欧州の銀行秩序を揺さぶるフランスの独自路線 フランスがバーゼルの規制枠組みから離脱も
欧州連合(EU)離脱後の英国は「テムズ川のシンガポール」となって規制緩和の道を突き進む──。そんな見方が浮上して久しい。だが、金融規制に関する限り、欧州の足並みは英離脱(ブレグジット)よりも、むしろフランスが原因で乱れることになるのではないか。
「テムズ川のシンガポール」というのは、英国が規制の緩い低税率国となって規制の重いユーロ圏を出し抜く未来だ。2年ほど前に当時のハモンド英財務相が持ち出した構想で、狙いはEUから好意的な離脱協定案を引き出すことにあった。要は駆け引きの材料だ。
だが、シンガポールを「規制緩和の楽園」に例えるのは現実にそぐわない。シンガポールの規制がどれだけ厳しいか、あの国でガムを捨てようとしたことのある人ならご存じのはずだ(編集部注:同国ではガムの持ち込みすら禁止されている)。シンガポールが経済的に大成功できたのは、国家が隙なく統制してきた面が大きい。
確かにシンガポールは税率も、公的支出のレベルも低い。ただ、英政府は公的支出の拡大を公約としており、先日の総選挙でも保守党と労働党の2大政党は「製造業をよみがえらせる」という懐古趣味的な政策を売り物にしていた。いずれも「テムズ川のシンガポール」とは矛盾する動きである。
それでも、EU離脱後の英国が金融規制緩和を武器に競争力を高めてくるというシナリオは、大陸側では説得力を持って受け止められている。欧州委員会で金融分野を担当するドムブロフスキス委員は英国にこうクギを刺した。EUのルールを逸脱して、EU市場へのアクセス権を維持できると期待してはならない──。規制緩和を思いとどまれ、という警告だ。
このような見方は、ロンドンの銀行界からすると違和感がある。私の知る限り、英国では銀行資本規制のさらなる強化を求める声はあっても、大規模な規制緩和を求める動きはない。米国の銀行規制はすでに緩和方向へとバランスが逆転しつつあるが、英国ではまだそのような兆候は出ていない。
銀行財務の健全性を示す中核的自己資本(ティア1)比率を見ても、英主要銀行の平均は15%を上回る。これはユーロ圏の平均よりも高い。さらに近頃の英国では、政治家も銀行の耳に心地よい言葉を口にすることはなくなった。
規制緩和を叫ぶフランス
だが、そうした英国の政治家とは対照的に、フランスのルメール経済・財務相は競争力向上の観点から銀行の自己資本規制緩和に前向きな姿勢を示している。「これらの規制は行き過ぎだ」。同氏は最近そう語り、国際的な銀行自己資本規制のバーゼル3は「緩められなければならない」と明言した。
なるほど、「米国の銀行は欧州の銀行ほど厳しい規制にさらされていない」という主張には一理ある。とはいえ、このままだとルメール氏はドムブロフスキス氏との衝突が避けられないように見える。「EUはバーゼル3の忠実な実行を約束する」というのが、EUで金融規制を取り仕切るドムブロフスキス氏の立場だからだ。
バーゼル3に関する限り、英国とEUの足並みはそろっている。だが、どうやらフランスはそうではない。ということは、欧州の金融秩序にとっては、フランスがバーゼルの規制枠組みから離脱する一種の“フレグジット”のほうが、ブレグジットよりも深刻な脅威であるように思われてならない。
フランスでは少し前にマクロン大統領が北大西洋条約機構(NATO)を「脳死状態」と断じ、波紋を広げた。バーゼル銀行監督委員会についても、フランスは同様の宣告を下す腹を固めたのではないか。






















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