オザックスが見据える「NEXT100」と成長戦略 自社のノウハウ生かしSCM領域中心にDX提供
生産性向上が評価され国内1万8000以上の拠点で導入
国内の多くの企業が期末を迎える3月、業界の担当者を悩ませるのが棚卸し作業だ。社内のマンパワーを総動員して取り組むこの作業は大きな負担であると同時に、アナログゆえのミスやトラブルも発生しがちだ。
とある部品メーカーは、かつて毎月社員総出で資材の棚卸しを行っていた。消耗品は毎日社員自ら実数を計測し、液体製品は手で持ち上げたときの重さで残量を推定しており、人力頼みで負荷が高いだけでなく当然ミスも頻発だった。しかし現在、同メーカーの棚卸しは完全に自動化されている。まさに業務の大変革を遂げたわけだが、この原動力がオザックスのIoTソリューションだったという。オザックス専務執行役員でIoT事業の推進責任者の富山友貴氏は、導入効果について胸を張る。
「先のメーカーでは、以前は社員が工場内を何往復もしていましたが、わが社のソリューションで自動化してから社員の移動時間はゼロになりました。さらに、液体の残量が設定値を下回ると自動発注する仕組みを整え、欠品はもちろん過剰在庫がなくなり在庫量は約20%減少。ミスやトラブルの防止はもちろん、業務時間中のマンパワーをより生産性のある業務に充てられるようになり、社員の働き方が変わる契機にもなったようです」
この部品メーカーをはじめ、オザックスのIoTソリューションは国内1万8000以上の拠点に導入されている。しかし、同社がIoT事業に注力し始めたのは実はたった6年前。なぜ急速に存在感を高めることができたのか。歴史をさかのぼってみよう。
1910(明治43)年、「紙の専門商社」として創業したオザックス。112年目となる今日まで、生活関連商品や店舗運営に欠かせない消耗品など取り扱う商材の領域をつねに広げながら成長を遂げてきた。その礎が、オザックスのDNAとでもいうべき変化に適応する精神だ。例えば過去には、それまで流通業界のスタンダードだった電話やFAXによる受発注のオンライン化に早期に成功している。オザックスは、従来の受発注における手間や書類紛失、誤送信に起因する受発注者双方の負担に早くから着目し、まずは自社システムをデジタル化すると、2006年からは同じ悩みを持つ他社に対して自社システムの外販を開始した。これをIT商社としての第一歩に、オザックスは2016年に本格的な事業構造改革に乗り出す。ここで改革の指揮を執るべく招聘されたのが、数々の企業のDX領域で手腕を発揮してきた富山氏だった。
IoTのオザックスを目指してDXフロントランナーが描く未来図
富山氏のミッションは大きく2つあった。1つは社内のDXだ。同社がいち早く取り組んだ業務のシステム化の多くはオンプレミス(自社運用)だったが、富山氏の目にはクラウド化を軸にしたデジタル推進が急務と映った。富山氏がIoT事業推進のトップに着任し間もなく策定した中期6か年計画のロードマップには、データ構造改革への注力が盛り込まれている。自前主義からの脱却を掲げての再出発に踏み切った理由について、富山氏は次のように話す。
「システムを『所有』しようとすると、ハードウェアを入れ替える際に大きなキャッシュアウトが発生します。システムの立ち上げにかかる時間や人的コストを考えても、事業スピードの妨げにならないIT構造を構築し、システムの『所有』から『利用』に舵を切る決断は不可欠でした」
同時に、富山氏はコスト構造の改革にも注力。ITコストの経費化でコスト管理が可能になれば事業スピードの鈍化を防ぐことができる。着実にシフトした結果、クラウド化率は着任当初の20%から70%にまで引き上がったが、富山氏はさらなる未来を見据え「いずれはクラウド化率90%を目指します」と話す。
もう1つのミッションは、IoT事業の中核事業化だ。富山氏率いるIoT事業室は、2011年にリリースしたクラウド型受発注システム「MPS(Multi Platform System)」の拡充に取り組んでいる。実際に現場で物を売買しているからこそのノウハウが詰まった、オザックスらしさを生かしたサービスだ。
