エネルギー転換期をリードするパイオニアに 5事業を柱にネットゼロカーボン社会を目指す

拡大
縮小

上流事業の強靭化とクリーン化に注力

――昨年、「今後の事業展開~2050ネットゼロカーボン社会に向けて」を発表し、新たに長期戦略と中長期経営計画「INPEX Vision @2022」を策定した背景は?

上田 2018年に策定した中期経営計画の経営目標を概ね達成することができたことに加え、当時の長期戦略には昨今のコロナ禍や世界的な脱炭素化への流れは考慮されていなかったため、時代に即した経営戦略にアップデートしました。そして、2050年ネットゼロカーボンに向けた目標をより具体化し、実現に向けた取り組み強化を図っていきます。

――INPEX Vision @2022では基盤事業の石油・天然ガス分野における「クリーン化と安定供給」が1つの柱ですが、具体的な目標と取り組みはどのようなものでしょうか。

INPEX
代表取締役社長
上田 隆之

上田 ネットゼロカーボン実現に向けて、水素や再エネなどのクリーンエネルギーの利用は増やさなければなりませんが、増加し続ける世界のエネルギー需要に応えるためには、石油・天然ガスをクリーン化して利用する必要もあります。当社はこのクリーン化を徹底して石油・天然ガスの安定供給を継続します。

具体的には、石油に比べてCO2排出量が少ない天然ガスに投資をシフトします。2030年頃には投資額の70%程度を天然ガスにすることなどの排出量削減対策により、石油や天然ガスを1バレル生産する際に排出されるCO2を2019年比で30%以上削減したいと考えています。

天然ガスの需要は、近年中国で急増していますが、東南アジア各国も環境対策から天然ガス需要が加速する見込みです。そこで、当社はLNG(液化天然ガス)のトレーディング機能を強化して、2030年にはLNGの取扱量を年間1000万トン程度(現在は約700万トン)まで引き上げ、日本やアジア諸国への安定供給につなげていきます。

画像を拡大
2050年ネットゼロカーボン社会に向けた基本方針
インドネシアで追加開発を検討しているムアララボ地熱発電
オランダのルフタダウネン洋上風力発電所

――もう1つの柱として、2030年までに7000億~1兆円規模で取り組む「ネットゼロ5分野」とは?

上田 二酸化炭素を回収し地下に貯留することで大規模なCO2の排出量削減効果が期待される「CCS・CCUS技術」、利用時にCO2を排出しない「水素・アンモニア」と「再生可能エネルギー」、CO2の吸収源となる「森林保全事業」と、CO2をエネルギーに変換したり化学品の原料として利用する「カーボンリサイクル」の5つです。現時点では実証中の事業もありますが、2030年・2050年に向けてこれらネットゼロ5分野の商業化により、それぞれの分野で主要プレーヤーとなれるようビジネスモデルを確立していきます。

例えば、水素・アンモニア事業では、複数案件の事業化により年間10万トン程度の製造能力を取得します。CCS・CCUSでは圧入量年間6000トンの実証から約400倍の年間250万トンまで拡張し、当社が豪州で操業するイクシスLNGプロジェクトでも採用します。再エネは当社の既存技術が活用できる洋上風力発電と地熱発電事業を中心に発電容量を1~2GWに増加。CO2と水素を合成することにより都市ガスの主成分であるメタンを製造する「メタネーション」では、実証プラントの拡張により1万Nm3/h(LNG換算年間6万トン)のメタンを製造し、当社のパイプラインネットワークを通じて販売します。森林保全事業では、インドネシアのRimba Rayaをサポートすることなどにより年間約100万トンのカーボンクレジットを取得していますが、新たな森林保全事業への参画により年間200万トンに倍増します。

「石油・天然ガスのクリーン化」と「ネットゼロ5分野の加速」を両輪として、ネットゼロカーボン社会の実現に貢献します。

5つのコアエリアで多様なエネルギーを創出

――目標達成に向けた戦略は?

画像を拡大
「5つの事業を主軸にEXを推進します」

上田 1つは、コアエリアへの集約です。豪州、東南アジア、日本、UAEに欧州を加えた5地域をコアエリアとして経営資源を集中させることで、事業の効率性向上を図ると同時にコアエリア内の石油・天然ガス事業とネットゼロ5分野を組み合わせ、既存事業のアセット・ネットワーク・技術等のシナジーを追求します。

さらに、当社が石油・天然ガス事業で長年培ってきた技術基盤をクリーンエネルギー技術に転用・応用するため、新技術開発機関「I-RHEX(INPEX Research Hub for Energy Transformation)」を当社の技術研究所内に設立。水素・CCUS、再生可能エネルギーとカーボンリサイクルなど、EX(エネルギー転換:Energy Transformation)を加速させるための先端技術の獲得や開発を進めます。

――エネルギーや地球環境保全は世界中から注目される領域です。貴社が果たすべき役割などをどのようにお考えでしょうか。

上田 今年2月に、世界有数の総合的なサステナビリティ格付「S&P Global Sustainability Awards 2022」で、当社が「Yearbook Member 2022」に選定されました。経済・環境・社会(ESG)の3つの側面から当社の持続可能性が評価されたことになります。

今後も、石油・天然ガスから水素、再生エネルギー電力まで、多様でクリーンなエネルギーを安定供給するとともに、エネルギー転換期をリードするパイオニアとして、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。

上田隆之 Takayuki UEDA  
東京大学法学部卒、米ワシントン州立大学法律学修士。 1980年に通商産業省(現・経済産業省)入省。 通商政策局長、資源エネルギー庁長官、経済産業審議官などを歴任。 国際石油開発帝石(現・INPEX)の副社長執行役員などを経て2018年6月より現職

INPEXについて詳しくはこちら

お問い合わせ