「最初は、共に成長していきましょうという感じだったのだが……」
静岡県で建築用金属の製造加工業を営む会社のS社長は、この1年間に起きたことを振り返り、そうつぶやいた。
「この会社、後継者がいなくて困っているのですが、買ってみませんか」
取引先の金融機関担当者から、ある部品加工会社の買収を持ちかけられたのは、2017年12月のこと。創業者である当時の社長が体調不良のため、退任を望んでいた。しかし、後継者は不在。業績は黒字で、従業員の雇用を維持するためにも事業を継続させたいと考えていた。
担当者とともに同社を視察したS社長は、「工場では40年ほど前の、まるで骨董品のような機械を使っていた。社用の携帯電話もなく、パソコンも経理の机に1台あるだけ。この状態で利益を出せているのなら、やりようによっては業績を大きく伸ばせるかもしれない」と感じたという。
事業承継を前向きに考え始めた矢先の18年2月、創業社長が死去。買収交渉は金融機関の担当者が間に入る形で、残されたリーダー格の従業員とS社長とで進めることになった。
資産査定(デューデリジェンス)を無事に済ませ、株式譲渡契約を締結したのは19年9月。S社長の初めての事業承継M&Aが実現した。
ところが買収成立後、思わぬ事態が立て続けに起きる。
1つ目は従業員トラブル。外国籍の若い従業員の一人が作業中に指をケガしたのだ。
「本人はひどく痛がり、もうこの仕事は続けられないと主張しているようだった。会社を辞めることを前提に話をしているように見えたため、『では、退職の方向で考えましょう』と伝えた」(S社長)
その従業員は、日本語のやり取りもスムーズにはいっていなかった。するとある日、ユニオンから「不当解雇だ」という通知がS社長の元へ届く。弁護士を交えたユニオンメンバーとの話し合いの席を設けたが、「ユニオンとの交渉など経験したこともなく、反論してもまったく歯が立たなかった」(S社長)。
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