「通常のクラウドベンダーに発注するとシステム設計に時間がかかるケースが多いですが、当社は商社業務の知見を生かし、お客様の商流を迅速かつ適切に理解できます。例えば、チェーン展開で複数店舗を有するお客様には、本部が一括購入した商品を各店舗に分配して納入する仕組みを整えました。このような核心をついた対応は、オザックスを選んでいただく大きなポイントになると確信しています」
オザックスはさらに、受発注業務の効率化を図るIoTデバイスも展開している。「SmartMat」は商品の下に敷くマットで、重量を自動計測して在庫数を算出するほか、Wi-FiでMPSにつなげれば「在庫が20個を切ったら30個発注」と自動発注も可能だ。冒頭に紹介した部品メーカーも、SmartMatによって液体製品の人的管理から解放された。
商品のJANコードを読み取ってMPSにつなげるスマホアプリ「MPS BROWSER」も興味深い。取り扱うアイテムが増えると受発注システム内で特定の商品を探すのも一苦労だが、「MPS BROWSER」を入れたスマホをデバイスに取り付けJANコードを読み取れば、一発でヒットさせられる。専用デバイスなら15メートルまで照射でき、例えば倉庫の高い位置にある商品でもわざわざはしごに登らず発注可能だ。富山氏は「距離の概念を超えられる点はデジタル化の1つのメリットです。このデバイスではその効果をしっかり実感いただけます」と語る。
その他、19年にリリースされたクラウド型倉庫管理システム「MPS LOGI」は入出庫までの流れをデジタルで一括管理し、管理業務の負担軽減や精度向上を実現できる。続く21年リリースの「MPS Plus」は、「MPS」と「MPS LOGI」をつないで購買管理から倉庫管理までのサプライチェーン全体をクラウド化で支援するシステムだ。受注情報を入力すると倉庫側に自動で出荷指示が届き、出荷され次第、受発注システムに自動で出荷実績が反映されるため、SCM領域を簡単にマネジメントできる。
「通常は購買管理と倉庫管理にそれぞれソリューションがあり、連携させるにはさらにコストがかかります。一気通貫のサービスには社内でも需要があり、商品開発に踏み切りました」
現在クラウドでの使い分けに対応する準備が進んでおり、IoT事業室が提供するサービスのさらなる拡充に期待が高まる。
オザックスの包括的ソリューション提案とは
オザックスはIT商社として、自社のクラウドサービスブランドだけでなく他社のプロダクトも取り扱う。優れた製品を持つパートナーと組むことで、自社サービスだけでは解決できない課題に対し包括的なソリューションを提案しているのだ。サービスを支えるのは目利き力で厳選したラインナップだ。
「取り扱う他社製品には一定の社内基準があります。クオリティーの高さはもちろんですが、私たちにも質の高い製品を見抜く目利き力が求められます。そこで、気になる製品はまず自社のDXで実際に活用して効果を実感するようにします。ここでユーザーとしてまた使いたいと思えるかどうかは欠かせない条件です。そして販売するからには、実際に利用した知見を生かしつつ私たち自身が自社ブランドと同じレベルでサポートします」。ここにも選んだパートナー製品への自信と責任がうかがえる。
最後に富山氏はこう語る。「企業のクラウド化戦略の課題は実に多様です。明確な目標がある企業様もいますが、まだ二の足を踏んでいる企業様も多い感覚があります。いずれの状況でも、DXのお困り事があれば私どもにご相談いただきたいですね。自社、他社を問わずお悩みにマッチしたサービスを提案し、多岐にわたる課題に寄り添うIT支援を実施いたします。ぜひ、お任せください」
オザックスが掲げる行動指針にCHANGE CHALLENGE CREATEがある。創業から112年、IoTの中核事業化に向けいかに変革し、挑み、新たな時代を創るのか。同社のこれからの100年、「NEXT100」に注がれる視線は熱い。