企業の脱炭素に向けた取り組み「TCFD開示」とは サプライチェーンレベルでのCO2把握が重要
金融市場にデータとインフラを提供するリフィニティブ・ジャパンの上席執行役員である笠井康則氏に、TCFD開示を行うに当たって企業が気をつけるべきポイントや、同社が提供する非財務情報開示支援サービスの中身について聞いた。
サプライチェーンのその先のCO2排出量まで把握する
世界的に気候変動問題の解決に向けた動きが急進展する中で、企業における脱炭素化の取り組みは待ったなしの状況だ。とくに投資家らが適切な投資判断をするうえで必要な気候関連財務情報の開示を行うTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の取り組みは、2022年3月末時点で、世界全体で3151の企業・機関が賛同しており、うち日本の企業・機関は758と最多となっている。
TCFD開示に当たっては、企業活動に伴う温室効果ガスの排出状況を把握することが求められる。開示の段階・レベルはスコープ1、2、3に分かれており、段階によっては企業が生産活動で直接排出する温室効果ガスだけではなく、使用する電力量などの間接的な温室効果ガスと、仕入れ先・納入先企業の排出状況まで把握して開示する必要がある。
このTCFD開示が、22年4月の東京証券取引所の市場区分変更に伴うコーポレートガバナンス・コードの改訂を受け、プライム市場上場企業に対して実質的に義務づけられた。3月期決算企業であれば、22年6月の定時株主総会後に提出されるコーポレートガバナンス報告書で初めて開示する見込みで、開示しない場合はその理由を説明しなければならない。
「東証の取り組みはグローバルで見ても先端的ですが、現段階においてスコープ3まで対応できているプライム市場上場企業は、まだまだ多くないと考えられます」と語るのは、リフィニティブ・ジャパンの上席執行役員笠井康則氏。
スコープ3のレベルで求められるのは、国内外に広がる取引先とのサプライチェーン。業務に関わるという観点では、生産活動に関する取引先が中心にはなりつつも、従業員が使用するパソコンやボールペンに至るまで、企業活動で必要となるさまざまな物に関した総排出量であり、それらをすべて把握することは容易ではない。
TCFD開示を行わないリスクは大きい
とはいえ「開示できない理由を示せばいい」と開き直ってはいられない。機関投資家はTCFD開示に消極的であることをリスクと見なし、そうした企業を投資対象から外すことが想定される。また日々の企業活動の中でも、TCFD非開示であることでサプライチェーン・リスクがあると見なされれば、金融機関からの融資や、取引において不利な状況となるおそれもある。
こうしたリスクに対し、効率的に完成度の高いTCFD開示を行うにはどうすべきか。
「各企業ではさまざまなプロジェクトチームを結成して排出量の把握と分析をしていると思いますが、とくに把握において、多くの人手を割き続けるのは、サステナブルであるとはいえません。既存のデータや知見を活用し、日常的に排出状況を把握する仕組みづくりが重要になります」
その効率的な手段の1つが、この春からリフィニティブが提供する「TCFDソリューション」だ。ロンドン証券取引所グループ(LSEG)
「私どもは、サステナブル分野に実績を持つ豪州のFairSupply社(FS社)とパートナーシップを結び、日本を含むグローバルでTCFDソリューションを展開します。企業の皆様、またその取り組みをサポートする金融機関、コンサルティングファームの皆様には、サプライチェーン全体の推計値を含め、まずは各企業における温室効果ガス排出状況を把握し、次に取るべきアクションにつなげていただければと考えています。また、当社サービスをご利用中の金融業界の皆様には、この取り組みを通じて、より深い企業関連情報にアクセスいただけるように準備をしています」
今回リフィニティブがパートナーに選んだFS社は、ESGリスクの分析・評価に優れた企業として知られ、すでにアジア地域を含む多くの企業にTCFDソリューションを提供してきた実績を持つ。リフィニティブの知見と融合させ、国内でもこのソリューションが広く活用されるようになれば、多くの日本企業がグローバルでも引けを取らないTCFD開示を行えるようになるだろう。
他社のCO2排出量まで把握できる
気になるTCFDソリューションの主な機能は、CO2排出量算定とTCFDレポート(英文)の作成だ。利用企業は、自社および取引先企業に関する情報をPCで入力するだけで、取引先の孫請け・ひ孫請けなど、深いレイヤーのサプライチェーンにおけるCO2排出量まで算定することができる。可視化されたデータは、
気候変動リスクに本格的に取り組むに当たっては、2009年からリフィニティブが提供している「ESGレーティング・サービス」も心強い。温室効果ガスを含む広範なESGという領域で同業他社と比較し、「他社はどの程度まで排出量を削減しているのか」「自社の立ち位置や評価はどの程度か」といった点を把握できる。自社でいかに温室効果ガスを削減したとしても、競合他社がより多くの削減を実現していれば、機関投資家は進捗が遅れていると判断する。他社との比較を行うことは、サプライチェーンを含めた改善策や今後の方針決定をしていくに当たり有益だろう。
今、世界ではTCFDのほかにも、生物多様性に取り組むTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のように、サステナブルの領域で多くの活動が進んでいる。「私どもはグローバルのイニシアチブ、コンソーシアムなどと歩調を合わせながら、そしてFS社のような優れた知見を有する外部企業と連携しながら、金融市場参加者の皆様のみならず、経済全体に対して貢献できるソリューションを、LSEGの情報基盤の上に構築してまいります」と笠井氏は今後提供するソリューションの方向性を示す。
サステナブルに関するさまざまな課題に直面する企業、マーケット関係者にとって、リフィニティブのソリューションは欠かせないものになるだろう。