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官が主導する業界再編はやめたほうがいい 事業を行いやすい制度設計こそが官の本分

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またぞろ、業界再編を主導しようという官の動きが活発化しているようだ。

8月、英フィナンシャル・タイムズ紙が「日本政府関係者が日産自動車とホンダの経営統合を模索したが、両社が断ったため頓挫した」と報じた。事実を認める証言が取れないまま、その後、ホンダは米ゼネラル・モーターズとの事業提携拡大を発表した。

経営危機の日産と資本提携先のないホンダをまとめて競争力を強化する──。机上の計算では悪くない。ただ、両社の社風を知る関係者であれば100人中100人が「ない」と断言するだろう。万一実現しても、「うまくいくはずがない」と言い切るに違いない。

9月9日には、官製ファンドの産業革新投資機構(JIC)が傘下の新ファンドの設立を決めた。別途立ち上げる予定のファンドと合わせて資金規模は最大4000億円で、1000億円規模の大型投資も想定しているという。

2018年に産業革新機構(現INCJ)を改編して設立されたJIC。所管する経済産業省と当時の経営陣が報酬などをめぐって対立、経営陣側が退任する事件があった。それから1年以上が経過した今年7月に、ベンチャーへ投資する1号ファンドを立ち上げた。

今回の2号ファンドは、業界再編につながる投資を狙う。「真に国際競争力の高い産業構造に転換していくのが(投資の)重要な目的」と、新ファンドの運営会社社長に就いた池内省五氏(元リクルートホールディングス取締役専務執行役員)は意気込む。

確かに、同業界内で複数の日本企業が消耗戦を繰り返し、国際競争力を低下させている側面はある。そのため、再編の必要性は否定しない。だが、その牽引役として官や官製ファンドが乗り出す風潮は危惧せざるをえない。

筋のいい案件なら、民間が主体的に行えばいい。官が強引に関与すれば民業圧迫になる。となれば、官が絡む再編案件は、民間が手を出さない不振企業の救済色がおのずと濃くなる可能性が高い。

JICの横尾敬介社長は新ファンドについて、「救済目的の投資はしない」と明言する。しかし、コロナ禍で経営危機に陥る企業は増えており、雇用や仕入れ先への影響を懸念する政治や官の意向で救済案件を押し付けられる懸念は残る。

官製ファンドはぬるい

そもそも再編案件では、救済なのか競争力向上を狙うものなのか、事前に判別するのは難しい。典型例はINCJが出資してつくったジャパンディスプレイ(JDI)だ。日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶パネル事業を統合し、世界で戦える企業をつくる構想だった。結局、JDIは6期連続最終赤字。INCJは追加投融資を幾度も行う羽目になり、3000億円近くが塩漬けになったままだ。加えて、上場前からの不正会計も露見した。

出資者が官製ファンドだったからJDIが失敗したとするのは強引だ。とはいえ、民間ファンドの元経営者は「各所に配慮せざるをえない官製ファンドはリストラがぬるくなる」と言う。不正会計についてはINCJの圧力が一因と第三者委員会が認定している。官製の看板を背負った大型案件で失敗できないプレッシャーがINCJ側にもあったと関係者は証言する。

事業を行いやすい制度設計こそが官の本分。再編を主導しようなどと思わないほうがいい。ある自動車部品メーカーの社長は、業界再編の必要性は認めつつ「異なる会社を一緒にするのには膨大なエネルギーが要る。経営者の覚悟が必要だ。頭でっかちの役人の出番はない」と断言する。

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