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公的年金に学ぶリスクコミュニケーションの改善法 「42万人死亡」は過大だった?

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写真はイメージです(8x10/PIXTA)

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週刊東洋経済 2020年7/18号
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厚生労働省クラスター対策班の西浦博・北海道大学教授は4月15日、「何の対策もしなかった場合、約85万人が重篤になり、そのうち約42万人が死亡するおそれがある。ただし人の接触を大幅に制限すれば、流行は止められる」と公表した。これに対し、現状では死亡者は900人台であるため、「試算は過大で恐怖心をあおった」と批判されている。

専門家と国民とのリスクコミュニケーションの難しさが改めてクローズアップされているわけだが、今後の改善を考えた場合、参考となる事例がある。将来リスクをめぐって長年、専門家が苦労し工夫を重ねたのが公的年金制度だ。そこでは2つの改善策が示唆される。

1つはリスクを伝える際には複数のシナリオを提示することだ。政府は一般に財政推計などでメインとサブの2つのシナリオを提示するが、公的年金では6〜8つもの経済前提の下でそれぞれの将来給付水準を試算・公表している。年金制度に批判的な人たちの要求を受け、より厳しい経済前提を加えたためだ。だがそれ以降、試算への批判は減った。異なった意見や利害が存在する分野では、幅広のシナリオ提示が必要なようだ。

「42万人死亡」の推計では、西浦氏は前提として基本再生産数(免疫ゼロ、対策ゼロの下で1人の感染者が生み出す2次感染者数)を欧米並みの2.5と仮定した。だが、今後はより低い数値を含めて幅広の前提でシナリオを示すほうがベターだろう。

もう1つは、試算の説明の仕方だ。年金推計も西浦氏の推計と同様、「何の制度改革もしなかった場合」の将来給付水準をまず示し、そのうえでどのような改革を行えばどれくらい値が改善するかを示す2段構えだ。しかしメディアの多くは「何もしなかった場合」の低い給付を扇動的に報道する。そのため、厚労省はそうしたバイアスを予測して改革による改善効果を強調する形に公表方法を修正した。

西浦氏も本来、接触削減の効果に力点を置きたかったはずだが、「何もしなかった場合」の42万人死亡だけが独り歩きした感がある。時間的制約が厳しい感染症対策だが、コロナの知見も増える中で今後の公表方法には工夫の余地がある。

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