになります。さまざまな疾患の医療ニーズも把握できることで、製薬企業にとって、創薬イノベーションにもつながります」(石坂氏)
創薬だけでなく、患者や医療機関に選ばれるサービスの創出も期待できると渡邊氏は話す。
「Connected Healthによって取得した膨大なデータを活用し、患者にとって最適なサービスを提供することで、医薬品の価値を最大化できると考えます。患者が抱える一つひとつの課題を分析し、何パターンもの患者ジャーニーをデザインし、適切なチャネルで適切なサービスを整備することで、治療アドヒアランスの向上、さらには薬剤の継続利用につながります」(渡邊氏)
最適なプラットフォームづくりをEnd to Endで支援
単に理論を組み合わせて生んだ構想ではなく、デロイト トーマツ コンサルティングの強みを生かしたスキームとなっているのもConnected Healthの特徴だ。システムアーキテクチャ1つとっても、多数のヘルスケアサービスが乱立する中で適切なものを選定。データを標準化し、快適な医療体験の実現が支援できるようにデザインされている。
「患者の医療体験向上につながる戦略の策定から最適なプラットフォームの構想、システム開発・展開までEnd to Endで支援できると自信を持って申し上げられます」(張氏)
加えて、これまで多数の案件を手がけたことで疾患ごとのナレッジが蓄積されているほか、必要に応じて機能を追加する組織横断的なチーム組成で柔軟な対応を可能にしているのも見逃せない。
「患者がどんなことで悩みを抱えているのか、ステークホルダーはどんな課題を持っているのかといったナレッジがあるので、オペレーションベースでデザインができます。実装や運用も含めて、End to Endで一貫して支援できることが強みです」(吉岡氏)
すでに革新的な事例がいくつも進んでいる。ある製薬会社との取り組みでは、頻度や程度を把握するのが難しかった難病の症状を可視化するソリューションを実現。オンライン診療や服薬指導、患者宅への薬の配送までのプロセスを一貫して支援できる仕組みを実証実験から始めた。身体的にも経済的にも通院の負担が大きかった患者のQOL向上につなげられる取り組みだ。
個人情報保護の観点から、患者のデータを取得・活用することにコンプライアンス上の懸念を持つ人もいるだろう。また、患者エンゲージメントの強化という目に見えにくい取り組みのため、短期的な投資対効果が算出しにくい面もある。他方で、第4次産業革命ともいわれるパラダイムシフトの中、予測不可能な変化に対応できる基盤づくりが欠かせないのも確かだ。人生100年時代の到来により、充実した医療体験が求められている今だからこそ、「Connected Health」を活用した医療サービスのさらなる進化に期待したい。
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